×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

絶望的とも言えた俺と名前の関係は、唐突にハッピーエンドを迎えた。いや、ちゃんと両想いになって付き合い始めただけで、まだ終わりじゃねーけど。とにかく、別れるかどうかの瀬戸際だった昨日が嘘のように、今日の俺はすこぶる機嫌がいい。朝練も絶好調だった。
朝練を終えて教室に向かっていると、何やら廊下がざわついていた。俺のクラスの前がやたら騒がしいようだが、恐らく、名前が原因だろう。名前を地味だとか言った奴らめ、ざまーみろ。
俺は意気揚々とクラスに入った。一斉に俺へと視線がそそがれるのが分かる。


「花巻!名字さん!イメチェンしてめっちゃ可愛くなってる!」
「俺、前から可愛いって言ってたけど?」


自分のことではないのに、俺は鼻高々だ。名前曰く、俺との関係がなければ、高校生の間は三つ編み眼鏡で過ごす予定だったらしい。俺とのことを考えてこの姿になってくれたのだと思うと、つくづく、愛おしい。


「おはよ」
「花巻君…おはようございます」
「注目の的じゃん?」
「そんなにおかしいでしょうか…?」
「んーん。逆。名前が可愛いからみんなビビってんの」
「花巻君!名前!」
「あー…ごめんごめん、名字サン?」


半分は反射的に、半分は意図的に。名前の名前を呼んでみた。みんなは、いつも穏やかで静かな名前が大声を出すものだから驚いている。名前の顔がちょっと赤いことに気付いているのは俺だけのようだ。
そんなこんなで、その日は名前のことが噂になり、他のクラスの奴らもコソコソ見に来ていた。あの2組の女の子も見に来ていたようだから、これで名前との関係をネチネチ言われることもないだろう。
昼休憩にはバレー部の3人が来た。名前の姿を見た3人は、揃いも揃って目を丸くして驚いている。


「マッキー!彼女可愛いじゃん!どうしちゃったの!」
「最初から可愛いの」
「惚気かよーうぜー」
「花巻はああいうのがタイプなのか」
「マッキーじゃなくても、あれだけ可愛かったらみんなタイプでしょ。岩ちゃんはタイプじゃないの?」
「人の女に手ェ出すわけねぇだろうが!このバカ及川!」
「ちょ、痛い!やめて!」
「花巻今から大変だなー彼女モテちゃうから」
「俺達ラブラブなんでご心配なく」
「うぜー!」


今まで散々言われてきた鬱憤を晴らすように、俺は惚気まくってやった。岩泉は別として、及川と松川は結構ダメージを食らったと思う(特に及川)。
周りに認めてもらえなくても俺だけが名前のことを分かっていればいいと思っていたけれど、こうなってみると、周りから羨ましがられる彼女を持つのは気分が良い。俺は一日中、名字さんと付き合ってるの?と聞かれる度に、そうだけど?と優越感たっぷりに返事をし続けた。


◇ ◇ ◇



楽しい1日が終わり、放課後になった。俺はいつも通り、部活に向かう。今日は最高な1日だったし、朝練の時と同様に調子が良いかもしれない。着替えを済ませ体育館でウォーミングアップがてら体を動かしていると、松川が近付いてきた。チラチラ2階を見ているが、お目当ての女子でもいるのだろうか。


「名字さん来てんじゃん。ホントにうまくいってんのな」
「え?マジ?」
「は?お前知らなかったの?」


慌てて2階に目をやると、確かにそこには名前がいた。それだけでも驚きなのに、名前は俺と視線が合うと、なんとなくだけど笑ってくれた。
いやいや何それ!聞いてねーし!可愛いし!今日どんだけ幸せ使い果たしてんだよ。あ、もしかして俺、明日あたり死ぬんじゃね?
幸せすぎて意味不明なことまで考えてしまったけれど、名前が見学に来てくれたことは絶大な威力があり、今年1番じゃないかと思えるぐらい調子が良かった。俺って単純。
さて、部活を終えた俺は急いで着替えを済ませて部室棟を後にした。名前の方から、正門のところで待っている、と連絡してきてくれたからだ。俺が走って行くとそこにはちゃんと名前がいてくれて、本当に今日は幸せすぎて死ぬかもしれないと思った。


「お待たせ」
「部活お疲れ様でした」
「見に来てくれてありがとね。嬉しかったけど、びっくりした」
「前、気が向いたら行くと約束したので…」


律儀だ。なんでこんな良い子が俺の彼女なんだろう。俺は幸せをひしひしと噛み締める。
隣を歩く名前は、バイト終わりに一緒に帰っていた時と何ら変わりない様子だ。俺は、両想いになって初めて一緒に帰っているわけだから、それなりに嬉しいしドキドキしてるんだけど。


「あの、花巻君」
「ん?何?」
「私、お付き合いするの初めてで…」
「うん、知ってるけど」
「どうやったら彼女らしく振る舞えるか考えて、今日、部活を見に行かせてもらったんです」
「うん?そうなの…?」
「どうやったら、花巻君の彼女らしくなりますか…?」


名前は真面目だ。付き合うということがどういうことかを考えるなんて、普通の女の子ならしないと思う。けれど、俺の彼女らしくなりたいと一生懸命な名前は、とてつもなく可愛かった。そもそも、そんなこと考えなくても名前は正真正銘俺の彼女なんだから、特別なことをする必要なんてないのに。


「無理しなくて良いから。名前がやりたいようにやって」
「でも…」
「じゃあさ、帰りは手繋ぐ?」


俺は右手を出して笑いかけた。名前は一瞬だけ躊躇って、けれど、すぐに照れたように笑い返すと自分の左手を重ねてきた。名前の温もりが右手からじんわり伝わってきて、顔のニヤケが止まらない。やっぱり、今日は幸せすぎる。
隣を歩く名前もどことなく幸せそうで、俺達ってバカップルだなあ、なんて思った。そんな、帰り道。


次は何をしようか?



Prev | Next