※戦車男を見てきた話
「いやー面白かったねー」
四月のエイプリルフール企画からまさかの映画化が決まった戦車男。
ジル・ド・レェは企画が起きた当初からのファンであり、映画をずっと心待ちにしていたようだった。
映画館で見た戦車男は期待していたものを大きく越えてみせ、こうして帰路についている今も熱く語り合っているわけだが。
映画を心待ちにしていた筈の彼は映画館を出た時からずっと上の空といった様子で龍之介の言葉に反応することはなかった。
それでもいつかは合いの手を入れてくれるんじゃないだろうかと話題を絶やさない龍之介の健気な気遣いにジルはゆっくりと心の整理をしていく。
「リュウノスケ」
「ん?」
やっと口を開いてくれたジルに龍之介は機嫌良く聞き返す。
「1号と2号は結ばれるのでしょうか…」
「は、」
ぼそりと呟かれた言葉は劇中に登場しているスレ民の犯罪者1号と2号を指していることは分かるが、結ばれるとは一体。
理解できず首を傾げる龍之介にジルは続ける。
「あの二人は本物の犯罪者なのでしょうか?だとしたら、」
結ばれないのではないのではないか。
そんなことを思い詰めたように言うジルに龍之介は愛しさを覚えた。
何を必死に考えているのかと思えば、
「1号って旦那似だったよね」
「そうですか?ならば、2号はリュウノスケですね」
「あー2号の名前って龍ちゃんだっけ。じゃあ、俺も旦那のこと旦那って呼ぼうかなぁ」
「すでに呼んでいるじゃありませんか」
「あはははー」
旦那は旦那。
ずっと前から旦那である。
どうして旦那って呼び始めたのかは忘れたが、ジルさんっていうのはなんか言いにくいのだ。
「ま、例え結ばれなかったとしても1号も2号も幸せだったと思うよ」
どうして、そう思われるのですか?と問いかけるジルに龍之介は迷うことなく答える。
なんだ、旦那はそんなことも分からないのか。
意外と抜けてるとこあるからなぁ。
「だって、俺は旦那と一緒にいられるだけで嬉しいんだよ」
そりゃ、もう1号と2号も同じに決まってらぁ。
砕けた口調の龍之介に言葉が汚いと注意するジルの顔は先ほどまでの思い詰めたものとは違っていた。
求めていた解を見つけられた時の幸福感を噛み締めるようにジルは笑うのだ。
嗚呼、きっと幸せとは私の隣にあるのでしょう。
「明日は何しよっか」
「リュウノスケ、明日は仕事の日ですよ」