現在進行形 | ナノ


息抜きって素敵
2013/03/16 20:46

「あ、ちょっと回さないでよ」
「だめ、今からドラマなの!」

夕食後、ソファーでテレビを観ていたカノが声をあげる。
マリーがリモコンを押したのだ。時計を見れば九時少し前。曜日を思い出してみればマリーが毎週楽しみに観ていたドラマの時間だ。
不満げに頬を膨らませるカノは「ドラマなんて大概焼き回しじゃん」と屁理屈を捏ねる。対し、マリーもカノの物言いに気分を害したのか、ぶすっとした顔で「バラエティーだって寒いだけ」と返した。
これは喧嘩になりそうだ、とセトはソファーから腰を上げキドに目配せをした。キドは黙って頷く。唇が微かに動き、『カノを頼む』と音もなく告げられる。
深呼吸をし、カノの方に移動すると気がついたカノが此方に視線を向けた。

「セト?」
「……カノ、散歩しないッスか?」
「やだ、」

間に髪を容れず、取り付く島すらない。完全に構わないでモードになってしまったカノを横目にマリーの方を見ると、キドがマリーの気をドラマと紅茶で引いていた。何だろう、凄く面倒臭い方を回されたような気がしないでもない。
はぁ、と息を吐き出すとカノが怪訝そうな顔で見てくる。

「シンタローさんがいたら、もうちょっと楽なんスけどねぇ」
「……それ、どういう意味?」

低めの、苛立ったようなトーンで返される。どうやら馬鹿にされた、と取ったらしい。
馬鹿にするも何も心当たりがあるならそれを理由に遠慮してほしいものだと呆れながらに思う。

「そのまんまの意味ッス。あの人がいるとカノは背伸びしたがるんで」
「……――っ!」

背伸び、といった途端、サッとカノの頬に朱が走り、カノは口をはくはくと動かしながら睨んできた。
図星なのだろう。知っていたが。本当にシンタローさんがいたら楽だった、カノがシンタローさんを弄ることに夢中になってくれるのと、喧嘩なんて大人気のない、余裕のない姿をカノがシンタローさん相手に晒すとも思えなかったというのもある。
耳まで赤く染めながら恥ずかしそうに俯くカノ。先ほどまでの威勢は何処へやら。シンタローさんの名前はそれほどまでに絶大なのだ。

「ほら、カノ。何時までも拗ねてたんじゃシンタローさんに身長だけじゃなく中身まで子供っぽいって馬鹿にされちゃうッスよ?」
「身長は余計なお世話だ!!」

笑いながら揶揄してやるとカノは怒鳴りながら噛みついてくる。
そんなカノを宥めながらもう一度散歩に出掛けよう、と誘うと今度は渋々ではあるが頷いてくれた。

「もう、馬鹿なこと言わないでよ」

と、呟きながら。
馬鹿なのはどっちなんだか。

「外に出て、ほっぺ冷やさないとッスねぇ」

そういうとカノは無言で足を踏んだ。

外に出ると肌に触れる空気は幾分か鋭いものとなる。それと伴に鼻腔を燻るのは麗らかな春の生温い風の香り。春に近づいていき、段々とではあるが暖かくなりつつある空気に身を委ねながらカノを振り返ると、体温が低く厚着が嫌いなカノは少しだけ寒そうに身を震わせた。
上着を着るように促せば良かった、ともう十分過ぎるほどに冷えてしまっているだろう姿を見て後悔する。カノは寒そうに手を擦り合わせながら不機嫌そうに斜め後ろを歩く。
ぴたり、と足を止めるがカノは全く意に介さず、すたすたと歩いていってしまう。慌ててそれを追い、隣に並ぶとカノの旋毛が見え、くすりと笑った。昔は見えなかったのに、こんなにも成長していたのか。
腕を絡ませるとカノは驚いたように顔を上げる。なに、と問いたげな瞳に微笑みかけると瞳には益々困惑が広がった。

「何でもないッスよ」

そう呟き、赤く染まったカノの鼻の頭を見つめ、ふっと頬を緩めた。



―――――――――――――――

実は地味にフリー小説の先に繋がる話。
完成したら、になりますが(笑)

ベクトル的にはセト(→)(←)カノ
セトさんは全くの無自覚。
後でlogもろとも回収しに来ます。



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