学パロでカノさんが女装してます。
セト←カノ前提純情系モブカノ(笑)
「ず、ずっと前から好きでしたっ! おおおれとつっ付き合ってくださいっ!!」
放課後、体育館裏。下駄箱にラブレターだなんてベタ。今時少女漫画も自重してしまいそうなシチュエーション。
だがしかし、ここ中高一貫全寮制のカゲロウ学園では未だにその伝統は根強く、少なくとも人気の少ないはずの体育館裏には今現在僕ら以外の男女が三組くらいいた。当然といったら何だけどカップル成立の現場を見逃さんとする野次馬が十数名、スクープがないかとスタンバイしている新聞部が数名ほどいる。よくもまあ、こんなところで告白できるよ。
一週間に二度は訪れているであろう体育館裏には今日もまた違った面々が。野次でもない僕の正面には全く身に覚えのない男が、顔を真っ赤にしながら頭を下げていた。
「初めて会った時から好きでしたっ! 中庭で本を読んでいる姿がと、とても可憐で昼休みになると毎日見に行ったり……あ、いやっその、これは変な意味ではなくてっ!!」
顔はまあまあ悪くない。きりっとした眉に切れ長の瞳、鼻筋も通っているし歯も綺麗だ。短く刈り込んだ髪と服の上からでも分かる筋肉質な体つきは案外嫌いではない。体育会系だろうか。恋愛に疎そうな雰囲気は好印象。
思わずOKしてしまいそうになるが、後々のことを考えると厄介だ。
「く、クラスの奴らに鹿野さんは倍率が高いから止めろと何度も止められたんですが、俺っ我慢できなくて! こんなに誰かに夢中になったのは初めてなんです! 多分、これから先、鹿野さん以上に夢中になれる女性は現れないってそう思うと歯止めが効かなくてっ……」
あーほら、彼ってば僕のこと誤解してる。だから厄介なんだ。
僕は女子の制服を着て、女子生徒として学校に通っているが決して女子ではない。誤解されるのも当然なんだが、こればかりは仕方がない。僕には僕の理由があるのだ。
名前も知らない彼は僕以上の女性はいないと言ってくれているが、取りようによってはゲイのカミングアウトのよう。面白いけど好きでもない男に言われて気持ちの良いことではない。
彼には申し訳ないけど断ってしまおう。
「えっと……何くんだっけ?」
「木地です! 木地千晃!!」
きじ、ちあき。キジくん。チアキくん、というよりはチアキちゃん。
僕が漸く口を開いたのが嬉しいらしい、彼はぱあっと顔を輝かせた。
「可愛い名前だね」
「女の子みたいだとか似合わないとかよく言われます」
はにかむような苦笑い、うん、こんな顔も出来るのか。彼自体には好感が持てるけど、それ以上ではない。出来たら友達になりたかったかなぁ。彼はそれを望まないのだろうけれど。
「で、キジくん。悪いけど、僕、好きな人がいるから君とは付き合えないんだ」
彼の顔がみるみる青ざめていく。キジくんはなかなかに表情豊かだ。
「……付き合っているんですか?」
「いや、僕の片思い」
後に僕はこの安易な発言を後悔することとなる。だってキジくんは僕の片思いという言葉を聞いた時、一瞬だけ嬉しそうな顔をしたんだもの。
それから自制するように罰が悪そうな顔をした。彼はきっと優しい。思わず笑みを溢してしまうとそれを見た彼は顔を真っ赤にし、決意を固めた顔で僕の肩を力強く掴んだ。
「〜〜っ! それでもっ俺、諦めないからっ! 今はまだ好きじゃなくても良い、絶対に振り向かせるから!!」
「え、いや、」
「鹿野さんのこと、本気で愛してるんです!!」
「待っ――ぅんっ!?」
勢いのままに口づけをされ、周りから甲高い声が上がる。そこでようやくギャラリーに気付いたらしいキジくんは顔を真っ赤にして「ごめんなさい!」と叫ぶと何処かへと駆けていった。
あまりに綺麗な走りのフォームに彼は陸上部だったのかと気が付くのと同時に腰が抜ける。色々いきなりすぎて付いていけない。キャパシティを越えた状況に脳の神経が焼ききれてしまったみたいに頭がいたい。
振り返ると新聞部のエネちゃんが良い仕事をしたとばかりに写真を確認していた。
「ちょっと、スクープは止めてよ」
「それは愛しの彼に刺激を与えたくないからですか?」
「違うよ、僕はこれ以上嫌われたくないだけ」
彼女はそうですか、と短く答えると僕の写真を撮り、すたすたと歩いていった。
聞いちゃいないな。