×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

2nd Anniversary
thanks a lot !


自分で言うのもなんだけれど、俺は結構心が広い方だと思う。例えば自分の彼女が教室内で男子達に囲まれて楽しそうに雑談をしていようが、俺ではなく米屋と2人でボーダー本部への道を歩いていようが、何も言いやしなかった。言わないからといってその行動を許しているというわけではないけれど、兎に角、俺はなかなか寛容な方だと思うのだ。
今日だって、彼女である名前は学校からの帰路を俺と共にすることなく一足先にボーダー本部へ行っていて、色々と教えてもらうんだ、と息巻いていた。誰に、って、それがあの二宮さんだから、俺は納得できずにいるのだけれど。
名前は俺と同じ射手だ。今はB級でフリーだけれど、ちょこちょこと色々な隊から声をかけられていることは知っている。それぐらい期待値が高いやつなのだ。個人ランクだけで言うならまだまだではあるけれど、センスはあると思うしトリオン量もそこそこある。磨けば光るダイヤの原石って感じだ。
そんな名前がステップアップのために弟子入りを志願したのが二宮さん。戦い方のノウハウに加えて、できたら合成弾の使い方まで教えてもらいたい、と言っていたのを聞いた時の俺の気持ちが分かるだろうか。容易に想像はできると思うが、なんで俺に聞かねぇんだよ、と思った。同時に、もしかして彼氏なのに俺のこと嫌いなんじゃ?とすら懸念した。
恩着せがましいことは言いたくないけれど、名前に射手としての基礎を教えてやったのは他でもない俺だ。しかも合成弾に至っては俺が発案者であり、なんなら二宮さんの師匠でもある。そのことは名前だってよく知っているはずなのに、現状はコレなのだから全く意味が分からない。しかも、キッパリ断るかと思っていた二宮さんがまさかの弟子入りを了承したと言うのだから、俺の中の蟠りは膨らむ一方だ。
明日は土曜日で学校が休みということもあり、今日の夜から防衛任務に就くことになっている俺は、足取り重く自隊の隊室に向かう。その道中、俺の前に突然現れたのは迅さんだ。まあこの人がふらりと現れるのはいつものことなので驚きはしないけれど、この人が現れる時には何かしら言いたいことがある場合が多いのもまた事実なので、俺は少し身構えてしまう。ぼんち揚げ食う?とお決まりのフレーズを口にしながら袋を傾けてくる迅さんに丁寧に断りを告げれば、迅さんはバリバリと盛大に音を立てながらそれを貪った。


「今日の防衛任務は何も起こらないよ」
「…そっすか」
「何か起きたとしても太刀川さんだけで対処できるレベル」
「それって暗に、俺はいらないって言ってます?」
「どうするかは自分で決めたら良いけどね」


親切と言うべきかお節介と言うべきか。恐らく何かしらが視えているのであろう彼は、おれは伝えたからね、と一方的に話を終了させてふらふらと去って行ってしまった。俺が何に悩んでいるのかすらもお見通しということなのか。まったく、あの人には敵わない。俺はあともう少しで隊室、というところで踵を返すと、別の場所を目指して歩みを進めた。


◇ ◇ ◇



コンコン。ノックの音が聞こえた直後に入って来た人物が誰なのかを確認するためなんとなくそちらに顔を向ければ、今日の夜から防衛任務にあたると言っていたはずの出水君が立っていた。普通ならこの時間は隊室で軽くミーティングをするはずだけれど、もう終わったのだろうか。太刀川隊はそこら辺が結構ルーズなイメージがあるから、もしかしたらミーティングすらしていないのかもしれない。
何にせよ、この二宮隊の隊室にわざわざ来たということは、二宮さんか、もしくは私に用事があるということなのだろう。二宮さんもそのことを察したらしく、どうした、と短く用件を尋ねている。


「ちょっと名前のこと借りていいっすか」
「俺は構わないが」
「出水君、防衛任務じゃなかったの?」
「それはまあどうにでもなるから。それより話がある」


彼は普段、そんなに強引じゃないし、どちらかというと温厚なタイプだと思う。けれど、今日は少し様子が違って見えた。そういえば先にボーダー本部に行くと伝えた時も微妙な顔をしていたっけ。昼間の学校での出来事を思い出しながら、私は二宮さんに一礼してから隊室を後にした。
どこに行くのだろうかと思っていたら、そこは太刀川隊の隊室。相変わらず個々の私物が散乱しているこの部屋はまるで家のようで落ち着くのだけれど、そろそろ掃除のお手伝いに来た方が良いかもしれない。柚宇さんは?と尋ねれば、防衛任務まで時間があるのでギリギリまで家でゲームをしているとのこと。さすがすぎる。
ソファに置いてある荷物を避けて座るように促されたので言われた通りに腰を下ろすと、彼もその隣にゆっくりと座った。話がある、と言っていたけれど、改めてそう言われると緊張してしまう。彼と付き合い始めてまだ3ヶ月。こんな空気になったのは初めてのことかもしれなくて、私の嫌なドキドキは増していく一方だ。


「あの、出水君…話って?」
「あー…いや、なんかそんな畏まってする話でもねぇんだけど」
「うん」
「名前って俺のこと避けてんの?」
「え!いや、そんなつもりはなかったんだけど…どうして?」


思ってもみなかった質問に驚きを露わにすると、彼はきょろきょろと視線を彷徨わせる。カッコ悪ぃな、とぼやいたような気がするけれど、聞き間違いだろうか。私は依然として変な緊張感を保ったまま彼の言葉を静かに待つ。


「俺は名前が射手になってから頑張ってんのを知ってるし、応援もしてる」
「うん。ありがとう」
「強くなりたいって気持ちも分かる、けど」
「けど?」
「……なんで二宮さんに頼んのかなって」


俺がいるのに、と小さく続けられた言葉に、私はどきりとしてしまう。
彼の言うことは尤もだった。私に射手としての基礎や知識を教え込んでくれたのは彼だ。しかも彼はA級1位の射手であり、合成弾の使い手。面倒見も良くて教え方だって上手な最高の師匠候補である。玉狛支部の三雲君にもアドバイスをしてあげていたようだし、普通に考えたら彼氏である出水君に色々と教わるのがベストなのだろう。
けれど、私はあえて二宮さんに弟子入りを志願した。それはなぜか。答えは至極シンプルだった。それを彼に言うのは憚られるけれど、ここで下手な嘘を吐いて誤魔化し嫌な雰囲気になるのは最も避けたい事態だ。いつかはきかれるだろうと思っていたけれど、まさかこんなに早く詰め寄られるとは思っていなかった私は、何度か小さく深呼吸を繰り返してから口を開く。


「理由きいても笑わない?」
「笑わない」
「呆れない?」
「言ってくんねぇとなんとも」
「…にいたら、……じゃないかな、って、」
「何?」
「だからね、私とずっと一緒にいたら嫌われちゃうんじゃないかなって」
「は?なんで?」
「だって出水君は天才肌だから何でもすぐできちゃうけど、私は凡人だから絶対に時間かかるし迷惑かけちゃうし、最初はちょっと頼っちゃったけど付き合ってるからってこのまま甘えすぎるのもどうかなって思うし、ただでさえ学校でも結構一緒にいるのにこれ以上私との時間増えたらさすがにうざいかなって……」


この際だからもう全部ぶち撒けてやろうと思いペラペラと理由を伝えれば、しーんと静まり返る室内。横目で彼の様子を窺うと、ぽかんと、完全に呆れているっぽい表情が目に入って俯いた。ああ、だから言いたくなかったんだ。そんな理由かよ、と鼻で笑われるのは分かりきっていたから。
そうだよね、考えすぎだよね。いや、考えすぎっていうか私が勝手に出水君のこと好きすぎて嫌われないように必死なだけなんだけど。正直なところ、ボーダー隊員としても彼氏としても上出来な彼に少しでも見合う彼女になりたくて、愛想を尽かされないように悪足掻きしている自分を知られるのが、怖かったのだ。
何だよもー…、と。隣で彼が首を垂れるのが分かった。そして、思いがけず背中側から伸びてきた腕が私を彼の方に引き寄せる。彼の肩に寄りかかるような形になっている私は、ちょっと状況把握が追い付かなくてカチコチだ。一体これはどういうことなのだろうか。


「迷惑とか思わねぇし、どっちかというと甘えてほしいし、何なら学校でもボーダーでももうちょい俺に構ってほしいんですけど」
「ぅえっ!?」
「いや、なんでそんな反応になんの。俺、彼氏なのに普通に嫌われてんのかとすら思ってたんだけど」
「嫌いなんてそんな!むしろす……、」
「す?」
「……好き、です」
「ん。良かった。俺も」


私を抱き寄せる腕の力が強くなって、身体が更に彼の方に傾く。あまりこうして2人きりで過ごしたことがないものだから心臓はこれでもかと大暴れしていて、どうやったら落ち着かせることができるのか分からない。彼に触れているところからジンジンと熱が伝わってくるようで身体が熱くなってくるし、ちょっと顔を上向かせれば彼の顔がそこにあるから下手に動くこともできないし、私は微動だにできない。
そのことを分かっていてわざとなのか、彼が私の名前を呼んだ。返事はするけれども顔は動かせない。しかしここで、こっち向いて、とのオーダーを入れられてしまった私は、どうにかこうにか、ブリキのおもちゃみたいにギシギシとぎこちない動作で僅かに顔を動かした。


「キスしてい?」
「う、だめ、」
「マジか」
「ごめん」
「へこむわ」
「…そうだ、そろそろ柚宇さん来ちゃうんじゃ、」
「うん、そうなんだけど、」


ごめん、と彼が言った直後、だめって言ったはずなのに控え目にぶつかった唇。はいおしまい。ごめん。そんな言葉とともに素早く離れた彼は、自分からそういうことをしておいて照れているらしく、ソファから立ち上がって私に背中を向けた。手の甲で口を覆う。身体の熱は最高潮に達していて、今なら美味しいお肉が焼けちゃうんじゃないだろうか。
ちょうどそのタイミングでガチャリと部屋の扉が開いて柚宇さんが登場したことによって、私は、お邪魔しました!と逃げるように隊室を去ることに成功したのだけれど、きっと彼は柚宇さんから質問責めにされることだろう。ごめんね、出水君。でも防衛任務をサボろうとした罰は受けるべきだよ、きっと。
後日、二宮さんには丁寧にお礼を言って出水君に教えてもらう旨を伝えた。世話のかかる…と眉間に皺を寄せられたけれど、お咎めはなしで一安心。ただ、太刀川隊の隊室に行ったら以前にも増して柚宇さんと太刀川さんにいじられるようになってしまったので、暫くは近付かない方が良いだろう。学校でも前より一緒に過ごす時間が増えたから米屋君にいじられるようになっちゃったし。でも、私も出水君も、たぶん前より満ち足りているから、これで万事上手くいったということで良いのかもしれない。

射殺すなんて
お手のもの

かのんさま、この度は2周年企画にご参加くださりありがとうございました。
ワートリ沼に嵌り抜け出せなくなっている最中だったので出水君を書かせてもらえてとても楽しかったです…出水君は私の中でちょっとピュアっぽくて彼女のこと大好きそうだよな、と思ったのでこのような仕上がりになりましたが大丈夫だったでしょうか?高校生らしくピュアに…末永く爆発してほしいですね(?)
嬉しいお言葉を沢山ありがとうございました!できれば今後もちまちまと書いていけたらと思っておりますのでどうぞ宜しくお願い致します〜