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2nd Anniversary
thanks a lot !


「ねぇねぇ今日の仕事終わり暇?」
「俺はいつも暇じゃないと言っているはずだが」
「あ、暇なんだね。じゃあまた連絡するから」
「おい!名字!」


いつもこうだ。彼女は一度たりとも俺の話を聞いてくれたことがない。俺は大きな溜息を吐くと、頭の中で今日のスケジュールを確認する。幸か不幸か、降谷さんが別件で忙しくしているためここ最近は急な任務を与えられることがなく、公安部の俺としては非常に穏やかな日常を送っていた。だから困ったことに今日も残業はそこまで長引きそうになくて。つまり俺に、彼女の強引な誘いを断る理由はないということだ。
配属部署が違うというのに、彼女は俺の仕事内容を把握しているのだろうか。俺を誘ってくるのはいつもこうした穏やかな日だけで、忙しくて何日も寝ていない日なんかは顔を合わせることすらない。そう、タイミングが良すぎるのだ。けれども俺は曲がりなりにも公安警察なわけで、たとえ同じ警察官であっても自分の行動を誰かに悟られるわけにはいかない身。帰り道やトイレの中ですら気を抜いていないつもりだから、俺の行動パターンを把握されているなんてことはないはずだと信じたい。
今日も何事もなく、通常業務だけで仕事が終わった。そしてそれを待っていたかのように携帯が震える。相手は名字。やはり、彼女は俺のことをどこかで監視しているのではないかというほどタイミングよく行動を起こしてくる。俺よりも公安に向いているかもしれない。


「風見〜そろそろ終わった〜?」
「…もう酔っているのか」
「まさか!待ってるから早く来てね〜!」


一方的にかかってきた電話は切られる時も一方的で、呆れ半分で携帯を眺めていれば店の位置情報らしきものが送られてきた。どうやらここに来いということらしい。よくよく考えてみれば、俺は行くという返事をしたわけではないのだから、こんな一方的すぎる強引な誘いには乗らなくても良かった。いつまで平穏な日々が続くかも分からないし、こういう時は早く帰ってさっさと寝るに限る。それに俺は、24時間365日、いつどのような形で降谷さんから連絡が来ても良いように身構えておかなければならないのだから、お酒など飲んでいる暇はない。…のだけれど。
同期だからなのか、彼女の性格に振り回されているだけなのか、それは分からないけれど、俺はどうにも彼女の誘いをすっぽかすことができなかった。今日だけじゃない。いつも、だ。だから彼女は俺を気軽に誘える飲み友達と認識しているようで、非常に心外である。俺は本当に暇じゃないというのに。
がらり。そんなことを思いながらも俺は、送られてきた位置情報を頼りに店の扉を開いてしまう。店の少し奥の方のカウンター席からひょっこり顔を出した彼女は、待ってたよ〜!なんて言いながら手招きしてきて、本当にお気楽だ。けれどもその緩い笑顔に、ほんの少しホッとするなんて。きっと公安部には彼女のようなタイプが存在しないからそう思うだけだろう。
彼女のもとまで歩いて行き、隣に座る。ビールで良いよね?と尋ねてきたわりに俺の返事を待たずに勝手にビール瓶を注文するのはいつものこと。グラスにビールを満たし、かんぱーい!という彼女の朗らかな声を合図に冷えた苦い酒を流し込めば、久し振りの感覚に頭がスッキリした。たまにはこういうのも悪くない。俺がそう思ってしまうのも、いつものことだった。


「最近どーお?忙しい?」
「いつも通りだ」
「もー。かざみんはいっつもそればっかり。そんなんじゃいつまで経っても彼女できないよ〜」
「その呼び方はやめろと毎回言っているだろう」
「えー。いいじゃん、かざみん。可愛くて」
「よくない」
「仕事中はちゃんと風見って呼んでるんだから堅いこと言わないの」


彼女は、親しき仲にも礼儀あり、という言葉を知らないのだろうか。いや、そもそもそんなに親しくなった覚えもないのだけれど、彼女はいつからかこういった飲みの席では俺のことを「かざみん」と呼ぶようになった。注意してもご覧の有様。確かに、仕事中は普通に「風見」と呼ばれるけれど、それは当たり前のこと。緊迫した仕事中に「かざみん」などと呼ばれたら堪らない。
彼女が頼んだのだろう、小皿に載ったおつまみが次々と運ばれてくるので机の上を整理しながら食べて飲む。俺は専ら彼女の聞き役で、たまに話を振られたら適当に返事をする程度だ。正直なところ、俺と飲むより他の奴らと飲んだ方がよっぽど楽しいと思うのだけれど、以前それを彼女に言ったら、ただ聞いてほしいだけの時もあるからいいの、と返された。そうだとしても、別に俺じゃなくても良いだろう、と何度思ったことか。もはやそんな反論をすることさえも疲れてしまった。根負けである。


「かざみんって彼女いたことある?」
「前にも言ったと思うがそれを名字に答える義理はない」
「ケチ〜!飲みようが足りないんじゃないの?ほら、もっと飲め飲め!」
「勝手に注ぐな!」
「あ、日本酒飲む?頼もうか?」
「名字は飲みすぎじゃないか?」
「いいの。酔ってもかざみんが送ってくれるから」
「勘弁してくれ…」


本当に言葉通り勘弁してほしいのだけれど、彼女はムフフと笑ってグラスに残っていたビールを飲み干した。そんなに強くもないくせに限界ギリギリまで飲んで、いつもタクシーに放り込まなければならないこちらの身にもなってほしい。…とは思うのだけれど、彼女のように楽しく幸せそうに、後先考えずにぱーっと酒を飲めたらどんなに良いだろうか、とも思うことがある。これはある種の嫉妬かもしれない。


「公安ってさあ、大変そうだよねぇ」
「その分やり甲斐はある」
「私にはきっとできないなあ」
「そうだな。名字には無理だと思う」
「秘密漏洩しちゃいそうだもんね」
「自分で言うな」
「だからね、かざみんはすごいと思ってるんだよ」
「……どうした、急に」
「急じゃないよ。いつも思ってる。言わないだけで」


酒を飲んでいるにもかかわらず珍しく真面目なトーンで何を言い出すかと思えば、いつもは俺のことを揶揄うような発言しかしない彼女が褒めてきたりしたから調子が狂う。誰かに認められたり褒められたりするのは嬉しいことだ。けれども今素直に喜べないのは、俺が気難しい性格をしているからなのか、そういう緩んだ姿を見せることに抵抗があるからか。そのどちらも、というのが正解かもしれない。


「…名字は名字できちんと仕事をしているだろう」
「そりゃそうだけど…ほら、かざみんみたいにいつも気を張ってるわけじゃないし」
「部署が部署だけに、そう簡単に気は抜けない」
「うん、それ何回もきいた。けど、たまにはちゃんと休んでね」


風見が頑張ってるのはみんな知ってるから、と。彼女はへらりと笑った。
時々こうして核心を突く一言を投下してくるから、彼女は怖いと思う。俺が根詰めて仕事をして、平穏な日々を送っていても張り詰めた空気を引き摺ったまま過ごしていることを、彼女は知っている。だから、俺に纏わりついている緊迫したオーラを取り払うみたいに、全てをリセットさせるみたいに、彼女はタイミングよく俺を誘って来るのだ。今日みたいにくだらないやり取りをして、どうでもいいことで頭を空っぽにさせて、俺を「公安部の刑事」ではなく「風見裕也」に戻してくれる。本人には絶対に言わないけれど、それを俺は有難く思っているから、彼女の誘いを断らない。いや、断れない。深層心理の中で、彼女を求めているから。


「あ、ねぇねぇ。私かざみんの新しい呼び方思いついちゃった」
「は?」
「ゆーやんってのはどう?」
「…は?」
「だって風見裕也でしょ。だから、ゆーやん。可愛いじゃん」
「……じゃあ俺は名前と呼べばいいのか」
「へ?…え、ちょ、どうしたの、ほんとに飲みすぎた?」
「そっちが名前で呼ぶなら俺も名前で呼ぶ。フェアじゃないからな。ただそれだけのことだ」
「珍しいね。いつもはそんな呼び方するなって言うのに」
「言ったところで止めないだろう」
「ふふ…よく分かってるねぇ私のこと」


そう言って嬉しそうに頬を緩ませて俺の空いたグラスにビールをなみなみと注ぐ彼女は、いつも付き合ってくれてありがと、と言葉を落とした。ありがとう、か。それは本来なら俺が言うべきセリフなのかもしれないけれど、今の俺にその言葉を言えるだけの勇気はないから。今日のところは新しい呼び名を認めるということだけで許してもらおう。

いつかの未来までビールに沈めて

斎藤さま、この度は2周年企画にご参加くださりありがとうございました。
風見ってこんなんでしたっけ?違いますか?違いますね?すみませんでした。としか言えない。DCキャラ難しすぎて、そして特に風見はどういう人物か把握しきれていないまま軽率にリクエストを受けてしまったことを激しく後悔しました。苦情は甘んじて受け入れます…でも書かせてもらえて世界が広がった気分です…ありがとうございました!
いつもツイッターの方で楽しく絡んでくれるさっちゃん大好き!これからもどんどん絡んでいきますのでどうぞ宜しくお願いします!