現在進行形 | ナノ


ドリンク剤が友達
2013/03/25 23:00


◎アンリミ最終回直前!突発オチネタ!
早京です。



どん、と鈍い音を立てながら早乙女の体が傾く。それを兵部は正面からただ無言で見つめる。あまりに呆気のない幕引きに茫然と立ち尽くすしかなかった。
早乙女の体が床に倒れる。兵部は早乙女の胸が微かに動いているのを見て、ゆっくりと早乙女の方へと足を向けた。

「貴方は、」

口を開きかけていた兵部が中途半端に止める。どうしたのかと兵部に近付こうとすると兵部は片手でそれを制す。早乙女が何かを言いかけているようだ。虫の息のような掠れた言葉に耳を傾けるように兵部は早乙女の隣に膝を付く。

「……――、け……――っ、……だ」

ここからは何も聞こえない。それでも兵部には何か聞こえているのだろうか。兵部は静かに目を閉じ、早乙女の冷たい人工の手に触れた。
早乙女の手がゆっくりと動き、それはぎこちないものだったけれど兵部の顔に伸ばされる。兵部はその手に手を重ね、ふっと物悲しそうな声で何かを呟いた。
とても小さな、風に掻き消されてしまいそうなほど小さな呟き。それは早乙女に届いたのだろうか。兵部の体が死角となり見えない。
やがて兵部は立ち上がり、手に炎を宿すと早乙女の体を包んだ。今度はもう生き返ることのないように。弔いの火は復讐者と呼ぶには酷く優しい。
兵部は暫く此方を向かなかった。此方も兵部の方を敢えて見ようとは思わなかった。

「ヒノミヤ、」

兵部は燃える火の粉を追うように上空を見上げる。早乙女の灰はどうなるのだろう。ふと疑問に思った。決して口には出さないけれど。

「なんだい」

背中、こんなに小さかっただろうか。学生服に包まれた背中の面積は自分と比較するのも烏滸がましいくらい狭いものだった。

「僕の復讐はこれで終わったのだろうか?」

細く揺れた不安定な声音。自身の存在意義を、居場所を失った子供のようなそれ。

「終わってなんかいねーよ」

ぴくり、と兵部の肩が震えた。肯定してほしい、守られる存在のような姿。
こんなの俺の知ってる兵部ではない。早く戻ってきてほしい、あの海のようなことは二度と御免だ。だから今から俺はお前に残酷なことを言うと思う。

「お前はガキ共に夢を見せた。それはパンドラの箱のような空想かもしれない。それでもお前はパンドラの箱の中身を、責任を取らなくちゃいけない」

勝手に死ぬな、暗に含ませる。俺は兵部に鎖を巻いているのだと思う。この亡霊が解き放たれてしまわないように。

「兵部、お前の目的は早乙女への復讐か?」

兵部はゆるりと首を振った。こいつは私怨で動くような奴ではない。ならば逆に動けなくすればいい。
案の定、兵部は、

「少しだけ待っていろ」

と、安定した声で言った。もう大丈夫、兵部は大丈夫なのだろう。そう繰り返し、ヒノミヤは空を見上げた。
もうすぐ兵部を追って真木さんが到着することだろう。



「……――す、け……っ、――……だ、――ら」

微かに聞こえた声に兵部は膝をついた。早乙女は最期に何を言うのだろう。それを聞き届けることが義務のような気がし、兵部は耳を傾ける。

「……きょう、け……よ、くやっ、た……い、こだ……」

『京介、よくやった。良い子だ』

早乙女の義手に触れ、読もうとするのを遮るように早乙女は手を伸ばす。その感覚がふと過去に重なり、もうこの男は自分を見ていないことを悟る。
過去に生きるとは、なんて虚しいものだろう。いや、僕も変わらない。

「隊長、僕はずっと良い子でしたよ」

良い子でありたかった。せめて貴方の前だけでも。
そんな思いさえ、貴方にはもう届かない。早乙女は頬に触れながら緩やかに眠りへと向かう。

貴方がもう起きてしまわないように。焼いてしまおう、何もかも。




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