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昔から柳明音が女子に人気があることくらい分かっていた。
分かっていて、それでも俺を選んでくれたのが凄い嬉しかった。


「あーかねっ!今日、午後から暇?一緒に帰れる?」

じゃれるように首に抱き付き、体重を掛けてくる井浦くんの腕を掴み、そっと退けた。
申し訳ないと思いつつ頭を下げ、できる限り井浦くんが傷付かない言葉を選ぶ。

「すみません、今日はちょっと用事があるので」

途端、井浦くんの頭からしゅんと犬耳のようなものが垂れたような気がした。

「そっか…あかねも暇じゃないもんね…」

とぼとぼと鞄を片手に外に出ていく姿に胸が苦しくなり、明日は此方から誘ってみようと思った。




「…はぁ…あかね、今日は用事があるんだって」

そういって溜め息を吐きながら隣を見上げると、そっか残念だったなと適当に返す幼なじみの姿があった。

「いしかわぁーいしかわぁーいしかわぁー」
「あーはいはい!柳だって暇じゃないんだよ」
「知ってるよ、そのくらい。でもさ、」

それでも一緒に居てほしいとかあかねの中の俺は何番目なのかとか、俺どんだけ面倒臭い女みたいになっちゃったんだろ。
独占欲とか、本当らしくないと我ながら嫌になる。


「あー!だめだめ!今、余計なことしか考えられない!」
「はぁ…余計なことなのか?」

疲れたように前を見る石川の横顔は高校時代より大分大人びていた。
だから、少しだけ焦ることがある。
まるで自分だけ成長してないんじゃないか、無意識にあかねに迷惑をかけているんじゃないか。

「だって!俺、ただの我が儘みたいじゃん」

俺は彼の負担になってるんじゃないか。
凄く不安になる。

「いいじゃん、もっと我が儘になれば」

「え?」

「好きな人のために必死に悩むことの何が悪いんだ?」

不敵に笑う石川の姿に少しだけ目尻が火照る。

「…ありがと、」

小さく呟き、あかねも俺のことを考えてくれてたらいいなって思った。








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