日本の夏は蒸し暑い。
じめじめするというか、いらいらするというか。
いつもは気にならない些細なことすら、頭に来てしまうのだ。
「ちょっと、中峰先生!」
例えば、目の前を歩く白衣が視界の端に映るのが不愉快。
「あれ、安田先生じゃないですか」
例えば、気の抜けたようなヘラヘラとした間抜けな天然パーマがムカつく。
「どうしたんですか?」
俺と話すとき、ちょっと前屈みになる眼鏡が腹立つ。
「いえ、別に」
特に用事もないのに話し掛けるとか、そもそも目の前を歩いていた中峰先生が悪い。
よってムカつく。
「あ、そうだ。実は新しいソフト買ったんですよ。先生、このあと一緒にどうです?」
得意気に指をピコピコと動かす様が気に障る。
絶対に負けないという王者の顔だ。
「仕方ないから付き合ってあげます」
別に一緒に過ごす相手がいないわけではないが、全く心当たりがない。
中峰先生のせいだ。
苛々する。
「あはははー安田先生は本当に面白い人だなぁ」
何故、笑う。
気に入らない。
「中峰先生って本当、ムカつきますよね」
「あはははー」
そして嫌味が通じない。
ムカつく。
ムカつくけど、よくよく考えたら、これは夏限定じゃなかった。
「中峰先生、彼女できたら自爆してくださいね」
「早く素敵な人が見つかるといいですねー」
「余計なお世話です」
嗚呼、やっぱり中峰先生なんて大嫌いだ。