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俺の好きな人は俺が好きじゃない。
嫌いでもないというのだから、俺は嫌いになれなかった。

「秀、」

呟いた言葉は泡のように消え、真っ白な部屋に落ちた。
何を見ているのか分からない緑の瞳に俺が映ることはなく、虚ろなそれはゆっくりとそして気だるげに伏せられる。

「…今日は皆と鶴を折ったんだ、早くお前がよくなるようにって」

冷たい秀の手を握りしめ、目を見つめながら声をかけた。
足元に置いてある紙袋には色とりどりの折り鶴。

「宮村がお前の為にケーキを焼いてくれてな。吉川も井浦に作るんだって張り切ってたんだけど、さすがに怖くて遠慮しといた。代わりに今度、堀たちとお土産を持って来るって」

「いつがいいと思う?出来ることなら、検査のない日がいいな。そうそう、久々に皆で一緒に遊びたいって仙石が言ってたぜ、あの仙石が、だぜ?」

握りしめた手が握り返されることはなく、秀の目には依然として俺が映ることはない。
生気のない目が、だらしなく開かれた口が、明るく振る舞うことを忘れた表情筋が、拒むように心を閉ざした。

「秀…どうして、どうしてお前なんだ?どうしてお前だったんだ?どうして、俺だったんだよっ…」

本当に傷付き、壊れるべきだったのは俺の筈だったのに。
お前を拒んで拒んで、手離そうともしないで、引き寄せては突き放す。
いっそ強く拒んでやっていたら、こんなことにはならなかったのか。
自分の中途半端な優しさを残酷だと笑うのだろうか。
失って初めて知ったとは言わない。
青白い肌に浮かんだ痣が痛々しいまでに俺を責める。
謝って謝って最後にはお前に許されたかった。

「…ごめ、―…い」

ぽつりと秀の口から発せられた一言に唇を噛んだ。

「なんで…お前が謝るんだよ」



―――――……


石川←←井浦だけど石川は井浦が好きじゃない
でも井浦を傷付けたくないばかりの思いがじわじわと井浦を蝕んで、壊す
石川の優しい残酷







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