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「ありがと」

小さく呟いた。


ふふ…変だなぁ。
なんで、こんなに辛いんだろ。
去っていく鬼灯の後ろ姿を眺める。きっと帰って来ない。馬鹿だよなぁ、ホオズキなんてないのに。気づかれたかな。どうでもいいや。ただ、今は眠い。凄く眠いんだ。
寝たら終わるの?
僕は消えちゃうの?
もう鬼灯と喧嘩もできないの?
顔を見ることは愚か、僕はもう声を聞くことすら出来ないんだ。そして鬼灯も新しい白澤と仲良くして…、やがて僕のことなんか忘れてしまう。

「や、だなっ…」

消えたくない。死にたくない。まだまだ鬼灯と一緒にいたい。いたい。いたいよ。ずっとずっと。ねぇ、嗚呼、言葉に出来ない。言葉が出てこないや。もう、消えるみたい。
いつくもの滴が頬を降っていく。暖かくて、冷たい。







ぽたり。


ぽつり。


頬に暖かいものが触れる。水だろうか。それと手のようなもの。目を開けるのも億劫でされるがまま流れに身を任せる。

『嘘つき…消えないのではなかったのですか』

知らない。僕はもう何も知らないんだ。

かたん、と小さな音がして指先に触れた。なんだろう。

『白豚さん、白豚さん』

違う。それは間違ってるぞ。眉間にシワが寄ったような気がした。

『淫乱、下戸、極楽とんぼ』

むかつく。それ、悪口だよ?
もっと感傷に浸れよ。

『ウサギ可愛いです、ウナギと一字違うだけでこんなに違うんですか』

関係なくない!?思わず、拳を握り締める。ふるふると小刻みに震える。

『嗚呼、オーストラリアにもう一回行きたいですね』

行けよ!!カッと目を見開き、周りを見渡した。……いない。上体をゆっくりと起こすと凄く体が軽く感じた。

『オーストリアにカンガルーはいないそうです』

立ち上がり、三角巾を結び直すと扉の方へ歩く。
そういえば、手に握り締められていた果実。あの中身を出して空気を出し入れして遊ぶと蛙のような音がでるアレ、毒があるんで注意です。
僕の大嫌いな奴と同じ名前なので良い子の皆は伏せ字を使って隠語みたいにして話そう!なんとなくポケットに仕舞い、勢い良く扉を開こうとするが何故か動かない。ガスガスと数回くらい扉をぶつけてみると不意に扉が軽くなり、やっぱり何かにぶつかった。

まぁ、今回はなんか扉に穴が空いたんだけどさ。ちょうど鬼の角くらいの額くらいの場所に。

「…何やってんの?」
「はく…白豚さん」

驚いたように目を見開く鬼。ポケットからホオズキを取り出すと鬼灯の口に押し入れた。

「バルス(内臓出るまで腹壊せ)」

ポカンとした鬼灯が正気を取り戻さないうちにと扉を閉め、追い出そうとするとギリギリのところで気がついたのか鬼灯が手を挟めてくる。

「ちょ、待って下さい!」
「いーやーでーすぅ!!」

殺されたくない!死にたくないよ!!
扉がミシミシと嫌な音を立てる。ごめんね、桃タロー君!

「白澤!」
「…っ!?」

驚いて、パッと手を話すとバキッと音を立てながら中へと侵入してくる。あーあ、桃タロー君に謝れよ。そして金払え。

「もうっ…」
「消えたよ」
「…っ、」
「悪いけど、もういない」

もう君が好きだった白澤は何処にもいないよ。
近くにあった薬を手に取るとラベルを剥がした。特に意味なんてないけど、邪魔だと思った。

「早く帰りな、僕はお前が大嫌いなんだ」


『嫌い、だよ、お前なんかだいきらいだ』


「…私も貴方なんか大嫌いです」


―――――――……



なんか、ですね!
あれ書きたい!これ書きたい!!って思っても特に何も考えないでその時のテンションで書くので話が何転もしちゃうんですね。
とりあえず、最初は『もうすぐ消えてしまう白澤が各地を回り、最終的には鬼灯のところに行って『大嫌いだ』って言って、鬼灯が気づいた時にはもうリセットされてる』みたいなのが書きたかったんですけど、もう原型はないですね。

色々削っていくうちになんか、路線まで削られていて後半は私の理解を越えてました。
実はホオズキの実を持った鬼灯が帰ってきて寝ている白澤にキスを落としながら、私は貴方に伝えてない…とか鬱々としていたり、
白澤が本当は死にたくないと泣いたり、桃タローが寒風摩擦したりするのも考えたんですが、入れるタイミングを逃してしまいました。
多分、白澤が残るって選択肢はあったと思います。
白澤としての知識を捨てたら白澤としての価値というのが消えるので普通に死んでしまうと思うし、ただの妖怪になると思います。
それに白澤の知識じゃなくて、きちんと記憶していたものは消えるわけではないし、それはそれで素敵なんじゃないでしょうか。

立場とかを捨ててしまえる恋愛観、何が正しいくて何が悪いって言われても、やっぱり自分が正しいと思えることが一番なんですよ。
他人の価値観なんて所詮は比較対象でしかないわけですし。
ただ今回の白澤は知識を捨てるのを悪いことだって思っていただけなんで。
なんか、何もなく終わっちゃったなぁ…もっと別の書き方があっただろ!みたいな後悔がうりうりです。
ここまで、ありがとうございました!
以下は私が書き逃したシーンみたいなのです!!




―――――――……



「は、くたく…さん?」

ポトリと赤い果実が床に沈む。目を閉じている彼は出ていった時と変わらぬ姿勢で転がっており、死んでいるのではないかと薄く疑ってしまう。
膝をついて冷たい頬を撫でる。消えないんじゃなかったんですか?首筋から輪郭に沿って指を動かし、顔を近づける。
嗚呼、そういえば言い忘れてたことがあるんです。

『××してました』

乾いた唇に唇を重ね、舌を這わす。カサカサとした唇に唾液を塗り、歯列を割り開く。舌をいくら絡ませようと応えてくれない唇の端から僅かに溢れた唾液が頬を濡らした。






――――――………



この話は支部に投稿したものに修正を加えたものです。








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