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もと、頑張って。
頑張って、幸せになって。

「秀、居る?」

あの頃、まだ私は気づいてなかった。
ただ、彼氏と一緒に居るだけで幸せになったような気がしてた。
彼は私を愛してくれるし、私も彼を愛している。
どうせ、高校生の恋なんて長続きしないんだから、今だけは本気で恋をしよう。
疲れて終わって、勝手に満足しよう。
なんて、馬鹿なことを考えていた。
もとも分かってくれてると思ってたし、認めてくれると信じてた。

でも、だからこそ、いまだにあの言葉が胸に突き刺さっている。

「俺、ああいうの好きじゃない」

何となく言ったんだろうけど、似てるって言われてた私と私の彼だったから、彼を否定された時、このまま私も否定されてしまうんじゃないかと怖くなってしまった。
本当の私を知った時、もとは私を拒絶するのだろうか。

そんなことを考えている内に彼と一緒にいるのが辛くなっていて、気が付いたら私は彼に別れ話を切り出していた。

「…ねぇ、別れよう」

深夜、いつも一緒に、年甲斐もなく遊んでいた公園のベンチで彼は目を見開いていた。
ごめん、本当にごめんね。
私はもう疲れたよ。

「…おい、秀、冗談だろ?」

強張った手で肩を掴まれ、大きく揺すられたのを今でも覚えている。
必死に私の言葉を撤回させようという様子に決意すら揺らいでしまう。
でも、だめ。
もうだめなんだよ。
目尻に溜まる何かが溢れてしまいそうで私は首を振った。

「ふざけんなよっ…なんだよ、勝手に!弟か!?あのシスコンになんか言われたのか!?」

逆上した彼は私をベンチに押し倒した。
その際に打ち付けた肩とか頭がズキリと痛んだ。
ぱたんと横に落ちてしまった腕を持ち上げ、彼の肩を押す。

「離してっ…」

言った拍子に目尻から溜まっていた涙が溢れた。
ぼろぼろと勢いよく溢れ出る滴を彼はうっとりと眺め、頬に舌先を伸ばす。

「や、めろっ…!」
「秀、俺と別れるなんて馬鹿なこと言うの止めろよ」
「やだっ!はなせっ!!」

体格差や力の差から私が押し返すことなんて出来なくて、自分が女であることに初めて恐怖を抱いた。
両手が片手でまとめられ、彼の手がゆっくりと服に伸びていくのを涙で歪んだ視界から見送る。

「やだっ…たすけ…」
「なんでっ!なんだよ、秀!なんで、俺を拒絶するんだよ!!受け入れろよ!!」

服に触れるか、触れないかの位置で彼は拳を握り締めると井浦の頬を張った。

バシンッという乾いた音が深夜の公園に響く。

じわじわと熱を帯びていく頬に唖然と彼に目を向ければ、気まずそうに目を逸らした。

「な、に…」


「秀!?…そこ、何してんだ!!」


彼が僅かに口を開きかけた瞬間、遠くから声が聞こえた。
石川だ。
塾の帰りかな。

「チッ…」

小さな舌打ちを残すと彼は足早にその場を後にした。

「おいっ!!待て!!」
「待って、透。今はあれより井浦が優先でしょ」
「ちくしょうっ!!」

もう一つ。
誰?
あぁ、吉川くんだ。
最近、知り合ったんだっけ。
悪いことしたなぁ。
自由になった両腕で目を覆う。
痛い。

「秀!大丈夫?」
「…痛い」
「井浦、大丈夫?怪我は?何か、やられた?」
「…っ…いたいよっ…」
「秀…」
「ごめんっ…ごめ、なさいっ…」

「ねぇ、井浦」


不条理で冷たい世界


そこにいるだけで君が壊れてしまいそうで、だから、俺は壊れてしまう前に壊してしまいました。


―――――――…







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