はあ、と真っ白な息を冷たい指先に吐いている鼻の真っ赤なシンタローくんを横目にマフラーを鼻の辺りまで持ち上げた。
「シンタローくん」
呼び掛けると、なんだよと言わんばかりの目付きの悪い顔が此方に向けられる。だけど、寒さで真っ赤に染められた鼻と頬が何処かその悪い人相を緩和しているように思え、僕は少しだけ喉の奥で笑った。
「目、瞑って」
「はぁ? やだよ、お前何するか分かんねぇし」
心底分からないのだろう、シンタローくんは怪訝そうに顔を歪めながら言う。
「何もしないから」
「何もしないなら目を瞑る必要なんてないだろ」
「ああもう、本当、君はたまに凄く面倒くさいよ」
ぶす、と顔をむくれさせるとシンタローくんがははっと軽く笑った。いや、そんな爽やかじゃなかったかもしれないが勘弁してほしい。
何故なら僕は彼にぞっこんなのだから。
「冗談だ。わるいわるい、ほら、目瞑れ」
無論、笑顔で頼まれたら断れない。
されど口を開くのも何処か癪だったので何も言わず黙って目を閉じるとシンタローくんの冷たい指がそっと頬に触れ、それから唇が落とされた。
「んっ」
優しい唇の触れ合いと、急かすように唇を舐める舌にゆるく口を開けば腰を抱き寄せられ、より深く何度も角度を変えながら交わった。
触れた箇所が熱く、触れた箇所から満たされていく。
ああ、君も僕も凄く面倒臭いね。