×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

2nd Anniversary
thanks a lot !


何もかもがキラキラして見えるって経験、誰にだって1度はあるんじゃないだろうか。私は今まさにその経験の真っ只中にいて、キラキラの中心には必ずとある人物がいる。その人がそこにいるだけで周りがぱあっと明るくなって、笑いが溢れて、ちょっぴり元気がなかった人もいつの間にかニコニコしてしまう。そんな、太陽を具現化したみたいな人。私はそれを遠くから眺めて光のお零れをもらう程度の人間でしかないけれど、それで十分だった。キラキラというよりギラギラ、ピカピカしている彼に近付いたら焼け焦げてしまいそうだから。


「木葉ぁ…どうしよう」
「何が」
「前から言ってるんだけどさぁ」
「あー、うん、いいわ。それなら言わなくていい。分かるから」
「私そろそろ溶けて死ぬかもしんない」
「言わなくていいっつったのに」


机に項垂れる私に、はあ、と大きく溜息を吐いて呆れ混じりに言葉を落としたのは、幼馴染の木葉。時刻は昼休憩を20分ほど過ぎたところ。場所は木葉のクラスである3年3組の教室で、私は木葉の前の席をお借りしている。
キラキラの中心人物と木葉は同じバレー部に所属していて仲が良い。だから私は幼馴染のよしみで、木葉にだけ自分の気持ちを打ち明けていた。
今日も木兎がキラキラしてて眩しい。あの笑顔にやられた。バレーしてるところも最高に輝いてる。しょんぼりしてる時ですら可愛くて癒される。ちょっと抜けた感じも愛嬌があって良い。とにかく眩し過ぎて直視できない。木兎が太陽なら私はそろそろ溶けるに違いない。エトセトラ。
抱え切れないこの思いを、木葉にぶち撒け続けて早1年。3年生になり同じクラスになった時にはそれこそ嬉しさと「溶けてしまうんじゃないか説」により死ぬんじゃないかと思っていたけれど、人間はそう簡単に死なないようにできているらしく、私は夏休み前の7月上旬になっても元気に生きている。
相変わらず木兎は眩しいし、なんならキラキラ加減に拍車がかかっているようにすら感じるけれど、それを木葉に言ったら鼻で笑われた。あれほどの逸材であるチームメイトの魅力に気付けないなんて、哀れなやつめ。


「クラス戻んなくていーの?」
「なんで」
「少しでもキラキラ補充?だっけ?しなくていーのかなと思って」
「毎日十分すぎるほど補充してるから休憩中なの…マジで溶けて死なないようにしなきゃいけないからさ」
「あっそ。……でもたぶんその原理でいくと、お前そろそろ死ぬんじゃね?」


物騒なことを言う幼馴染である。これでも自殺志願者というわけではないから気を付けなければならないと思ってここに避難しているというのに、その努力は無駄だと言うのか。
私は顔を上げると、どういう意味?と木葉に尋ねようと口を開きかけた。が、そこで突如として木葉の隣に現れた人物によって、私は声を失ってしまう。その人物というのがキラキラの中心人物であり私の想い人である木兎光太郎だったからだ。
木葉は木兎がここに近付いてくる姿が見えていたからあんな発言をしたのだろうか。だとしたらとんでもない殺人鬼である。私がどれほど木兎のことを想っているか、崇拝しているかを知っているくせにこの所業。どう考えたって嫌がらせか、私に恨みがあるとしか思えない。
とは言え、木兎は私ではなく同じバレー部の木葉に用事があって来たのだろうし、そーっとこの場を立ち去れば不要な接触をする必要はなくなる。本当だったら普通に、やっほー!ぐらいの勢いで話しかけたいところだけれど、そんなことをしてピッカピカの笑顔を向けて返事されようもんなら心臓が止まる可能性が高すぎる。
クラスでの私と木兎の距離はというと、普通のクラスメイトより少し遠いぐらい。おはよう、の挨拶ができれば上等。授業の一環でペアになったら自分の持ちうる限りの集中力を酷使して平静を装う程度の関係だ。あとは木葉と話してる時、ちょっと会話をすることがあったりなかったり。
恐らく木兎の方は何とも思っていない、もしくは私のことをきちんとクラスメイトとして認識していないだろう。数少ない接触の機会でも目が合ったことはないし、笑顔を向けられたこともないから。それが寂しいというか残念というか、分かっていたことではあるけれど自分が普通の女の子以下の存在だと言われているようでヘコむ。けれども、そのお陰で今日まで生き延びることができているのかもしれないから、きっと私達の関係はこのままがちょうどいいのだと思う。


「名字ってさ」
「は?え、わ、私?」


それはあまりにも急すぎる展開だった。木葉に用事があって来たはずの木兎が、私に顔を向けて私の名前を口にしたのだ。こんなの、狼狽えずにいられようか。私はキョロキョロと視線を彷徨わせてしまっていて、かなり挙動不審。でも、どこを見たら良いのか分からないのだから仕方がない。
パニック状態の私になどお構いなしで、木兎は大きなくりくり眼を私に向けたまま話を続けようとする。ちらり。う、やばい、一瞬目を合わせてしまった。私はすぐさま視線を逸らす。

「そう。名字ってさ」
「は、はい」
「木葉と付き合ってんの?」
「え。ないないないない」


突拍子もなさすぎる話題に私は僅かフリーズして、そのお陰で脳が冷静さを取り戻したのか、凄い勢いで否定の言葉を口にしていた。木葉が、否定しすぎじゃね?と言っているけれど、無視。今は木兎と話をしているのだ。木葉と会話をしている余裕はない。
わりと真顔で即座に答えた私に、木兎の眼は相変わらずくるりとこちらに視線を注ぎ続けている。見ていないけれど、分かるのだ。全身にキラキラビームを受けているのを感じるから。


「でも木葉とすっげー仲良いよな?」
「幼馴染、だから」
「マジか!いいな!」
「いい…?」
「俺も名字と幼馴染が良かった!」


すごく今更なのだけれど、木兎はどうしてわざわざ3組の教室に来てまで同じクラスの私なんぞに声をかけてきてくれているのだろうか。しかも幼馴染が良かった、なんて発言までしてくれて、今日は私の誕生日でもなんでもないのに、何のサービスだ。ていうか、どういうつもりでそのセリフを発したんだろう。


「幼馴染だったらキンチョーしなくて済むし、もっと普通に話せんのに」
「緊張?」
「木兎は名字相手だと緊張するから俺をダシに使ってんだもんな?」
「あ!それは言うなって言ったのに!」
「自分から暴露してただろ」


木葉がニヤニヤしながら私を見遣っていて、本来ならムカついて睨んでいるところだけれど、今の私にそんなことをする余裕はこれっぽっちもなかった。
だって、あの木兎が、誰にでも分け隔てなく同じように明るく気さくに話しかけられるタイプの木兎が、私を相手にする時だけは緊張するって、まるで特別だって意味合いを込めたことを言ってくれたのだ。ただでさえバクバクうるさかった心臓が、これでもかと暴れ始めるのも無理はない。


「名字も、木兎に近付きすぎたら溶けて死ぬとか意味わかんねーことずっと言ってるし」
「溶けて死ぬ?なんで?」
「な!ちょ、木葉!」
「いやマジで、お前らそろそろ俺を仲介にすんのやめて。みんな気付いてっから」


みんな、とは。木葉を責めるのも自分の気持ちを勝手に暴露されて恥ずかしくて死にそうなのも全部忘れて、私と木兎は思わず目を見合わせる。いち、に、さん。4秒目に到達する前に我に返った私は、ぼぼぼっと顔に熱を灯す。と同時にガタンと席を立って猛スピードで教室を飛び出した。
嘘だ嘘だ。私の気持ちが木兎以外の人にバレバレだったなんて、そんなこと絶対に有り得ない。だって私、普通にしてたもん。距離も近付きすぎないように頑張ってたし、バレる要素なんてないはずだし。
それよりも何よりも「お前ら」と言った木葉の言葉の意味を考えたら、私だけじゃなくて木兎もそうだったのかもって、妙な期待だけがどんどん膨らんでいってしまって収拾がつかない。だからちょっと整理させて。時間を置いても整理なんてできないかもしれないけど、でも、ちょっと待って。
そう思っていると背後から、名字!待って!と、追いかけて来ているらしい木兎の声が聞こえてきて、私は死の覚悟をした。捕まるのは間違いない。たとえ捕まらなくても、どうせ同じクラスだから5時間目が始まる前に詰め寄られるのがオチのような気もする。
ああ、どうしよう、どうしよう。


「名字って!俺のこと好きなの?」
「そんなこと大きな声で言わないで!」
「だとしたら俺と同じなんだけど!」
「だから!そういうことは!大きな声で言わないで!」


どうしようもこうしようもなく、私は生徒達で賑わう廊下を走りながら公開告白をされるという最低で最高な仕打ちを受けてしまった。捕まるまであとどれぐらいの猶予があるだろう。捕まったら最後。私はきっと溶けちゃうんだ。死にはしないと思うけど。

太陽ラリマー

じうさま、この度は2周年企画にご参加くださりありがとうございました。
普段誰にでもド直球で裏表のない木兎が本命の女の子を前にすると「どうやって笑うんだっけ?」とドギマギしたら可愛いよなと思って、そういうイメージで書かせてもらいました。個人的には幼馴染の木葉くんを最大限に活用することができて楽しかったです!笑
お褒めの言葉ありがとうございました!今後も素敵と言っていただけるよう精一杯頑張って執筆していこうと思いますので、どうぞ宜しくお願い致します〜