「井浦くん、ポッキー食べませんか?」
あかねがそう言ってきたのは放課後、ちょうど皆が帰って、俺もそろそろ帰ろうかなとか思っていた時だった。
「え?ポッキー?」
「今日、クラスの子にもらっていたのを思い出しまして」
「ふーん?そうなんだ」
もう少し早かったら皆で食べられたのにね。
そう言いかけた言葉は何となく見たカレンダーの辺りで止まってしまった。
「ポッキーの日、か」
「流石、パッと見ただけで思い出しちゃいますか」
呟いた一言にあかねはニヤリと笑った。わざと、だな。これは間違いなく。
「ポッキーの日っていえば、定番なのはポッキーゲームですね」
あかねがそんなことを知っていたことに驚いたが、少し前にクラスの女子に漫画を借りたとか何とか言っていたので、おそらくソースはその辺りだろう。今度、あかねに変なことを教えないように言っとかなきゃ。
これ以上、腹黒くなられたら夜と朝が辛いので。
「井浦くん、」
頬にすっと手が触れ、はっと我に返る。正面にはさっきよりもずっと近くにあるあかねの顔。
じっと見つめるその視線が恥ずかしくて、つ、と顔を逸らした。
「駄目、こっちを見て」
くい。あかねの両手が俺の顔を包んで逃がさない。
「…あ、かね」
熱っぽいあかねの瞳が俺に向けられてる。それだけでも腰が重いのに、低い声で「いいですか?」なんて言うんだから、もう俺に拒否権なんてなかった。