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松川と名前が出会ってから3週間以上が経過していた。その間に会ったのは、ファミレスでの1度だけ。しかもその翌日から、2人はぱったりと連絡を取り合わなくなっていた。というのも、連絡をするのはいつも松川の方からだったため、名前は自分からメッセージを送る勇気がなかったのだ。
特に用件がなければ連絡を取り合う必要はない。けれど。名前はファミレスでの去り際の会話を思い返す。自分の聞き間違いでなければ、彼はデートしようと言っていたはずだ。真面目そうに見えて、自分は彼にからかわれてしまったのだろうか。それとも忙しくて連絡する暇もないのだろうか。バイト中にもかかわらず、名前はそんなことを考えていた。


「名字さーん、2番テーブルお願ーい」
「はーい!」


バイトが終わるまであと1時間弱。今日は土曜日ということもあって忙しかったけれど、漸く終わりが見えてきた。お願いされた2番テーブルに向かった名前は、そこに座っている人物を見て目を見開く。


「コンバンハ、名前さん」
「一静、くん…?」
「久し振り」
「なんで、ここに?」
「お腹すいたから。前と同じやつ、ちょうだい。ライス大盛りで」


ニヤリと口角を上げて何食わぬ顔でそう言ってのけた松川に対して、名前は戸惑いを隠しきれない。けれど、今はバイト中であることを思い出し、なんとか平然を装った。
なぜ連絡のひとつも寄越さなかったくせに、今になって急にバイト先に現れるのか。名前には全く分からなかった。自分の反応を見て楽しんでいるだけだとしたら相当悪趣味だと思うけれど、名前にはどうしても松川がそんな人間とは思えない。注文されたチーズインハンバーグと大盛りライスを運びながら、名前は思考を巡らせていた。


「…お待たせ致しました」
「どーも。…今日、バイトいつまで?」
「え?えーと…あと30分ぐらいかな…」
「じゃあ丁度いいね。待ってるから一緒に帰ろ」
「え、なんで、」
「なんでも。残りの仕事、頑張って」


小さく笑う松川の表情に、名前は不覚にもドキッとしてしまった。年下の男の子に振り回されっぱなしの自分が恥ずかしいけれど、それが嫌じゃない。
結局、断る理由もないので、バイト終わりに松川と駅を目指して歩く。なんとなく松川が大人っぽく見えると思っていたけれど、それは制服ではなく私服姿だからだということに気付いた。何も知らない人が見たら、確実に自分の方が年下に見えるんだろうなあ。


「びっくりした?」
「うん。だって、連絡なかったし」
「俺からの連絡なくて寂しかった?」
「別に、そんなことはない、けど」
「なんだ。寂しがってくれるかと思ったのに」
「え、もしかして、わざと連絡してこなかったの…?」
「年上のオネーサンを落とすには、色々テクニックがいるでしょ?押してばっかりもダメかと思って引いてみたんだけど。作戦失敗か」


松川があまりにも淡々とした口調で話すものだから、名前は言われた内容がなかなか理解できなかった。ただ、その話を理解した途端、猛烈な恥ずかしさとともに嬉しさが込み上げてきて、思わず俯く。
本当に松川という男は自分よりも年下なのだろうか。女慣れしているのか、ただ落ち着いた性格というだけなのか、それは定かではないが、出会った時から現在に至るまで常に松川のペースであることは間違いなかった。


「デート、誘おうかと思ってたんだけど…脈なしなら諦める」
「ちょっと、待って、一静君」
「何?」
「あの…デート、行っても良いよ?」
「なんで?俺のこと、何とも思ってないんだよね?」
「そんなこと、ない、」
「俺からの連絡なくても寂しくなかったんでしょ?」
「それは!その…本当は、ちょっと……寂しかった、かも」
「……うん、ごめん、分かってたけど」


なぜか必死になってしまった名前に、松川は笑いを堪えながらそんなことを言ったのだった。
名前は暫くポカンとして。けれど、自分の思っていることが全て松川に筒抜けだったことに気付くと、急に猛ダッシュで逃走した。恥ずかしい。自分の気持ちがバレていたことよりも、こんなに乱されていることが。心を奪われていることが。だから、松川の隣にいることができなくて、走り出してしまったのだ。


「ちょっと!名前さん!ストップ!ごめんって。怒んないで」
「…っ、怒って、ない、」
「じゃあなんで逃げるの?」
「だって、なんか、恥ずかしいじゃん。私、年上なのに、見た目も中身も子どもみたいで」
「そういうとこ、可愛いと思うよ」
「そういう期待させるようなこと、簡単に言わないでよ…」


走って逃げても呆気なく捕まり、名前は自分の感情を吐露することしかできなかった。出会った時を含めても会うのはまだ3回目。連絡だって頻繁に取り合っているわけじゃない。松川のことなんて、ほとんど何も知らない。それなのに、なぜかどうしても気になってしまって。一緒にいるとドキドキしてしまって。こんなの大人じゃない。
俯いたままの名前の頭を、松川はポンポンと優しく撫でる。名前に意識してもらうために必死だった。年下だからって、男として見てもらえないのは嫌だった。だから精一杯背伸びして、余裕なフリをした。本当は探り探りで、どんな反応をされるかとビクビクしていたのに。


「期待してよ」
「……え?」
「俺、好きでもない人をデートに誘ったりしないんだけど」
「え、」
「自意識過剰かもしれないんだけどさ、名前さんって、俺のこと、好きでしょ」
「……、」
「俺と付き合ってよ」
「でも、私、年上だよ?」
「俺には年齢とか関係ないんだけど。名前さんは年下の俺じゃ嫌?」
「そんなこと!ない…です…」
「ん、じゃあいいよね?」


名前は、ゆっくりと頷いた。その返答を確認した松川は安堵の表情を浮かべる。


「名前さん、好きだよ」
「私も、一静君のこと好きだよ」


照れながら笑う名前は子どもみたいで。それを見つめて微笑む松川は大人びていて。どこかアンバランスな雰囲気だけれど、それがお互いに心地良い。2人はどちらからともなく手を繋ぐと、ゆっくり駅へ向かって歩き始めた。
はじまりのそのあと

元・おとなとこどもです。内容は特に変わっていません。短編から移行させていただきました。