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「ねぇ、いくら?」

繁華街の所謂ホテル街といわれるエリアをふらふらと覚束ない足取りで歩き、疲れたようにガードレールに体重をかけていたら不意に誰かに声をかけられた。
言われた内容からして、売春かなにかと思われたらしい。
不躾にじろじろと此方を見つめてくる視線に仕方なく立ち上がり、上に羽織るように着ていたカーディガンを脱いだ。

「五千円でいいよ」

現れた白く細い首筋にごくりと喉を鳴らす中年に小さくほくそ笑んだ。




「…ぁ、う」

腰から臀部にかけ、撫でるように這う手にぞわりと鳥肌が立つ。


連れてこられたのは安いホテルの一室。
部屋に入るなり性急にベッドに押し倒され、首に噛み付かれた。

「ちょっ…ん!」

噛み付いた箇所にしつこく何回も舌を這わされ、熱い息が首筋にかかる。
中年の手は太股を撫でるよう布越しに何回も行ったり来たりをしていて、時折触れられるもどかしい感覚に下腹部が疼いた。

「ハァハァッ…ねぇ、キミ男が好きなの?」
「はっぅ…べ、つに…っ、ぁ…」

嘘だ、ここ、こんなにしてる癖に、なんて低く耳元で粘っこい息が吐かれ、ねちょりと舌が舐め回すよう耳に入ってくる。
なぶるように何度も出入りするそれが煩わしく、顔を背けようにも顎を固定されてしまい叶わない。

「…ひゃ、それっ…やぁっ!」
「素直じゃないね、それに嘘つきだ。お仕置きが必要だ」

下半身を覆っていた服を取り払われ、かたりと音を立てながら、ベッドに備え付けられていたローションが取り出される。
うつ伏せに尻を上げるような体制にされ、突き出された双璧に淡いピンクのローションが垂らされた。
その冷たさに小さく震えれば、相手の機嫌がよくなるのを感じた。

「男、初めてじゃないんでしょ?」
「ん、」

枕に顔を埋めながら頷くと中年は満足そうに指でぐにぐにと蕾の付近のローションを引き伸ばし馴染ませながら、一本目を挿入した。

「…ぁ、んっ…」
「さすがにキツいね」

本来なら晒されることのない場所に埋められた異物が気持ち悪い。
内壁を荒らすようにぐいぐいと曲げられる指が一本増やされ、内臓を押し上げられるような圧迫感が襲う。

「は、ふぅー…ぁ、あぐっ…んっ!」

苦しい。
呻くような声に男の気持ち悪い笑い声が重なる。
趣味が悪い。
冷めた部分に萎えるような感覚を覚えるが、男は全く此方のことを気にしてないらしい。
三本目の指が挿入された。

「…ぃ、あっ…んぐっ…!」
「ははっ可愛いねぇ」

シーツに爪を立て、頭を押し付け、痛みを緩和しようにも遠慮なく内部を掻き回す指が許さない。
バラバラに動く指が内壁を広げるように壁を押した。

「…ぁ、…ひゃうっ…んぁ…っ!」

一点、掠めるように当たった場所にびりびりと痺れを覚える。
ぞくぞくと背筋から腰にかけて走る痺れにチカチカと視界が歪む。
きゅっと締め付けてしまったその反応に男が笑った。

「ここ、いいの?」
「…ぁ、あぅっ!や、やらぁっ…そこ、やだっ!ひゃっ…ぁ、んっ」

ぶんぶんと首を振りながら、拒絶を示す。
何回もしつこくそこを擦られると目頭が熱く、生理的な涙がポロポロと零れた。

「ここ、ぐじょぐじょだね」
「んぁっ!あ、ぁああ!!」

指で良いところをぐりぐりと押されながら、ぴんと張り詰めた自身を握られ上下に数回擦られると、びゅっと白濁が溢れた。
脱力感にも似た気だるい感覚にかくりと体制が崩れたが、男の太い腕が腰を抱いていた。

「ね、入れてもいいでしょ」

背中にべっとりと密着され、背後から低い声で囁かれる。
中に入っていた指が引き抜かれ、ぽっかりと空いた穴がひくひくと厭らしく男を誘う。
太股に擦り付けられた先走りの滴る男性器の先端が狙ったように数度、穴の入口を掠め、緩く出入りする。
腰を抱いていたはずの腕が上半身を覆っていた服の中に入ってきて、胸を揉むように動き、ゆるりと立ち上がっていた突起を指で弾く。

「ひゃ、ぁっ」

イったばかりの身体にその刺激は強く、目の前が真っ白になるようだった。
焦れたように男のかさかさとした手が唇に触れた。

「おじさん、可愛い口で言ってくれなきゃ分かんないなぁ」

言われた意味に顔に熱が集中するのが分かる。
緩く繰り返されていた出入りが縁をなぞるような動きに変わり、男性器の存在をひしと感じてしまう。
自然、誘うように揺れてしまう腰が酷くもどかしい。
急かすようなゆっくりとした動きがじわじわとなぶる。

「…ぁ、れ…て…おじさんの…いれてくださ、っ…」

恥ずかしさで死にたくなりそうになりながらも枕に顔を押し付けながら言うと縁をなぞっていた男性器の先端から液が流れるのを感じた。
男は自身を落ち着かせるように息を吐き、良くできましたと呟きながら一気に男性器を挿入した。

「ひっ―…っ!!」

その指とは比べ物にならないくらいの圧迫感と快感に息が詰まる。
ぎゅううっと締め付けてしまったリアルな形に息を呑んでいると、切羽詰まったような声が聞こえた。

「…きっつ…!力、抜いてっ」
「ひゃ、ぁっむ、むりっいだぁっ、いぁっ」

強引に押し進められ、抜き差しされる動作に気遣いというものはもはや存在しなかった。
それもそうだ、だってこの男は金で俺を買ったのだから。
少し冷めた部分で考えるも、強い痛みと快感によって掻き消された。

「あ、ぁっ―…い゙ぃっあぐっ…うぁっ」

あんなに解したのに、ぶつりと切れる音がし、上から舌打ちのようなものが聞こえた。
獣のように腰を振り、打ち付けられる刺激に星が飛ぶようだ。
だんだんと男のペースが早くなり、息遣いも荒いことからラストスパートが近いのを告げていた。

「な、か…出すぞっ…」
「ま、ひゃあっなか、なかぁ、らめぇっ!」

逃げるように腰を引くが、分厚い手が強く腰を引き寄せ、最奥に熱を放たれてしまう。

「ぁ、ああぅっ…ぅあああっ―…!」

直腸に当たるような、じんわりと広がっていく熱に遅れながら二度目の精を放つ。
飛び散ったどろりとした生温いそれが腹部に掛かり、気持ち悪い。
余韻を楽しむように中に入っていた男性器がゆっくりと引き抜かれ、こぽりと精液が溢れた。
男が腰から手を離すと支えを失った身体がくたりとベッドへと倒れる。

「五千円、ここに置いとくから」

そういって最低限の後始末もしないで足早に去っていく男に不覚にも、熱に浮かされた涙腺からポロポロと生理的とはまた違った涙が溢れてしまう。

別に誰かに相手にされたいわけじゃない。
愛されたいわけじゃない。
ただ、ただ、こんなことしか知らない自分が虚しいのだ。

「…―――…」

呟いた言葉は誰に伝わるわけでもなく、床へと落ちていく。
ベッドヘッドの上に置かれた紙幣にふと目をやる。

一枚、二枚、三枚…。

くしゃくしゃの紙幣の枚数は言った値段よりも確実に少なかったが、対して気にはならなかった。
早々に脱いだため、畳まれた状態でベッドヘッドに置かれていたカーディガンを掴む。
引くと紙幣がばらばらと落ちてしまったが、それよりもポケットから携帯を取り出し、着信履歴を確認する。
そこに提示されていた名前は幾らスクロールしようと変わらず、一人の人間によって埋められていた。

「は、はは…ばっかじゃないの…」

じわりと視界が滲み、目元を拭うが、何度やっても視界が晴れることはなく、濡れた目蓋を膝に押し付け、頭垂れた。
吐き出された精液から来る全身を包む違和感よりも眠気が勝り、ゆっくりと目を閉じる。

こんなことしたって仕方ないのに、なぁ。







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