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ちょっと前の話。

堀さんと宮村くんが出会う前の話。
物語が物語になる前のことだ。


「石川…熱下がんないんですか?」

中学の学生服に身を包んだ少年は心配そうに言った。
正面には背の高い女の人。
少年からもらったであろう学校の配布物を片手に泣き出しそうな少年を安心させるように笑った。

「大丈夫よ、熱は大分下がったから。でも、まだ調子悪くて、透は秀くんに移しちゃいけないから会えないの」
「うー…」

不満そうな少年、井浦秀は静かにお礼を言うと立ち去って行った。

「お利口さんね、透には勿体ないくらい」


高校一年。
俺にも彼女が出来た。
石川に話すと少しだけ寂しそうな顔をした。
それから、石川に彼女が出来て、胸が締め付けられるように痛くて。
彼女を作るのが怖くなった。


「井浦くんって一組の石川くんと仲良いよね」


クラスの女子が笑いながら、言ってきた。

「そうかな?最近は宮村とかの方が仲良さげっしょ」

クラスが違うってこんなに辛かったっけ。
遠い遠い。
何をするでも、足りなく感じて。


「井浦は石川のこと好きなの?」

須田が苦笑いをしながら、携帯を閉じた。
友達がホモって。

「ちげーよ」

呆れたように瞳を閉じて、ヘッドフォンをした。
須田はそんな俺を一瞥しながら、またメールが来たのか、携帯を開くとそのまま自分の世界へと入っていった。

須田の野郎、また彼女できたろ。


石川。
ねぇ、石川はさ。
俺が後、二週間で死ぬって言ったら、何をしてくれる?
別に、

何もしなくてもいいから、ただ傍に居てほしいとか。

「俺、どんだけ幼なじみに依存してんだよ…」


「井浦くんは井浦くんのままでいいじゃないですか」

本屋であかねと会った。
何でもコノハの発売日らしく、両手で大切そうに本の収められた紙袋を抱き締めているあかねを見ると脱力した。

「でもさ、今のままの俺じゃ駄目かもしれないじゃん」

依存とか。
彼女以前の問題。
気づいてほしくて。
わざと彼女が欲しいと笑った。
でも、あかねが真面目な顔をして。

「今のままの井浦くんじゃなきゃ、駄目なこともあります」

と言ってみせた。
俺は思わず、笑みを溢して。

「ありがとう」

二週間後を思うと悲しくなった。
嗚呼、もし彼奴の言葉が本当だとしたら、この優しい友人はなんて言うのだろう。


気になったけど、聞けなかった。


――――――…






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