main | ナノ






※龍ちゃんが腹を裂いちゃう話


「うおっ…」

人を呪わば穴二つ。
人を呪う道を選んでしまった者に安息は来ない。
雨生龍之介が一生涯背負い続ける業だと雨生家の次期当主候補である姉は俺が出家する際、言ってみせた。
可愛い弟が出ていくというのに、そりゃねぇよ、なんて軽口を叩いた記憶があるが、実際俺もそうだと思った。

言霊を使った後、必ずといっていいほど返ってくる痛みになれることはない。
何度、腹を裂かれ、腕を飛ばされたとしても俺から溢れる赤の色が変わることはない。
気が遠くなるような痛みと怪我を引き受けてくれる旦那の存在が、紙様と呼ばれるものたちが俺たち言霊師には必要不可欠なのだ。

例えば、そう、今とか。

「だ、なぁ…ごめん、ナいぞ、こボれ、ル」

今回、小規模ながら会社の経営者である依頼主が求めてきたのは大手のライバル会社の会計であり妻の不倫相手の男の不幸。
依頼金から察するに自暴自棄となっているらしく、暫くしたら依頼主も不幸になることだろう。
だが、現時点でこの不幸の反動を買うのは俺。
見た目に反して、それほど深くはなく鮮やかな切り口であるそれは腹を横に凪ぐように開いており、気を抜くと内臓が溢れてしまうんじゃないかって思ってしまう。
当然、逆流した血が喉を通り、ど派手に口から吐き出された。
真っ赤に染まった口元と腹部、それと傷口を押さえている右腕を見ながら下手なB級映画よりはましだなと客観的な意見を下し、旦那の姿を探す。
やばい、これは血が足りないかも。

ぼやけた視界に意識が遠退く。
ふらりと体を傾かせると、大きな手に抱き止められた。

「…だ、な…?」

ぼんやりと見える旦那の輪郭はちょっとだけ笑っているように見えて、あぁ…なんだ、わざとかって安心した。
旦那も意地が悪いことを。

重ねられる唇に身を任せ、ゆっくりと意識を手放した。




「リュウノスケ、リュウノスケ」

ゆさゆさと体を揺さぶられる感覚に意識が覚醒していく。

「ん…」

目を開けるとそこには大きな、ぎょろ目のCOOLな旦那がいた。

「…ここは、」
「その格好の貴方を連れて歩くわけにはいかないので、今は貯水槽ですが、直に雁夜が迎えにきます。それまでどうか我慢を」

「うん」

そうだ、腹、裂かれたんだっけ。
すっかり血の乾いてしまった衣類の下にもう傷口は残ってないと分かっていても触って確認してしまう。
そんな俺の様子を旦那はじっと見つめていた。
不備がないか確認しているのだろう。
旦那は心配性だなぁ。

あー…喉に貼り付いた血が凄い詰まる。
口の中もなんか変な感じするし、お湯で一回ゆすぎたいかも。
きっとあたふたするだろうから旦那には絶対に言わないけど。

「リュウノスケ」
「なぁに?」

旦那の長い爪が頬に触れ、そしてゆっくりと下に降りていき顎を掬った。
そのまま旦那の顔が近づき、啄むようなキスを数度繰り返し、どちらかともなく口を開き、深い口付けを交わしていく。

「…んっ、ふぅ…んぅ」

歯茎や上顎を舌で巧みに愛撫され、時折忘れたように吸われる舌に上手く呼吸が出来ず、鼻から抜けるような息を吐いた。
旦那から送られてくる唾液を飲み込みきれず、端から溢してしまい、顎から伝い落ちるのを感じる。
だんだんと苦しくなっていく息に耐えきれず目の縁から涙が零れ落ち、すがるように旦那の首に腕を回した。

「…ぁ、ふっ…んっぷはぁっ…はぁっ…」

血の味がする。
旦那と口を離し、思ったのはそんなことだった。
息が苦しい、旦那はキスが上手い、今すごいエロい顔してる、なんてことが次々に浮かんでは消え、ぼやけてしまった視界に旦那だけがはっきりと映る。

「気分はどうですか?」

にんまりと笑う旦那の悪そうな笑顔に口角が上がってしまうのを隠せない。

そりゃ、もう

「甘いったらないよ」





「雁夜、龍之介が動けないと聞いたのですが」

腹を裂かれ、服を真っ赤に汚してしまったので動けないとジル・ド・レェから要請があり、留守にしている他の術師の代わりに迎えに出ている雁夜であるが、途中セイバーと遭遇していた。
どうやら、切嗣から話を聞いているらしい神妙な顔つきで此方を見ているが、どう考えても切嗣の思惑であろう。

「あぁ、今向かっているところだよ」

雨生の着替えの入ったバックを肩にかけ直しながら言うとセイバーは頷きながら、俺の手を取り、あの小さなチョコの入ったどら焼のようなものが三つ入っているポップな絵柄のお菓子をご存じだろうか、それを手のひらに乗せてきた。

「これを、龍之介に渡してやってください。この間の貸しだと。きっとすぐに元気になります」

自称騎士王のドヤ顔に内心、それはお前だけだと突っ込みを入れた。








「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -