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井浦さんは泣きません。

恥ずかしながら、昔っから末っ子で兄貴には泣かされっぱなしだった俺には少しだけ泣き癖のようなものがある。人よりちょっと涙腺が緩い。カッとなったりすると涙が溢れてしまうのだ。

「…すみ、まぜんっ…ひっぐ…」

溢れてしまうそれをコントロールすることが出来ないから。感情的にならないようにと気を付けていたのだが、どうにも俺はこの人に弱いようで。

「あー…谷原くん、大丈夫?」

慰めるようにポンポンと頭を撫でられると、余計勢いを増していく。恥ずかしくなって何度も目を擦るけれど、全然意味を成してはくれない。

「…ぅう゛…俺、全然駄目ですね…っ、格好悪くてっ…」
「でも、俺はそんな谷原くんも好きだけどな」
「えっ…」

それはどういう…。まさか、こんな弱い俺を見て優越感とか…?いやいや、井浦さんに限ってそんなことあるはずがない。
変にネガティブな俺は直ぐ悪い方に考えてしまう。真っ青になる俺を井浦さんは微笑ましそうに見つめる。いや、見つめないでくださいよ。

「俺さ、お兄ちゃんだったから泣いちゃダメってずっと言われてた」
「……?」

ずび、鼻を啜る音に井浦さんがティッシュをくれた。申し訳ない。

「なんかさ、小さい時の癖であんま泣けないんだよね。人前とかじゃ特に」

当たり前じゃないですか。俺だって人前とかじゃ泣きたくないですよ。なんて視線で訴えてみると井浦さんは肩を竦め、笑ってみせた。
それから俺の頬を撫でながら額に優しく唇を落とした。

「ほら、泣き止んで」



というやりとりをしたのが三ヶ月くらい前である。

井浦さんの妹…会ったことはないけど井浦さんより頭が良いらしい。その妹が受験に落ちたとメールが送られた時、思い出したのは泣けないと言った井浦さんの顔だった。
彼は人に負の感情を見せないから溜め込んでるんじゃないか、なんて。

『今、何処にいますか?』

頭が判断するよりも前にメールを送った。脳が理解するよりも早く学校を飛び出していた。

どこどこどこ!!!

返って来ないメールを携帯を握り締めながら睨み付けた。言ってくれなきゃ、教えてくれなきゃ、分からない。それが何よりも悔しい。

「…はぁ…はぁっ…あ、」

肩で息をしながら呼吸を整えながら携帯の画面を確認すると受信箱に一通、メールが来てた。

『今日、登校日なんですけど

まぁ…授業、出てないからいいけど

で、どうしたの?』

井浦さんらしい飾り気のないメール。前に一度、意外ですねって言ったら手紙とかが苦手なんだと笑っていた。でも、そんなところも彼らしくて、どうしようもないくらい愛しく思えた。
自分は所謂、井浦さんにぞっこんなのだ。

『会いたいです』




それを見た瞬間、ぎゅうっと心臓を鷲掴みされたみたいに痛くなった。俺、今泣いてたから見られたくないんだけど。
でも、

『俺も』

会いたいよ?

早く来て、なんて強く願うくせに場所を教えようとしない、ちぐはぐ。
ただ彼の優しさをもう少しだけ独占していたかった。








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