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2nd Anniversary
thanks a lot !


※「黒星と白星の行方」→「エンドレスグレー」続編


紆余曲折あって、俺には彼女ができた。遊び相手候補からおもろい子に昇進、そんで今は彼女。今までにも彼女は何人もおったけど、あれがほんまに彼女やったんかは正直微妙。ただ、今回はたぶん、ほんまに彼女。…やと思う。知らんけど。
俺に惚れて、絶望して、拒絶して、喧嘩売ってきて、それやのに結局また俺みたいなしょーもない男に惚れてしまったらしい忙しい女は、今日も相変わらず忙しい。名誉なことに正真正銘俺の彼女になったんやから、俺の練習しとるところを見るなら見るで堂々と見ればええのに、なんでか知らんけど2階席の隅の方からこそこそ覗き見とる名前は、まるでストーカーやった。しかも、俺が何かしら活躍するたびに嬉しそうに顔を綻ばせたかと思ったら、キャーキャー喧しい外野の子らの黄色い声援が聞こえてきた瞬間、これでもかと嫌そうな顔をする。百面相ってこういうことを言うんやろうな、って感じで見とるこっちはめっちゃおもろいけど、ほんまに忙しい子やなあと思う。


「名前、何1人で帰ろうとしとるん?」
「えっ…なんで私がいるって知ってんの…?」
「俺のこと見とるん視線でバレバレやし。全然隠れてへんし」


練習が終わってすぐ、俺はそそくさと体育館から出ようとしとる名前を捕まえた。あれでこっそり見とるつもりやったなら、もう少し隠れる練習をした方がええと思う。切実に。まあそんなことはどうでもよくて、今問題視しとるんは、名前がこの真っ暗な中、1人で帰ろうとしとることやった。
いつものことやけど、名前は俺と一緒におるところを見られるんが嫌らしい。それは単純に、他の女子生徒に見られたら目の敵にされて厄介やから…だけやなくて、俺と2人きりになるんがいまだに慣れへんからやと思う。あんだけ強気な態度取っとった奴がよお言うわ、て突っ込もうとしたこともあったけど、そういうとこが、まあ、可愛い。…ような気がせんでもないから、あえてその部分には触れとらん。
今も、ちょっと待っとって、て言っただけでそわそわしだして、分かった、て答える声は随分と小さい。そんな反応は今までに色んな女で腐るほど見てきたはずやのに、名前という女に限っては急に女の子モードを全開にされると困る。始まり方が始まり方だっただけに、俺達の会話は大半が憎まれ口やら罵り合いやら、喧嘩越しな内容が多い。そのせいで、今みたいなしおらしい雰囲気を醸し出されると調子が狂う。


「俺と付き合うとることなんかもう全校生徒に知られとるようなもんやし、隠れる必要ないやん」
「そうだけど…なんか…嫌なんだもん」
「何が?」
「私が宮君のことめちゃくちゃ好きみたいで」
「はあ?好きなんやろ?しゃーないやん」
「そ、そんな、めちゃくちゃ好きってわけじゃないし!」
「ほんならどんぐらい好きなん?」


俺の隣で慌てふためく名前は、付き合いだしてから随分と変わった気がする。勝気なところと素直に自分の気持ちが言えへんところは相変わらず。それでも、俺のことが好きって感情はほとんど隠さんくなった。開き直っただけやって言われたらそれまでやけど、俺はなんだかんだで現状に満足しとる。
暗い夜道。手は繋いだり繋がんかったり。キスも、したりせんかったり。どっちも名前からされたことはない。強請られたことすらない。ああ、そういえば付き合うことになった時に下手くそなキスを強引にされたけど、アレはただ唇をぶつけただけの事故みたいなもんやからキスにはカウントできへんし。結局いつも俺が一方的に、気紛れに、やりたい時にやりたいようにやっとるだけ。好きならちょっとぐらい自分から何かしてきぃや、と思うこともしばしば。何で俺がこんなモヤモヤしとらなあかんねん。主導権を握っとるのはどう考えたって俺の方やのに。
名前は俺のことが好きやって認めとる。けど、俺はいまだに何も言っとらんかった。好きとも、嫌いとも、何とも思ってないとも、兎に角、名前をどう思っとるかは1度も口に出したことがない。
この関係になって2ヶ月。俺を惚れさせてみ?と宣戦布告して勝負に乗ってきた名前が何をしてくれるんかと期待しとったけど、今のところそれらしいアクションを起こされたことはない。ほんまに俺のこと落とす気あるん?て確認したなるぐらい、何もしてこぉへん。自分が彼女になれて、それだけで満足した?そんなタマやあらへんと思っとったけど。俺の見込み違いやったんかなあ。


「もう見に行かないから」
「は?なんで?」
「気が散るでしょ」
「別に。気にならへんけど」
「毎回練習終わりに送ってもらうのも悪いし」
「…どしたん?急にしおらしなって。気持ち悪」
「……ここでいい」
「ちょ、ほんま、なんなん?」


最近やけに大人しすぎるとは思っとったけど、今日はそれの最高潮やった。俺の言葉に言い返してくるどころか逃げようとして、俺が反射的に手首を掴んで引き留めたら俯いて。こんなんおかしいやん。


「もうやめる」
「…何を?」
「勝負、」
「俺を落とすの、諦めるん?」
「無理だもん」
「何もしてへんくせに、」
「だって好きになったら嫌われたくないって思っちゃうんだもん!付き合う前みたいに好き勝手言うことも、逃げることもできない。宮君みたいに上手に駆け引きすることもできない。気持ち悪いって、そんな言葉何回も言われたけど、いちいち傷付く。一緒にいたら、私の方がどんどん好きになるだけで…こんなの、勝負になんないよ」


俺の手を振り払うこともできんで感情を爆発させた名前は、せめてもの抵抗なんやろうか、こちらを強い眼光で睨んどった。その瞳には、悔しさと、切なさと、悲しさと、歯がゆさと、なんか色んな感情がごちゃっと詰め込まれとって、うっすらと膜を張っとるそれも、たぶんその感情が作り上げたもんなんやろうと思う。
女の涙は嫌いや。泣けばええと思ったら大間違いやぞ、と何度思ったことか。泣けば優しくしてもらえるとか、慰めてもらえるとか、そんな風に汚い武器として使う女が、俺は心底嫌いで仕方がない。けど、なんでやろう。名前の目から今それが零れたとしても、俺は嫌悪感を抱かん自信があった。むしろ、妙にそそられるというか。実際、この状況で向けられとる眼差しに、俺は少なからず動揺させられとる。


「自分、やっぱり俺のことめっちゃ好きやんか」
「…そうだよ、悪い?」
「ほな今ここでキスしてみ。ペナルティー。今ここで使うわ。俺の言うこと何でもきくんやったもんな?」
「な、」
「できるやろ。好きなら」
「ここでって…誰かに見られたら、」
「暗いし見えへんって。この時間、誰もここらへん歩いとらんし」
「…やだ、」
「好きやのに?何でも言うこときくって約束破るん?」
「宮君は私で楽しんでるだけでしょう?私は遊びでそういうことできる人間じゃない」


言いたいことは理解できた。名前が、恥ずかしいって理由だけじゃなく、本気で好きな奴じゃないならそういうことをしたくないって思っとることも、最初から知っとる。やから無性にイライラした。
名前と付き合い始めてからはずっと他の女の告白断っとることも、キスやらハグやらその手のお誘いは全部突っ撥ねとることも、この俺が2ヶ月もキス止まりで手出しとらんことも、俺が意味もなくやっとることやって思っとるんやろうか。そろそろ気付けや、あほ。


「遊びやなかったらええん?」
「何言って、」
「俺も好きやって言うたらキスしてくれるん?」
「思ってないならそういうこと、」
「自分のせいやんか。俺がこんなんになったんは」


道端の冷たいコンクリートの壁際まで名前を追い詰めて囲い込む。俺は今、どんな顔をしとるんやろう。自分じゃ見えんから分からへん。けど、かなり切羽詰まっとる自覚はあった。
好きやって言うたら正解?俺は1番最初、名前にそう尋ねた。好きとかそういうの分からへんって、好きでも嫌いでも男と女がやることなんか1つしかあらへんって、そう言うた。ちゃんと覚えとる。けど、今の好きやって言葉と、あん時の好きやって言葉はちゃう。名前が変えた。俺の考え方を。名前が教えてくれた。好きになるんがどういうことなんか。
素直じゃないのは俺の方やったんかなあ。


「責任取ってくれんと困るわ」
「宮君?」
「俺の負けでええから、キスしてや」
「……私達って面倒臭いね」


俺の頭を引き寄せて背伸びをし、ちゅ、と。小学生でもできるんやないかってぐらい控え目すぎるそれを落とした名前は、これでペナルティーはチャラだからね、と生意気なことを言った。こんなんキスとしてカウントされへんし。全然足りんっちゅーか中途半端すぎて逆に煽っとんちゃう?って感じなんやけど。なんで俺がこんなに振り回されなあかんねん。段々腹立ってきたわ。
正直、主導権を握られるんは性に合わへんけど。この先も俺のことを振り回せるもんなら振り回してみ?その分、俺も容赦なく振り回したるから。ああ、そういえば忘れとった。今度こそ正真正銘、彼女として、好きやって言うたらなあかんなあ。

モノトーンの終焉

あいこさま、この度は2周年企画にご参加くださりありがとうございました。
宮侑のこのシリーズ?を最初から読んでくださっているようで嬉しいです!ありがとうございます。今回は初の宮侑視点にしてみましたがいかがだったでしょうか?性格最悪だったはずの宮侑が恋をしてどんどん変わっていき、不器用ながらも恋人として成長した姿を楽しんでいただけたら幸いです。
黒尾のお話も読んでいただけているようで大変光栄です。これからもどうぞ宜しくお願いします〜!