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同設定で主従、逆ver(という名の没)



ジル・ド・レェ

ジルの元へ来るはずだったジャンヌという紙様を壊し燃やした言霊師を恨む半面、自身も言霊師であり、言霊を使う立場であることの矛盾に悩む情緒不安定な言霊師。
紙である龍之介を渡されるが、傷の手当てなどを一切受け入れないくらい大切に扱っている。


雨生龍之介

ジャンヌの代わりにジルに渡された紙様。
元々は別の言霊師の紙だったけど、使用者が死んで、余ってたところをジルに回された。
なかなか手を出さず、傷の手当てすらさせてくれないジルにもやもやしながらも、いつかは頼ってくれると信じている。
ジャンヌとは少しだけ話したことがある。





旦那はあまり朝が好きではないらしい。
もっというなら、太陽が嫌いだと言っていた。
俺はあっけらかんとした御天道様は嫌いじゃなかったけど、旦那が嫌いっていうならそれはそれで仕方ないことだと思った。
いつか、旦那と気持ちのいい朝日を浴びれたらなぁ…なんて、ね。




「…ん、」

じわじわと覚醒していく意識に合わせるようにゆっくりと目を開けると、そこには視界一杯に広がる龍之介の柔らかな頭髪。
ぎゅっと両腕で細い矮躯を抱え、互いに抱き合いながら眠りにつくのは今に始まったことではない。
私の胸の上ですがるように握り締められた龍之介の手を眺めながら、背骨をなぞるように優しく撫で上げる。
くすぐったかったのか、ピクリと身動ぎをする龍之介の後頭部に手を回し、より強く抱き締めた。

「…だ、な?」

掠れた声で呟く龍之介。
情事を思わせるその声に思わず反応してしまう息子を必死に宥め、赤子をあやすようトントンと背中を叩いてやると気持ち良さそうに龍之介が息を吐いた。

「あはっ…だんなぁー」

俺、幸せかもしんない。なんて抱き締め返しながら言う龍之介に笑みが深まる。
嗚呼、なんて可愛らしいことでしょう。
朝が嫌いな、太陽が憎い私のために一緒に寝てくださると言った貴方はまさしく私を照らす光だった。
龍之介がもじもじと動きながら、太ももに足を挟んでくる。
そして、私を見上げながら一言。

「ね、旦那。ヤろう?」

私は一息吐きながら、龍之介の足を退かし、距離を置かせる。
無論、答えは。

「駄目です、絶対にいけません」

これは別に私の息子が無能なわけでも、禁欲を主義としているわけでもない。
紙である龍之介が粘膜の接触により人から災厄、つまり私の怪我などを持っていってしまう。
もし、私が無意識に怪我をしている状態で龍之介と交わってしまえば、それは龍之介に移ってしまう。
龍之介が傷ついてしまう。
龍之介を傷付けてしまえば、きっと私は私を赦すことが出来なくなる。
唯一の拠り所を自ら壊してしまうなど、出来ない。
龍之介を傷つけたくないという大義名分に隠れた、自己防衛。
だから、龍之介は敢えて私と交わろうとするのかもしれない。

「だ、だんなぁー!先っぽ!先っぽだけでいいから!もうせっかくだし、フェラだけでもしよーよ、だんなぁー!」

「駄目ったら、駄目です」

聞き分けの悪い子供のように愚図る龍之介の相手をしていたら、切りがないということは実証済みなので無理矢理絡まってくる龍之介を引き剥がし、立ち上がる。
そのまま洗面所で顔を洗い、最低限の身支度を済ませ、再び寝室に戻ると龍之介はまだ諦めが付いてないようだった。

「うわぁあーん!旦那のインポー!けち!そのうち旦那の旦那が使わなすぎて使い物にならなくても雨生龍之介は一切の責任を負いかねるでありますっ!俺は散々心配してあげてるのに!旦那の旦那のことを考えてもヤるべきだよ!ヤろうよ!今すぐにでも旦那の旦那の為にセックスは必要だよ!これって愛だよ!俺の旦那の旦那に対する愛が成せるわざだよ!これを受け取らないでいつセックスするわけさ!俺、別に旦那が童貞でも気にしないし、寧ろ旦那の旦那のデビューに立ち会えるならそれはそれで満足だよ!旦那の旦那だって魔法使いになりたくないに決まってる!旦那の旦那がいつ嫌気が差して使い物にならなくなるか分からないわけじゃん!それこそ神様にだって旦那の旦那…エクスカリバーの気持ちは読めねぇ!勇者よ、今こそ聖剣エクスカリバーを解き放つべき時なのです!旦那のかっけぇエクスカリバー見てぇよ!旦那の旦那だって本当はもっとやんちゃしたいに決まってる!俺、旦那の旦那にならどんなやんちゃされたって構わないっていうか、どんどんやんちゃされたいっていうか、…っ!」

言葉だけでは足りず、
上半身だけを器用に毛布に包み込み、投げ出された足でベッドをしつこく蹴ることで不満を訴えてくる龍之介の足首を左手で掴み、押し曲げてやると龍之介の動きが止まった。
そのまま身体を重ねるようにベッドに膝をつき、龍之介の顔を隠していた毛布を剥ぎ取るように取り上げる。
出てきたのは饒舌だった口調とは異なり、如何にもいじけてますと言わんばかりに頬を膨らませている龍之介の顔だった。
ふっと笑みが溢れ出る。

「余計なお世話です、私のエクスカリバーはまだまだ現役ですので」

「…なら、旦那は俺が好きじゃないから、抱かないんだ」


ぽつりと呟かれた言葉は先ほどよりも大分トーンが低く、気丈に装っていたのが嘘のようだった。
押し曲げたままの足を肩に担ぎ、俯きがちに伏せられた瞳をじっと見つめ、龍之介が此方を向いたのを見計らい、頬に唇を落とした。

「…リュウノスケ、卑屈な貴方はらしくない」
「だって、」

まだ納得していないらしい龍之介の後頭部に手を回し、額や瞼、耳、首筋と触れるだけのキスを落としていく。
少しばかりはだけた鎖骨の辺りを唇でなぞると、感じやすい龍之介の身体がぶるりと震えた。

「…んっ、だんなぁっ…くち、くちにして…ひゃっ…」

首に回される白く細い腕が後ろ髪を撫でるように絡まり、頬を抑え、唇へと導く。
だが、

「……駄目、です」

するりと龍之介の手を退かすと乱れた裾などを正しながら立ち上がる。
ベッドに転がる龍之介の頬は熱に浮かされ、目には僅かばかりの涙が浮かんでいた。

「…旦那の生殺しっ」

恨めしそうな視線を無視しながら机の上の時計を確認し、今日のスケジュールを思い出しながら、龍之介の服を取り出して渡す。

「リュウノスケ、視姦でよろしかったら幾らでも付き合いますので早く着替えてください」
「やーだー!フェラじゃなきゃ、絶対に着替えねぇ!」
「…リュウノスケ」
「…や、だ」
「………」
「……だって、…」
「………」
「………」
「……リュウノスケ」
「…だんなが、……旦那がエグいキスしてくれたら…着替える」
「……、」
「ねぇ、だんな…キスもダメなの?」

ベッドから上体を起こし、濡れた瞳で見つめてくる龍之介に諦めや折れるといった単語がないことに溜め息を吐いた。
今にも泣き出しそうな龍之介の可愛らしいお願いを無下には出来ない。
だが、私に龍之介と交わる勇気はあるのか、分からない。
意を決し、龍之介の薄い肩に手をかけると龍之介は嬉しそうに目を細めた。
果たして、本当にこれで良いものか。
一巡し、身を屈め、顔を近づけると龍之介の綺麗な黒い瞳がうっとりと細められていることに気がついた。
自然と此方の頬が緩むのを感じた。
別に大怪我をしているわけではないのだ、少しくらいなら大丈夫だろう、そう自身に言い聞かせ、龍之介の柔らかな唇に触れる。
互いの感触を楽しむように暫し触れ合い、どちらからともなくゆっくりと開かれた隙間に舌を入れようとしていた時、

『ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー』

携帯がけたたましく鳴り響いた。

「…失礼、」

龍之介から身体を離し、枕元に放置したままだった携帯を手に取り、通話のボタンを押す。

やっとの決心を邪魔された苛立ちと、なんとか踏み留まれた安堵が混ざり合い、横目で見た龍之介の今までにないくらいの不機嫌そうな顔に苦笑いが生まれた。
頭を軽く撫でてやるとじと目で此方を睨み、べぇーっと舌を出し、洗面所へと駆けていく。
はて、どうしたものか。
電話の対応をしながら頭を悩ます。
この分だと、暫くは機嫌が直らないとみていいだろう。

「………笑っている場合ではありませんね……あ、いえ、此方の話です」








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