「ねぇ、井浦」
井浦を抱き起こそうとしている石川に割り込んで、吉川は井浦の顔の横に手をついた。
「なんで、『ごめんなさい』なの?」
「吉川っ!今は、そんなことより――「石川は黙って」
強い口調の吉川に気圧され、石川は渋々と黙った。
井浦は嗚咽を抑え、何かを隠すように顔を腕で覆っていた。
「井浦は被害者なんじゃないの?」
「俺は、井浦のことが好きだよ」
吉川は何の迷いもなく、言い切った。
もとの視線を無視して、秀を見据えた。
「嘘だ、吉川くんは石川が好き」
秀は逃げるように後退りをする。
怖いのか、信じられないのか。
怖いのだ。
もとも秀を守ろうとしているのか、数歩下がる。
「嘘じゃない」
吉川は進んだ。
例え、どんなに最低と罵られようと、自分の気持ちを否定することしか出来ない君たちよりはマシだよ。
小さく唇を噛み締めた。
「悲しいことや辛いことを忘れられない人生は嫌だけど、なかったことにしてしまうより、忘れてしまうよりは素敵だと思うよ」
どんなに歪だろうと、俺たちには過去がある。
過去があるからこそ、今がある。
過去があるから未来があるんじゃないよ、今があるから未来があるんだ。
だったら、俺たちは過去を愛さなきゃいけない。
「俺は馬鹿だから、色んなことをすぐに忘れちゃうけど。楽しいことや嬉しいことは忘れないよ」
でも、辛いこともあった。
事実を否定しちゃ駄目。
忘れていい過去なんて一つもない。
絶対に全部、思い出すから。
「だから、その気持ちに嘘をつくのは良くない」
言わなきゃ伝わんないし、スッキリしないでしょ。
吉川はゆっくりともとに近づくと秀と向かい合うように引っくり返し、肩を押さえた。
「ほら、俺も言ったんだから、弟くんも言わなきゃ」
認められること
それは君のすべて
―――――…