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「クリスマスっていうのはキリストの誕生日であってカップルがイチャイチャするようなイベントではないと兄は思う。大体、ここは日本。仏教の国ですけど?なんですか、クリスマスって。いつからこの国はキリスト教に染まったんですか?それにクリスマスとは恋人とかいうやましい関係ではなく、家族と慎ましやかに過ごす日でしょうが。欧米では、クリスマスの日にヤドリギを室内に飾り、その下で出会った男女はキスをしてもよいとする習慣がありますが、ここは欧米ではない。それに無意味にイチャイチャすんな。特に石川。ちょっと自分に彼女が出来たからと言って親友をないがしろにするような薄情者。いいか?クリスマスとか恋人と過ごしたり、意中の相手を誘うっていうのは下心だと思え。男の見え透いた欲望とか、女に至っては八割がたタカリだからな。騙されるな。お兄ちゃんは何ももとを責めてるとかじゃなくて、立派な子に育ってほしくてだなぁ。将来、もとが悪い男に捕まって悲しい思いをしないように今からこうやって言っているわけであって」

「つまり、アレでしょ?お兄ちゃんはクリスマスを一緒に過ごす相手が居ないと」


基子は切り捨てるように吐き捨てた。


いや、そうだけどさぁ!!
そうなんだけど、少しくらい言い方ってものがあるよね!?

机を叩きつけるようにしていた井浦を蔑むような目で見ていた基子は何か思い出したのか、井浦にそっと声を掛けた。

「あ、お兄ちゃん。クリスマス、何処か出掛ける予定ない?」
「え…何?クリスマス、一緒に過ごす相手が居ないと切り捨てて置きながら、俺が当日、何処かに出掛けると?」

「友達とか居るでしょ」
「その友達が彼女たちと楽しく過ごす日ですが、何か?」

やばっ、ちょ、目頭が熱くなってきた。

「もう、一人でもいいから出掛けてよ!!」
「嫌だよ!!つか、なんでそんな居場所のない兄に追い討ちかけようとしてんの?」
「べ、別にいいでしょ!!」
顔を真っ赤にして否定してくる基子。
そんな妹の気配を鋭く(目敏く)察知した井浦は目を細めた。

「彼氏か?少なくとも友人はないとして…デコロック」
「デコロックじゃなくて北原くん!!」

友人はないという井浦の言葉をスルーして北原。
あんな奴の何処がいいんだ。
我が妹ながら、理解に苦しむ。

「うへぇ…北原来んのー?来なくていいって断っといて」
「お兄ちゃんは関係ないでしょ!!それに…き、北原くんだけじゃないし…」

もじもじごにょごにょと語尾を濁らす基子に違和感、北原だけじゃないと。
つまり、


「お、おまっ…友達居たの!?」


「悪かったわね!!」


バシンと乾いた音が響いたのはまた別の話。



当日。

「あーもうっ!!お兄ちゃん本当、出ていって!!」

基子は異様にピリピリしていた。
初めて友人を家に招くんだ、仕方あるまい。
だから、といって兄にその口の聞き方はどうなんだと井浦は思った。

「もと、悪いけど本当、用事入ったから少し出てるわ。多分、帰り遅くなるから友達には何だったら兄ちゃんの部屋を使ってもいいから泊まってもらいなさい。んじゃ、いってきます」

少し兄らしいことを言ったんじゃないでしょうか。
内心、ちょっとほくほくとしながら家を出た。
唖然としていた基子を放置して。
これから合コンの予定、ムードメイカーとしてお呼びが掛かったわけだ。
ラッキーといえば、ラッキー。

なんて、早めに家を出て直ぐの曲がり角。
デコロックらしき影を発見、奴も超早かった。

反対側を見ると基子と同じくらいの年齢であろう女子が目を輝かせて此方を見ていた。
最近の子はかなり早いと記憶しておこうと携帯をみると俺はガックリと項垂れた。



「井浦さんのお兄さんなんですか!?超身長高い!!つーか、井浦さんにめっちゃ似てる!!」

状況説明。
秋津さんと愉快な仲間たち。
井浦、モテ期到来中。
数名、男子が混じってますが。
ちなみに時間は健全な彼らに相応しい時間で不規則な俺の物差しとは違っていたようだ。

しかし、うちの井浦さんは一体、どんなパーティーを開こうとしていたんでしょうかね、はっはっはっ。
……狭い我が家にそんな人数入るわけがないじゃんね。

「悪いけど、俺、これから…」
「あ、あのっ!!彼女とか居るんですか!?」

にっこり笑って逃亡を図るも失敗。
寧ろ、俺が聞きたい。
彼女って要るんですか?
これから作りに行くんですよ、はっはっはっ。
聞いていいかな。
彼女作るって何?
彼女って何で出来てるん?
粘土?
皆、そんなの持ち運んで喜んでんの?

「あ、お兄さん!」

北原キター!!
デコロック…今日だけはお前を認めてやろう。
そして、出ていけとか言った我が妹に感謝。

「北原」
「はいっ」

思いの外、低くなってしまった声に内心、ビックリした。
そして、頬を僅かに赤らめている北原にドン引きした。
この変態が。

「俺、少し出掛けてくるわ。もとにも言ったけど、狭かったら襖開けていいから」
「ありがとうございます!!」

一語一句全て全力で答えてくれるのは嬉しいのだが、大袈裟すぎる気がしないでもない。

「んじゃ」
「お兄さんは居ないんですか?」
「出掛けるし」

見るからにテンションを下げた北原。
俺は知りませんとか言えたら、どんなに楽だろう。

「まさか…彼女じゃないですよね?」

服の裾をついと引っ張った北原は低い声で囁いた。
基子の友人らを横目で確認。
兄として顔を立てた方がいいのかなぁ。
でも。

「いねぇし。これからコンパ呼ばれてんの。軽いクリスマス会みたいな」

バレる嘘ついても仕方ないよなぁ。
っていう俺の意志をどういう風に捉えたのか、北原は僅かに眉をひそめた。

「断ってください」
「なんで?」

ぷるぷると震えながら、俯いた北原。
バッと顔を上げるとまくし立てるように叫んだ。


「お兄さんにっ……お兄さんに彼女が出来たらどうするんですか!!」



――――――…






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