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 嗚呼、倒れてしまいそうだ。

 どんなに空元気に振る舞ったとしても無くなることのない気だるさ。井浦はぼぅ、とする思考回路を覚醒させようと席を立つ。
 途中、須田が何かを言っていたような気もするししなかったような気もする。ただ今は顔を洗って、それから……それから、何をしよう?



 ふわふわと舞うような意識の断片を握り締めると急速に現実に引き戻されるような気がした。

「ん……ぅ、」

 目蓋を開ける。寝ていたのか、いつの間に眠ってしまったのだろう。靄が掛かった視界で回りを見渡す。白、やや黄ばんだカーテンの色。僅かに薬品臭い。
 柔らかなシーツの感触を指で感じながら上半身を起こそうとすると頭がずきりと痛み、思わずぐっと呻いてしまう。身体を二つ折りの状態に倒すと奥の方からかたん、と音がした。
 誰、誰かいるのだろうか。カーテンの向こうを前屈の体勢で見つめながら額に手を当てる。熱いけど寒い。久しく掛かっていなかったがそれが風邪であることは一目瞭然だった。石川辺りが聞いたら凄く怒るんだろうなぁ、そう考えているとカーテンが控えめに開けられた。

「あ、」

 綾崎さんの桃よりも淡いアンシンメトリーの髪がさらりと揺れる。整った小さな顔の、切れ長の瞳が此方を見つめ、またカーテンの奥へと戻っていく。カーテンの向こう側では何かカチャカチャと音がしている。金属、いや、プラスチックだろうか。
 話すのも動くのも怠く、そのままの体勢でいると再びカーテンが開かれる。今度はちゃんとその顔を見ることができた。

「……あかね、」

 そう呼ぶと彼は柔らかく笑い、カーテンの内側へと入ってくる。それから額に手を立て、「まだ熱っぽいですね」と言いながら体温計を手渡した。
 あかね、ともう一度呼ぼうとするが明音は制服をはだけさせるとそこに体温計を差し込み、そのままベッドに身体を沈めさせた。

「寝ていてください。全く、なんでそんなに熱が出るまで放置してたんですか」

 須田君とても心配してましたよ、と明音はやや怒った口調で言う。

「だって、」
「だってじゃありません」

 ぴぴ、と小気味良く鳴る体温計を取り出し、明音は見つめる。

「やっぱり高い。」

 眉間にしわを寄せる顔でさえ、流石というべきか怖いくらいに整っている。

「家の人、いますか?」

 一瞬、なんのことか分からなかったが直ぐにそれが早退のことだと悟った。家には祖父がいるだろうが、学校まで来て帰れるとも思えないし、下手に心配をかけたくもない。首を横に振ると明音はそうですか、と言い、またカーテンの向こう側へと姿を消した。
 なんだろう。なんだっけ。よく分からないけど、寒い。目を閉じるとあっという間に睡魔が押し寄せてきた。
 目が覚めた時、明音が傍にいてくれたら嬉しいかもしれないな。

風邪心地


 カーテンを開けると井浦くんはすうすうと寝息を立てていた。早退の紙と、それから二人分の鞄をベッドの下に置いて、先生の椅子をベッドの横まで移動させる。椅子に腰を下ろすと井浦くんの寝顔を見つめながら時計を見た。
 井浦くんが起きたら、何と告げようか。







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