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緑の髪をした彼女と出会ったのは雰囲気もへったくれもないファーストフード店でのことだった。
平日ながら珍しく混んでいた昼下がり、座る場所を探していた俺に優しく手を振ってくれたのを覚えている。
気さくな彼女とは変に息が合うようで、ものの五分で打ち解けていたような気がする。
話した内容は他愛もないことばかり。
その頃の俺はというと同じ高校に通う女の子に片思いのような感情を抱いており、別な高校とはいえ女である彼女からの意見を恥ずかしながら求めていた。

「一条くんは普通に格好いいと思うけどなー」
「そんなことないよ、地味だし」
「そーゆーのは誠実そーっていうの!」

ノリのよい彼女は少しオーバーリアクションな部分があるらしく、身振り手振りを加えながら話す。
優等生スタイルの馴染んだ八阪高校の中でも抜きん出て優等生な容姿だと自分でも思っているし、だから少し小洒落たあの子に自分は見合わないんじゃないかなんて悩んでいた。
言われて初めて気がついたことだが、それを誠実そうだと笑い飛ばしてくれる勇気が欲しかったのかもしれない。
女の子は恋愛系の話が好きだから、こういった相談に慣れていて、どういった返事をすればいいのかも分かっているのかもしれなかった。

「誠実そー、かな?」
「そうだよ!片桐の私がいうんだから間違いない!」

片桐の彼女がいうんだから、という理屈はいまいち理解できなかったが彼女の慰めは心地いい。
スッと胸の突っかえが落ちるようであった。

「そっかぁ…なら、良かった。俺、明日告白する予定だったから」

良かった、良かった、と繰り返すように呟くと目の前に座っていた彼女が目を見開き、此方を凝視していた。
彼女の心の中を表すなら、驚いていた、が正しいと思う。

「あ、あした?」
「うん、明日」

今日、俺は彼女に勇気を貰えた。
ならば、明日にでも告白しなきゃいけないのだろう。
いや、本当はいますぐにでもいきたい。
でも、それができないのは今この瞬間が気持ちのよいものだから。

「一条くんって凄い変わってる、きっと片思いだっていう娘も一条くんのこと好きだよ。きっと好きになる」

可笑しそうに顔を歪めた彼女は…あー、名前はなんだっけかなぁ。
緊張してたからっていう言い訳すらたたない。
こんなに勇気づけられたっていうのに!
でも、笑う彼女の顔はとっても綺麗で素敵だと思った。

「そんなことない、でも、そういってくれると嬉しい」
「うん」
「そうだ、俺も相談にのってあげるよ!」

彼女は明るいから恋愛面で困ってるようには思えなかったけど、助けになりたいと思ったのは嘘じゃない。
何処と無く、応援したくなるような儚さを感じられた。
彼女は俺の言葉に困ったように笑って、少し照れたように俯いた。

「…な、内緒だよ?」
「うん」
「実は…」

彼女は驚くことに幼なじみの男の子に恋をしていた。
でも、彼は最近好きな娘が出来たらしく、彼女は諦めていた。

「…無理だからさ、私には」

恋する乙女のように楽しげに彼のことを語っていたはずなのに、彼女はいつしか寂しげに微笑んでいた。
ぎゅっと膝の上で握り締められていた拳が痛々しくて、苦しくなる。
何も言えないまま、また他愛もない会話へと戻り、当たり前のようにアドレスを交換した。

「彼女、出来たら教えてね」

そういって立ち去る彼女の名前が井浦だったのを思い出す。
あんなに助けられたのに、助けになることが出来なかった。
それが心に新たなわだかまりを生んで、もし告白が成功した時、俺はなんて言ったらいいんだろう。



結論から言うと、彼女が出来た。
放課後アタックする暇もなく、彼女に告白された。
嬉しくて嬉しくて、教えられてから何回とやりとりをしていたアドレスに報告しようと思って止めた。
なんて言えばいいのか分からなかった。
そんなことならアドレスを消してしまえばいいのに、だけどそんな簡単なことも出来なくて。

『彼女、出来ました^^』

送信ボタンだけが異様に固かった。

電話の発信ボタンを押すと彼女はすぐに出てくれた。
俺のことを覚えてくれていた。
それが何故か嬉しかった。

『彼女、出来たんだ。おめでとう!』

電話口でも分かる明るい声にさっきまで悩んでいたのが嘘じゃないかってくらいに気分が上がる。
それから下らない世間話とのろけを話し、彼女の…井浦さんの話題へと入っていった。

『えっとね、』

少し嬉しそうに話す彼女が言うには幼なじみの彼は振られてしまったらしい。
それが嬉しいと思うのは酷い話だけど、また一緒にいる時間が増えたと話す彼女に時が進むのを忘れてしまう。
彼女の幸せが愛しいと思えるのは、自分にも似たような時期があるからなのかもしれない。



毎日のようにやりとりをしていた彼女との電話に異変があったのは夏の終わり辺りだろうか。
何でも幼なじみの彼は彼女の思いに気がつくどころか他に好きな人が出来てしまいそうなんだとか。
なんで、こんな近くにいるはずの彼女に気づけないのか、第三者でしかない俺には到底分からないことだった。

ある日、夜中に泣きながら彼女が電話をかけてきた。
嗚咽交じりに話す彼女に何があったなのか、聞けるわけがなく、ゆっくりと紡がれる言葉をただ待った。

『…ぅっ、ひぐっ…い、かわ…彼女、できたっ…てっ!』

石川、それが彼女の幼なじみの名前だった。
彼女に振り向くことなく、先を行ってしまった思い人の名前。

『わた、わたしっ…言えなかったよぉっ…うっ…』

目を閉じて、思い出せるのはいつでも彼女の笑顔だった。
照れたように俯く姿や寂しげに微笑む姿。
絶えることのなかった笑顔の強さが痛々しい。
その顔がどんなに涙に濡れ、鼻水にまみれていたとしても美しさを無くすことはない。
そんな気高さがあった。
本当のことは知らないが、俺は心の何処かで幼なじみを恨んでいた。
苦しんでいる彼女から目を背け、彼女ができたと阿呆にも話していた、この俺が。
俺に責める権利はあるのか。
分からない。
でも、焼けつくような胸の痛さは失恋にも似ていて、もしかしたら俺は知らず知らずのうちに彼女に恋をしていたのかもしれない。
彼女に愛される彼が羨ましく、また振り返ろうともしない彼が妬ましいだけなのか。
あぁ、

デイジー見て、



君はこんなにも綺麗に咲いているんだよ?



――――――……


うっはぁ…口調分かりません!
もううろ覚えです、ごめんなさい!
でも、井浦の一人称が『あたし』なのは知ってます
当サイトでは何故か『私』で統一されております、申し訳ありません

一条×井浦っていうより
進藤←一条+井浦→石川

どうでもいいことだけど石川が男設定に戻ってる…

話の内容としては、進藤を裏切ることが出来なかった私のせいで後味悪くなってます…
幼なじみの石川にとって井浦は女じゃなく、もっと大切なものなんだけど
井浦からしてみたら、振り向いてくれない、相手にすらされてないのに嫌いになれない人
第三者の一条からみたら、あんな良い娘から一途にあんなにも思われているのに全然振り向いてくれない酷い人
誰も悪くないんです…悪いのは私なんです!
第一段から先が思いやられる展開、ごめんなさい!


少しずつ培われてきた恋慕が音を立てながら崩れる、というより
恋に恋する、恋する彼女に恋をした、なんですかね
失恋した彼女に失恋した
同じ痛みを共有する痛み

繰り返せば繰り返すだけ、痛くなります

久々のあとがきでした


デイジー(デージー:daisy[別名:雛菊])
『無邪気、乙女の無邪気』
『あなたと同じ気持ちです』







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