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2nd Anniversary
thanks a lot !


誰がどう見てもおかしい。間違ったことをしている。そんなことは行動を起こしている自分が一番よく分かっていた。けれどもどうしようもなかったのだ。それはもう衝動的に、ほとんど自分の意思とは関係ないところで身体だけが勝手に動いてしまったというか、気付いたらこうなってました、というか。つまり現状は本意ではないのだけれど、この現状を招いたのは自分自身なのだからちぐはぐしている。
俺の隣にいるのはただの同級生。1年生の時に同じクラスだっただけで、まともに会話をしたこともない、名前を辛うじて覚えているぐらいの子だ。けれども不思議なことに、俺は現在進行形でそんな子と手を繋いで歩いている。自分から繋いだわけではないにしろ、それを振り払わなかったということは現状を受け入れているということに他ならなくて、けれども実のところ俺はこの状況を受け入れているわけではなくて。自分でも何がしたいのかさっぱり分からなかった。


「白布君、テーピング買うんだっけ?」
「ああ…うん」


女の子特有のころころとした猫撫で声で話しかけられるのは、正直耳障りだった。けれども俺は「黙れ」とも「その声ウザい」とも言わずに、必要最低限の返事のみをして目的地を目指して歩く。今ここで俺の隣にいるのが名前だったらどんなに良いだろう。そんなことを考えながら。
名前というのは俺の彼女だ。同じクラスで、そこそこ頭が良くて、うるさくなくて、変に媚びを売ってくることもない、女の子にしてはあっさりとしたタイプで、俺はそんなところが好きだった。けれども、付き合い始めて気付いたのは、彼女はどうにも淡泊すぎるということ。良くも悪くも感情に起伏がないためか、何を考えているのか分からないことが多かったのだ。
部活優先の俺に何も言ってこないのは非常に有難い。けれども、学校生活において俺が他の女子と何をしていようが無関心なのはいかがなものだろうか。そりゃあクラスメイトの女子と会話をしているだけで、浮気?などと束縛されたり、私とはあんなに喋ってくれないのに…などとめそめそされたりするのは興醒めだ。けれど、予期せぬ事態だったとは言え、自習スペースで自分以外の女の子と俺が2人きりで勉強をしているところを目撃したというのに、私は図書室に行ってくるね、と何事もなかったかのように去って行く名前を見た時には、お前俺の彼女じゃないの?注意のひとつもなくていいわけ?と思ってしまった。
そんなことがあってから、俺は少しばかり名前を試していた。それまでは女子から声をかけられても必要最低限の、それこそ先ほどの受け答えみたいな、会話とも言えないようなやりとりしかしていなかったけれど、少しだけ会話を広げるようにしてみた。そのせいか、1週間もすれば女子から声をかけられる回数は格段に増えて、俺は面倒臭いと思いながらもできるだけ愛想よく接することを心掛けた。しまいには彼女がいると知られているにもかかわらず、ラブレターまでもらった。勿論、名前にもその事実は伝えたけれど、白布君はカッコいいから仕方ないよねぇ、という一言で終了。ヤキモチのひとつも妬いてくれやしない。
俺が逆の立場だったら、きっと理不尽ながらも不機嫌さを全開にしていたと思う。俺と付き合ってるんだからそんなのもらうなよ、ぐらいのことは言っていたかもしれない。それは名前のことが好きだからだし、他の男に取られて堪るかという気持ちがあるからだ。けれども名前にはそういう独占欲や嫉妬心がまるでない。
自分でも嫌な性格だと思うし、こんなことをしたから何だって言うんだって感じではあるが、つまるところ俺は自信がなかったのだ。名前に好きだと思ってもらえている自信が、これっぽっちも。全てはそれを確かめたいがためだけに起こした行動。その行く末がこれ。俗に言う浮気と言うやつである。
何をしたら、どこまでいったら浮気なのか。それは考え方に個人差があるだろうからよく分からないが、少なくとも俺は名前が他の男と手を繋いで歩いていたら確実に浮気だと思うだろうし、はらわたが煮えくり返るに違いない。名前もそうであってほしい。そんな思いで俺に好意を寄せているらしいこの子が望む通りに手を繋いで歩いているのだけれど、俺は罪悪感と虚無感に押し潰されそうだった。
何やってんだ、俺。やっぱりこんなやり方は間違ってるだろ。今隣を歩いているこの子の気持ちも弄んでいるわけだし、もうやめよう。漸く正気に戻った俺は、繋いでいる手をやんわり解いて彼女と距離を取ろうとした。けれどそこでまさかの事態が勃発した。


「白布君…?」
「え、名前…なんで、」


学校から離れたこの場所で、名前に鉢合わせてしまったのだ。しかも俺はまだ女の子と手を繋ぎっぱなし。この状況を見て嫉妬させるというのが当初の目的だったはずなのにいざ見られると焦ってしまって、俺は慌てて繋いでいた手を離した。当たり前のことながら突然手を離された女の子は、え?と戸惑いを見せているけれど、今はそれどころではない。


「ごめん、声かけちゃって。私もう行くから」
「な、待てって!」


制止の言葉も伸ばした手も届かず走り去って行く名前を慌てて追いかけようとする俺の腕を引っ張る女の子は、私のこと本気じゃなかったの?と目を潤ませているが、申し訳ないことにこれっぽっちも本気じゃなかったのでちっとも心が揺らいだりはしない。ごめん、好きじゃない。端的にそれだけを伝えて腕に纏わり付く彼女の手を振り払う。勿論、名前を追いかけるためだ。
こういう時、白鳥沢の制服というのは結構目立つから探しやすいということに気が付いた。白いブレザーの女の子なんてそうそういやしない。というわけで、難なく名前を見つけ出した俺はやっとの思いでその手を掴むことに成功した。びくり、と驚きを身体全体で表現した名前は、振り返って俺の顔を確認するなり表情を曇らせる。


「さっきの子、いいの?」
「いい」
「私のこと好きじゃないなら別に、」
「そんなわけないだろ」
「でも!」
「でも…何?」


普段は声を荒げない名前が珍しく、というか俺の前では初めて取り乱した。俺を見据える瞳は少し揺らいでいて、先ほどの女の子とは比べものにならないほどの破壊力がある。もしかしたら俺はとんでもない勘違いをしていて、その勘違いのせいで名前を追い詰めてしまっていたのかもしれない。こんな状況になって、名前の表情を見て、漸くそんなことに気付く。


「…でも白布君、私のこと避けてたでしょう…?」
「避けてない」
「私より他の女の子と喋ってる方が楽しそうだったし、さっきだって、私とは手を繋いでくれたことなんかないのに、」
「…ちょっとこっち来て」


本当はすぐにでも抱き締めてしまいたかった。ごめん、好きなのは名前だけだから、名前以外に興味とかないからって言ってやりたかった。けれど、ここは人通りが激しいのでそんなことはできなくて、俺はぐいぐいと名前の手を引っ張って人気のないところを探す。そうして、お店がひしめく通りを抜けたところの路地裏で、もう誰かに見られても良いやと言わんばかりに初めて抱き締めた身体は、思っていた以上に小さくて柔らかくて、俺が力加減を間違えたらぽっきりと折れてしまいそうなほど細かった。


「白布く、」
「ごめん」
「…何、が、」
「俺がただ餓鬼だっただけ」
「どういうこと?」
「嫉妬してほしかったんだよ、名前に」
「……そんなの、ずっとしてる」


付き合う前からずっと、白布君は目標をもって毎日を過ごしてて、私よりずっとずっと先を走ってる人で、そんな人と付き合えてるだけで幸せなんだから、ちょっとやそっとのことで嫉妬なんかしちゃいけないって思ってたけど、そんな白布君だから遠くに行かないでって何度も思っちゃったよ。でも白布君、そういう女は嫌いでしょう?だから私、
それ以上は聞きたくなかった。違う、聞きたいけれど、聞いたら色々抑えているものが吹っ飛びそうな気がしたから、聞かない方が良いと思ったのだ。だから、黙って、と。もうそれ以上は良いから、と。無理やり口を噤ませた。
身体を離す。視線を交差させる。それから、どうしようかと一瞬迷って。家まで送る、と、手を握った。もうあんな馬鹿な真似は2度としないと誓いながら。


「買い物、あるんじゃなかったの?」
「それは後から1人で行く」
「私が一緒に行ったら邪魔?」
「帰り、遅くなるだろ」
「白布君が送ってくれるんでしょう?」
「…そうだけど」
「白布君」


デートしたいなっていう我儘言ったら、嫌いになっちゃう?
恐る恐る、けれども明確な意思を持って俺を見つめる名前は、俺が知らない表情をしていた。今まで感情を表に出さぬよう努力していたのだろう。けれどその努力を止めた名前の顔は、それまで見てきたどんな表情よりも魅力的に映っていた。
嫌いになんかなるわけないだろ。そっぽを向いてぶっきら棒に吐き捨てた言葉を丁寧に拾い上げた名前は、じゃあ行こ、と。俺の手を引いて来た道を引き返し始める。正直、束縛されたり、あれがしたいこれがしたいと強請られるのは絶対に嫌だと思っていた俺だけれど、それはどうやら相手によるらしい。

くだらないよね、愛おしいよね、

るるさま、この度は2周年企画にご参加くださりありがとうございました。
白布が浮気をするというシチュエーションが全く思い浮かばず、こんなことで浮気って言えるか?とも思いましたが、初々しい高校生らしさを味わっていただけたら良いかなと思って結局このような形になりました。思っていた内容と違っていたら申し訳ありません。
毎日通ってくださっているとのことでありがとうございます!これからもどうぞ宜しくお願い致します〜!