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『早く来て、』



バタバタと慌ただしく廊下を走る音がリビングまで聞こえ、甥である京平の帰りを告げていた。
この様子だと遊びに行く約束でもしているのであろう。
時計の針を見つめ、有菜はまだ来ないのかと携帯に視線を落とした。

「…バイバイ」

呟いた一言はテレビの復唱。
犯人は貴方です、どうして、あぁ馬鹿な。
テンプレートで繰り返されるやり取りをただ見つめているのもだんだんと飽きてくる。
例えば、例えばだ。
今ここで有菜はさようなら、なんて送ったら有菜はなんて取るんだろう。
そんな小さな好奇心。
きっとあの馬鹿は真に受けて、ちょっと距離を置こうとか考えたりするんだろうな。
でも、

「そんなの冗談でも言えるわけないじゃん」

俺はそれ以上にあの馬鹿のことが好きらしい。
携帯をソファーに投げるとそのままぼふんと横に転がった。
時計の針は未だ変わらぬ時刻を指していて悔しくなる。

嗚呼、早く有菜に会いたい。



―――――…








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