×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

2nd Anniversary
thanks a lot !


※社会人、夫婦設定


好きな人と結ばれて永遠の愛を誓い、ひとつ屋根の下で暮らし、同じベッドで身を寄せ合って眠る。結婚したらそんな毎日が続くと思っていたし、たとえ毎日とは言えなくとも365日中360日ぐらいは幸せで溢れているはずだと夢見ていた。そう、私は夢を見ていたのだ。結婚というものに。
高校の同級生だった私と一也は、一也が野球部を引退してから付き合い始めた。元々彼に好意を寄せていた私が彼からの告白を断る理由はなく、これからも野球は続けるから野球優先になってしまうかもしれないけどできるだけ大切にする、と言ってくれたことに嬉しさのあまり涙ぐんでしまったのを覚えている。
言葉通り、彼は高校卒業後にプロ入りを果たしてからずっと野球一筋だ。それは現在進行形。そして私のことを大切にしてくれるという約束も守り続けてくれて、私の大学卒業とほぼ同じタイミングでプロポーズ。それはそれはもう嬉しかった。一生分の幸せを使い切ったかもしれないって思うぐらい最高な気分だった。結婚式の時もハネムーン中も一緒に暮らし始めてからもそれは続いて、きっと私はこの幸福感に包まれながら死ぬんだろうとまで思った。
けれど結婚してから1年が経った頃からだろうか。少しずつ変化が生じ始めたのだ。プロ野球選手である以上、シーズン中の彼は試合の行われる場所に転々としなければならない。そうなることは最初から分かっていたから、家で1人で過ごすことが多いのは仕方のないことだと思っていたし、その分、一緒にいられる時には存分に2人の時間を楽しめば良いと思っていた。
しかし彼は2人でいる時、特にシーズンオフ中、結構素っ気ない。恋人関係だった頃は毎日一緒にいたわけではないから、会うたびに甘ったるい雰囲気になっていたような記憶があるけれど、結婚してからはそれがほとんどなくなった。私だって、毎日いちゃいちゃしたいと言っているわけではない。けれど、もう少し野球雑誌に向ける眼差しをこちらに向けてくれても良いんじゃないかなと思ってしまうようになった。
料理だって、野球選手の妻だから頑張らなくちゃと思って必死に勉強しているのだけれど、彼は料理の反応を窺う私に飽き飽きしているのか、全部食ってるってことは不味くないってことだから、というセリフしか言ってくれない。勝手に頑張っているだけなのだから、努力を認めてほしいとかもっと褒めてほしいなんて思うのはおこがましいことだって分かっているのだけれど、それでも「美味いよ」というシンプルな一言が欲しいときだってあるのだ。


「来週の日曜日なんだけど、夜は飯いらないから」
「え」
「昼はちょっと出かけると思う」
「そう、なんだ、」


不満というか不安というか、そういったものが少しずつ積み重なってきていた時に彼から浴びせられた言葉達は、私の心を容易に抉る。来週の日曜日。それは私達の2回目となる結婚記念日だった。密かにご馳走を用意しようと思っていた私は、落胆するより他ない。しかも日中まで不在となると、その日彼と過ごす時間はほとんどないということになる。
彼と一緒にいるといつも世界が輝いて見えて、心がポカポカ温かくて、幸せだなあって感じられるに違いないって、そう思ったから結婚した。彼だって、私と一緒にこれからの人生を歩みたいと思ったからプロポーズしてくれたはずだ。けれども現状はどうだろう。まだ結婚してたったの2年でこれって、この先どうなるんだという絶望感しかない。
そんな、結婚してから最悪の気分で迎えた結婚記念日当日。朝ご飯を食べた彼は夕方までには戻ると言って出て行ってしまい、私はぽつんと家に取り残された。何が楽しくてこんな気持ちで結婚記念日を過ごさなければならないのか。シーズン中ならともかく、今はまだシーズンオフだ。私と一緒に過ごそうと思えばいくらでも調整はできるはずなのに、あえて今日予定を入れるなんて、彼の気持ちが私から遠退いているからに違いない。
考えれば考えるほどドツボに嵌まっていって、負のスパイラル。キラキラ輝く温かい幸せはどこへやら。今の私の世界は完全にモノトーンで統一されていて冷たい。だからと言って、離婚、なんて安直に考えられるほど、私は彼のことが嫌いになれなくて。むしろ、嫌いだなんてどうやったって思えない。ずっと好きなのだ。好きだからこそ、この状況が辛いと思うし、彼が離れていくような感覚に耐えられずにいる。
そうして気付いたら私の目からは涙が零れ始めていて、止めようと思ってもちっとも止まらない。拭っても拭っても頬は濡れていくばかりで、涙腺が崩壊してしまったんじゃないかと思うほど。そんな状態の時にガチャリと玄関の鍵が開く音がして、彼が帰って来てしまったことを悟る。まだ出て行ってそれほど時間が経っていないのに、どうして帰って来たのだろうか。いや、今はそんなことよりもこの涙をどうにかしなければ。必死に顔を拭いてはみたものの赤く染まった目元は誤魔化せないし、涙も止まり切っていない。私は彼がリビングに入ってくると同時に顔を見られないように背を向けて台所に立ち、おかえり、と声を発した。大丈夫、声は震えていない。


「早かったね。忘れ物でもした?」
「いや…ちょっと確認したいことがあって出ただけだから。それより、何かあった?」
「え?なんで?何もないよ?」
「嘘吐くの下手だからバレバレ」
「ほんとに、何もないってば」
「じゃあこっち向け…、」


手を強引に引っ張って振り向かせた彼が言葉を失ったのは、私が泣いているとまで予想していなかったからだろう。名前?泣いてんの?と、珍しく少し焦ったように言うのがおかしくて、泣いているのに笑ってしまう。


「マジでどうした?」
「どうした?って…私が泣く原因なんか限られてるでしょ」
「…俺のせい?なんかしたっけ?」


その反応を見て、私は肝心なことを思い出す。そうだった。彼は野球以外ポンコツだった。だから私がうだうだ悩んで不安になっていることも、全部気付いていないのかもしれない。恋人時代は好き放題に自分の気持ちや欲望を主張していたけれど、結婚してからは彼の足手纏いにならないよう、良い妻として我慢しなければと自分の気持ちを口にすることはなくなっていた。もしかしたらそれが原因でこうなってしまったのかもしれない、と。唐突に気付いたのだ。


「一也、今日が何の日か分かってる…?」
「今日?結婚記念日だろ」
「覚えてたの?」
「忘れるわけねぇじゃん」
「覚えてたくせに、私を1人置き去りにして出かけて、夜ご飯もいらないとか言ったの?」
「え。夜ご飯作りたかったの?」
「私、結構前からメニュー考えてたし…2人でゆっくり過ごせたらいいなって思ってたのに…」
「そういうことは早く言えよ…店予約したし…貸し切りにできたか確認までしに行ったのに」
「えっ」


しかもコースメニューの内容は私好みにするために彼が考えてくれたらしく、柄にもなく花束まで準備したとのこと。先ほど出かけたのはその最終チェックのためで、思っていたよりも時間がかからなかったから早く帰って来たらしい。そういうことを考えるのも実際にアクションを起こすのも苦手な彼が、まさかそこまで用意してくれているなんて、誰が予測できただろうか。彼は彼なりに一生懸命私を大切にしようとしてくれている。それは結婚する前も後も変わらないということを、漸く実感する。
ふふ、と。私はまた笑ってしまった。泣いたり笑ったり、彼のせいで私は非常に忙しい。私の心情の変化が全く読み取れていないらしい彼は、はあ?と眉間に皺を寄せていて、それにもまた笑いが込み上げてくる。


「私ね、不満だったの」
「不満?」
「結婚してから一緒にいる時に素っ気なくなっちゃったことも、頑張って料理しても美味しいって言ってくれないことも、結婚記念日に一緒にいてくれないことも、不満だったし不安だった」
「そんなこと思ってたのかよ…」
「言わないと分かんないよね。一也、鈍感だもん」


鈍感、という言葉に反論したそうな彼だったけれど、口を噤んだところを見ると鈍いという自覚はあるらしい。バツが悪そうにしている彼はなかなかレアだ。


「今度からはちゃんと言うようにする」
「あ、そ…」
「それで早速なんだけど…今日はとびっきり私のこと甘やかしてほしいな」
「…それ、今から実践して良い?」
「え?」
「甘やかし方とか知らねぇけど…名前がどういうことしたら喜ぶかは知ってるから」


ニヤリ。笑みを浮かべた彼はすっかりいつもの自信満々な姿に戻っていて、私を抱き上げたかと思ったら寝室に運ばれた。違う。甘やかすってそういうことじゃない。いや、そういうことも含まれるかもしれないけど、今は違うよ一也。そういう女心が分からないところ、本当にポンコツだよね。
でも、まあ。一緒にいられる時間が長くなった分どれぐらいの頻度で求めたら良いのか、どのぐらいの距離感を保てばいいのか図りかねていたこととか、私の手料理に対して毎回「美味い」って言葉は陳腐すぎやしないかとあえて口にしていなかったこととか、慣れないサプライズの準備に手間取って結果的に私のことを放ったらかしにしてしまったこととか、そういうこと全部、愛おしいなあって思ったから。今日は彼なりの方法で甘やかしてもらうことにしようかな。
来年も再来年も、10年後も20年後も、彼が私の世界を染め続けてくれますように。その願いは彼の体温という形で私の元に返された。そうそう、この瞬間が1番幸せなんだよね。結婚に夢を見ていた私は、どうやらもう少し夢を見続けることができそうだ。

彩の温度

さくやさま、この度は2周年企画にご参加くださりありがとうございました。
ただの幸せいっぱいな結婚2周年のお話にするつもりだったのになぜかこんなことになりました。おかしいな笑。でも御幸って野球以外ポンコツだから結婚してからの距離感とか分からなくなってそうだよな…って思って…結局妻のこと滅茶苦茶好きなんですよね…御幸一也ポンコツだけど最終的に幸せにしてくれるからズルい…
さくちゃんが思っていたようなお話じゃないかもしれないけど御幸一也に愛されてるなあって感じてもらえたら嬉しいです!いつも嬉しい言葉をありがとう…これからも宜しくお願いします!