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「石川さんってさぁ、髪が綺麗だよね」

風にふわりと舞うサラサラとした紫の髪。スラッと伸びた背に乱れることなく掛かるそれは彼女の美しさを物語るようだった。
ピンクの適度に整えられた髪を弄りながら前方で友人らと楽しく談笑している石川を目で追いながら、綾崎は楽しそうに笑う。スッとその視線を真横に移し、不機嫌そうな金髪をチラリと伺う。

「俺、結構好きだなぁ」
「綾崎には仙石さんがいるでしょ」

軽い冗談だったとしても、それを冗談だと認めない。触ることすら赦さない。そんな意志が吉川の言葉の端々に滲み出ていた。
一方の綾崎は吉川の反応に火を得た油の如く笑みを深める。

「石川さんがそんなに大事?」
「…違う、そんなんじゃない」

苦虫を潰したように顔を歪めた吉川が忌々しそうに呟く。一体、何が違うというのか。

「大事じゃないの?」
「そういう意味じゃない」

吉川にとって石川は何なのか。大事なのか、大事ではないのか、それすらも明らかにしようとしない態度はもうそれだけで答えと言っても過言ではないというのに。
何故、そうも頑なに結論を簿かしたがるのか。綾崎には全く持って理解も想像も出来ない次元の話だった。
それでも、そんな彼に何かを伝えようとすればもうそれは警告しか残らない。何故なら。

「吉川くん、吉川くん、早く結論を出さないと石川さんは待っていてはくれないんだよ?」




ふざけるな。

嗚呼、違うな。ふざけてはいないんだ。ふざけているのはいつでも俺だ。

結論なんて、俺の中に存在したことはない。

これの一体、何処が真面目だというのか。柳さんに告白された時、断りにくいという理由から透に彼女のフリをしてもらって。もうそれは終わったことだというのに俺はまだごっこ遊びを続けていた。
それは単に透との距離感が心地好かったから。透が隣にいると安心するから。

透を誰にも取られたくなかったから。

これが結論というのだとしても、俺は透との今の関係を壊したくないんだ。



「吉川、」

綾崎が褒めていた紫の髪。俺の好きな色だ。淡い藤にも似た色は大人びた雰囲気と共に安心感を抱かせる。
女性にしてはやや低い声が耳を犯した。

「…吉川?」

首を傾げると横に流れるのとか、肩にかかったのを払う仕草とか、耳にかける仕草とか、全部好きだった。意外と腰とか細くて、柳さんみたいにグラマーじゃないのを実は気にしてるのとか。私服は凄く可愛いのとか、猫が好きなこととか。
全部全部全部知ってる。誰にも取られたくないと思えるくらい。

「透。手、広げて」

両手を広げてみせれば不思議そうな顔をしながらも真似をしてくれる。手を広げたことで見える身体のラインが綺麗で。性的なまでに美しい。
手を広げている透の脇の下に腕を回し、抱き上げた。

「…え、なに」

顔を埋めれば、だいたい胸の真ん中辺り。透は怪訝そうな顔をしていたけど、黙って腕を回してくれた。

「俺のもの」

そう返してやると透は小さく笑いながら、はいはいと頷いてくれた。



君と同じ世界にいる君以外

君以外なんて、全部いらない。
君だけでいい。
俺もいらない。
だから、俺のものになってください。

なんて、あと何年後くらいに言えるのかな。


――――――…








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