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2nd Anniversary
thanks a lot !


今までの人生で蓄えてきた分の勇気を全部使い果たしたんじゃないかってほど頑張った。一世一代の、なんて言ったら大袈裟すぎると思われるかもしれないけれど、私にとってはそれぐらいのパワーを要したのだ。告白って、きっとそういうものなんじゃないだろうか。
私が同じクラスの澤村大地に思い切って、それこそ清水の舞台から飛び降りる覚悟で告白をしたのは、かれこれ2週間ほど前になる。夏休み明け、受験ムードが高まってきた中どうしてこんなタイミングで?と思われたかもしれないけれど、私だってこんなはずじゃなかったのだ。
澤村君と道宮さんって付き合ってるんじゃないのかな、という噂を聞いたのは夏休み明けすぐのこと。もしその噂が本当だったら、私の高校生活全てを費やした片想いは気持ちを伝えることもできずに終了してしまう。そんなのは嫌だ。たとえ玉砕することが分かっていても、何も伝えられずに終わることだけは避けたい。
そう思ったから、私は彼に告白した。本当は卒業式の日に告白して、いい思い出になったわ、って終わらせるのがベストだと思っていたのだけれど、澤村君に彼女ができてしまったら告白することすら叶わなくなってしまうから仕方がなかったのだ。
放課後の教室。友達に日直を変わってもらったおかげで彼と2人きりというベタなシチュエーション。そこで私はお決まりの告白をした。私澤村のこと好きなんだ、って。たったそれだけ。色気も素っ気もない、何の捻りもないストレートな言葉のみを伝えて、可愛らしく顔を赤らめることもしなかった。私達はよき友達だったし、今更可愛い子ぶったって仕方がないと思ったからだ。
急にそんなこと言われても困るよね、ごめん。好きだと言った直後にそう続ければ、彼からは信じられないお返事。先に言われちゃったからカッコつかなくなったな、って。私とは違ってきちんと照れて、そう言ってくれた。冗談でしょ、嘘でしょ、と言いたい気持ちは山々だったけれど、彼がそんな冗談や嘘を言わない性格だということは分かっていたので、私は言葉を失うしかなくて。道宮さんはいいの?と確認する勇気もないまま、私は思わぬ形で彼との交際を始めることになったのだった。


「名字、次移動教室だぞ」
「分かってるんだけど…教科書どこいったかなあ…」
「ロッカーは?」
「あー、そっちかも」


自分でも驚いているのだけれど、めでたく彼とお付き合いすることになったというのに、私達の関係はそれまでと変わらなかった。元々、友達として仲が良かったこともあるのだろう。クラスでの会話の量も、態度も、何ひとつ変わっていないと思う。変わったのは、気持ちの部分だけ。実感はなくても、私は澤村の彼女になったんだ、という小さな自信と満足感だけが芽生えたのだ。
そんなわけで、私達が恋人関係になったと知る人物はほとんどいなかった。知っているのは私の親しい友人2人と、彼のバレー部の友人である菅原君と東峰君のみ。私達の関係を知ったからと言って言い振らすような性格の人はいないし、私達自身も自ら恋人宣言をするようなタイプではないので、結果的に隠しているような形になっているのだ。私としては、ちょっとぐらいなら冷やかされてもいいのにな、というのが正直なところだけれど、彼はきっとそれを望んでいないだろうから今の状態を継続している。
漸くお目当ての化学の教科書をロッカーから引っ張り出した私は、待ってくれていた彼にお礼を言って一緒に駆け足で理科実験室に向かう。教科書を探しながら、先に行ってくれても良いのに、と思ったものの、その直後にほんの少しの時間であっても彼と一緒にいたいという考えに至ってしまった私は、結局こうして彼を無駄に走らせてしまっていてなんと我儘なのかと密かに自分を叱責。私、煩悩まみれだなあ。
授業にはなんとか間に合った。私と彼が一緒に現れても、仲良いね、の一言で済まされて付き合っているとは夢にも思われない。けれどもその日の昼休憩、彼が道宮さんと話をしているところを見た一部のクラスメイトはひそひそと言うのだ。やっぱりあの2人って付き合ってるのかな、って。私と道宮さんの違いはなんなのだろう。どうやったら彼女っぽく見えるのだろうか。定義があるのなら誰か教えてほしい。
澤村の彼女は私。澤村が好きなのは、私、のはず。それなのに周りからはそう見られていない。認められたいとかお似合いだねって言われたいとか、そういうことじゃないんだけど、うーん、なんて言うんだろう。この感情の名前が私には分からない。よって、打開策も見出せなかった。


「澤村って道宮と付き合ってんの?」
「え?」
「イイ感じじゃん」
「仲良さそうだもんな」


そんな時に聞こえてきた男子達の会話。イイ感じ。仲良さそう。2人が話をしているところを見たらその表現は否定できない。さて、彼は一体どんな切り返しをするのだろう。気にしないようにしようと思えば思うほど彼が何と言うのか気になって、私は無意識のうちに彼のいる集団の方へ視線を向けてしまっていた。
すると、偶然にも彼と目が合う。やばい。いや、実際のところ何もやばくはないのだけれど、じろじろと見ていたら嫉妬深くて嫌な女って思われるんじゃないかと心配になった私は、慌てて彼から視線を逸らす。絶対に不自然だったとは思うけれど、そこそこ距離があるので指摘をされることはない。私は逸らした視線を宙に彷徨わせたまま、耳だけを澄ませて彼の言葉を待った。


「道宮とは付き合ってない。ただの友達だ」
「マジで?そうなの?」
「俺には彼女がいるからな」
「え!初耳!誰誰?」


道宮さんと付き合っていないと宣言して終わりかと思えば、まさかのカミングアウトまでしてくれた彼は一体どういうつもりなのだろう。彼女がいる、と言われればそりゃあ誰か気になるのは当たり前のことで、彼は質問責めにあっている。どくんどくん。心臓が慌ただしく跳ね始めたのは、彼の口からいつ私の名前が飛び出すのか分からないからだ。
耳を澄まし続ける。わいわいがやがや。昼休憩の教室内はうるさいけれど、彼の声はきちんと聞き分けられる自信がある。もはや視線はどこを彷徨わせているのか分からなくて、全神経が耳に集中していると言っても過言ではない状況の中、名字、と。思っていたよりも近い距離で彼の声が聞こえた。驚いて咄嗟に声のした方に顔を向ければ、いつの間にか斜め後ろに立っている澤村。なんでこのタイミングで来たの?と首を傾げずにはいられない。


「言ってもいいかな」
「え…えっと……澤村が、いい、なら…ドウゾ…」
「じゃあ言う」


付き合っていることを公言しても良いかどうかわざわざ確認しに来てくれるあたり彼の真面目さが窺えて、そんな気遣いができるところも好きだなあってその時は思ったけれど、もはや今の会話を聞かれた時点で周りにはバレバレだということに気付いたのはかなり時間が経ってからのこと。宣言通り堂々と、名字と付き合ってるんだ、と彼が公言した直後、一気に私へと集中する視線。とても居た堪れない。俯いて、机の傷や落書きを食い入るように見つめる。
道宮さんじゃなくてごめんなさい。全然それっぽくないですよね。知ってます。けど、残念ながら私は澤村君の彼女です。誰に責められたわけでもないのに肩身が狭くなって縮こまる私の頭に、ぽん、とのせられた手。堂々としてなさいよ、と落とされた声音はひどく穏やかで心地良い。
マジで付き合ってんの?いつから?どっちから?彼の私に対する言動を見たことが引き金になったのか、急に堰を切ったように様々な質問が飛び交い始める中、彼は照れることも躊躇うこともなく私に視線を流してくれる。


「どこからどこまでなら答えていい?」
「ま、任せる……」
「じゃあ全部答えるぞ」
「恥ずかしくないの?」
「だって本当のこと言うだけだろ」
「そう、だけど」
「俺はちゃんと名字のことが好きだから、誰に何言われたって良いよ」


おおっ、とどよめく野次馬。ばたん、と勢いよく机に突っ伏す私。今の一言だけで今日はもう十分じゃないでしょうか。勘弁してください。
昼休憩は間もなく終わりを迎えるため、野次馬達は少しずつ減っていく。この騒動が始まる前に感じていたもやもやした感情はどこかに消え去って、代わりに沸々と湧き上がる羞恥心、それからちょっとの優越感。勿論嬉しいことは大前提で、冷やかしの言葉も苦には感じられなかった。とは言え、いまだになかなか顔を上げることができない私の頭を、彼は再びポンポンと撫でる。


「ごめんな。恥ずかしいよな」
「うん…予想以上に…でも大丈夫……」
「これで変な噂はなくなるだろうから安心しなさい」
「…私の、ため?」
「いや。俺がそうしたかっただけ」


これでも名字を大切にしたくて必死なんだ、と零した彼の顔は先ほどまでと違って明らかに照れた表情になっていたけれど、それを見ているのはどうやら私だけらしかった。落とされた言葉も、きっと私にしか聞こえていない。むくむくと膨れ上がるこの感情に、私はまた名前を付けられずにいるけれど、今度は随分と甘ったるくて心地良い感情だから放っておいても問題はないだろう。

まだ知らぬ
名前の行方

神楽さま、この度は2周年企画にご参加くださりありがとうございました。
澤村くんは彼女のために尽くすことが苦じゃないというか、むしろ尽くしたいタイプじゃないかなと勝手に思っているのでこのような仕上がりになりました。ひゅーひゅー!って冷やかされても動じない彼氏…頼れる…でもそんな澤村くんが照れるところを見られるのはヒロインだけという優越感。良いな!
毎日通ってくださっているとのことで本当に嬉しいです。ありがとうございます!これからもひたすら夢を書き綴っていきたいと思いますので宜しくお願い致します〜