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詰め合わせ


石川

 秀が彼女と別れたと聞いたとき、無意識に安堵する自分がいた。大丈夫と気丈に振る舞う幼馴染の肩を抱きながら心のどこかで喜んでいた。
 純粋無垢な親友の不幸を俺は望んでいたのだ。それに気づいたとき、ぞっとした。まるで否定ができないんだ。そんなことはないと胸を張って言えなかった。俺の失態だよ。

透由

「春は別れの季節だって言ったのは誰だろうね」

 吉川が笑う。組んだ腕から伝わる熱や感触が幸せとは何ぞと問いかけてくる。
「春に分れた奴じゃね」
「そりゃそーだ」
 愉快そうに袖口を口に当て吉川はくつくつと音を上げた。
「なあ」
「なぁに」
「あんま、他の男と仲良くするなって言ったらキモいか?」
 吉川は驚いたように顔をあげ、目を見開いた。
 恋人と呼ぶには頼りない関係の男が恋人面してたら気持ち悪くはないだろうか。しかし、吉川はにんまりと笑うと腕に強く抱きついた。
「キモいね!」
「んなっ」
 はっきりしすぎだろう!
 吉川は続ける。
「でも、これ以上キモくなられても困るから当分はいいよ」

井浦家と堀家

「あ、もうこんな時間」

 堀はそういってノートから顔を上げた。高校受験に向け堀家で勉強をしている基子もつられて顔をあげ、そして思い出したようにマナーモードに設定されていた携帯をみた。
 兄の名前がずらりと並んでいる。まだ終わらないの。母さんが心配してる。北原。晩御飯。迷惑かけてない。何かあった。もしかしてマナーモード。
 もしかしなくてもマナーモードだ。心の中で返信し、堀の方を見ると堀は苦笑いをしていた。
「案外、心配性なのね」
 恥ずかしくて頭を下げた。すると階段の方からとんとんと上がってくる音が聞こえた。
「堀さん、基子ちゃん」
 黒い髪の優しそうな男、堀の彼氏の宮村だ。そちらを向くと宮村は柔和な笑みを浮かべて見せる。
「あのね、今会長が来てるんだけど、」
 ぷるるる、と携帯が鳴る。私のだ。着信。相手はもちろんお兄ちゃん。二人は顔を見合わせ、そして私に電話に出るように促した。一礼、受話器を上げた。
「もしもし、」
『ちょっと、お兄様を蔑ろにしすぎだろ。おかげで北原が入り浸ってたんですけど』
「勉強してたんだからしかたな、……って、き、きき、北原くん来てたの!!?」
『凄い来てた。お前が出てすぐに来て、そんで三十分くらい前までずっといた』
「なんで教えてくれなかったの!?」
『いや、メールしてたじゃん。電話もかけたし』
「もっと確実に教えてよ!」

 電話が終わり一息吐くと堀と宮村が笑っていて、そこが堀家であることを思い出した。途端、電話のくだらなさとあられもない言動をフラッシュバックしてしまい顔が熱くなるのを感じた。
 二人は晩御飯をと誘ってくれたが私はいたたまれなさと、それからどうせ途中まで出向いてるのであろう兄を思う浮かべ、丁重に辞退した。


宮進、暗いしドメスティックな話なので注意


 昔、学校で失神ゲームというものが流行っていた。実に悪趣味で身の程を弁えないその遊びを進藤は馬鹿馬鹿しいと笑った。
 進藤は煙草を吸う。未成年の癖に身の程を弁えないで馬鹿馬鹿しいとは思わないのかと尋ねたら、馬鹿馬鹿しいからやってるんだと笑った。
 進藤の首を絞め、進藤の喉が跳ねるのを見た。手を離すと進藤は大きく噎せ、深呼吸を繰り返す。
 俺は進藤の胸ぐらを掴みあげ、顔を起こさせると強く胸を叩いた。ビクッと進藤の身体が揺れた。
 ああ、本当だ。本当に馬鹿馬鹿しい。馬鹿馬鹿しくて止められない。


コミカライズでは進藤に修正が入ってましたね。







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