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2nd Anniversary
thanks a lot !


※社会人設定


ざわざわと賑やかな球場内は熱気に包まれていた。それもそのはず。今日はリーグ優勝チームが決まるかもしれない大切な試合の日。これで盛り上がっていなかったら、日本の野球は廃れてしまったと言えるだろう。


「今日も御幸打つかな〜?」
「打つだろ〜!4番の仕事をしてもらわないとな〜!」


軽食を買って席に戻っている時に聞こえた、御幸、という選手の名前に思わず足を止めそうになった私は、慌ててその場を立ち去った。御幸一也。今日勝てばリーグ優勝が決まるチームに所属している4番バッターの正捕手。それから、私の彼氏。だから、耳に飛び込んできた彼の名前に、身体が反射的に反応してしまったのだ。
彼は高校を卒業してすぐにプロ入りし、瞬く間にスター選手になった。高校時代にどれだけ活躍していた選手でもプロに入って成功するのは難しいらしく、活躍できる選手はほんの一握りだと言われているけれど、彼はその逆境を物ともせずにスター街道まっしぐら。気付けばプロ入りして10年目という節目の年を迎えていた。
何を隠そう、その間ずっと、私は彼の彼女というポジションに居座り続けている。高校時代から今に至るまでずっと、だ。彼を支えてきたのは私です、などと偉そうなことを言うつもりはさらさらない。というか、ぶっちゃけ支えられていたのはこっちの方で、彼は私がいてもいなくても今と変わらなかったんじゃないかと思う。
彼は、野球に関しては人一倍ストイックで妥協という言葉を知らない。食事管理が徹底しているのは勿論のこと、体力作りの基礎トレーニングも、専属コーチに組んでもらったメニューを当たり前のように毎日こなす。それも、シーズン中だろうがオフに入ろうが関係なく。自分が出場した試合をチェックするのも当たり前。だからシーズン中、私は彼の邪魔にならないようにと、自分から連絡をしないようにしている。そして、元々連絡がマメじゃない彼からは、おやすみ、のメールが来れば良い方だった。
オフシーズンは時々会ったりしているけれど、私達の関係は公にしていないので堂々とデートなんてできやしないし、そもそもデートなんてものが嫌いな彼とは家の中でのんびり過ごすか、お決まりのバッティングセンターに行くぐらい。こんな関係が10年。これで付き合っているのかと尋ねられたら正直微妙ではあるけれど、私は彼が生き生きと野球をしてくれていることが何よりの幸せだから、他人にどう思われようがどうでも良かった。
そんな彼から、シーズン中にもかかわらず電話が来た時は、それはそれは驚いた。怪我か、もしくは病気か。この10年、1度もあり得なかった出来事だっただけに、私は非常に不安になった。


「一也?どうしたの?怪我?病気?大丈夫?」
「は?別に元気だけど」
「え…でも、電話って…」
「彼女に電話するのぐらい普通だろ」
「一也の場合は普通じゃないからびっくりしたの!もう…何かあったのかと思った…」
「悪い悪い。で、本題なんだけど。次の試合、観に来いよ」


これもまた初めてのことだった。彼の方から自分の試合を観ろ、と。しかも球場まで来て観戦しろ、と。そんなことを言ってきたことは今まで1度もない。おかしい。何か悪いものでも食べたのだろうか。もしくは頭でも打って思考回路に変化が生じたのだろうか。
不安と気味の悪さから渋る私に、絶対観に来い、観に来なかったら別れる、とまで言って一方的に電話を切られた私は、後日、郵送で届いたチケットを手にこの球場に訪れた。別れる、なんて縁起でもない。
プロ入り10年目という節目の年のリーグ優勝がかかった試合だから、特別な思い入れでもあるのだろうか。だから珍しくも、今回だけは球場で応援してほしい、と思ったのだとしたら、それはなんとなく納得できる。絶対に優勝する。試合前の大切な時間を割いて送ってくれたメールを見た私は、間もなく始まる試合の光景を一瞬たりとも見逃すまいと、グラウンドに目を向けた。


◇ ◇ ◇



「それではお待たせしました!見事、チームを優勝に導いたこの男!4番の御幸選手に話を伺いましょう!まずは優勝おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
「いやあ…9回裏、同点というしびれる試合展開の中で飛び出したサヨナラホームラン…球場中が沸きました。打席に立つ時、どういう心境だったんでしょうか?」
「4番としての務めを果たすだけだと思っていたので…結果が伴って良かったです」
「監督からは何か声をかけられましたか?」
「いえ、特には…いつも通り行ってこい、と」
「その期待に応えたわけですね」
「まあ、そうですね」
「ずばり、ご自分の手で優勝を決めた今のお気持ちは?」
「最高です。皆さん応援ありがとうございました」


球場が壊れるんじゃないかと思うほどの歓声で溢れ返る中、緊張の色も見せずに堂々とインタビューに答える彼は、まさにヒーローだった。この目でそれを見届けることができて良かった。私の目にはじわりと涙が滲む。


「プロ入り10年目ということですが、記念すべき日になりましたね」
「そうですね。それで、記念ついでにちょっと言いたいことがありまして…マイクをお借りしても良いですか?」
「勿論どうぞ!」


彼はマイクパフォーマンスというものがあまり得意ではないはずなのに、今日は特別なのだろう。自らマイクを持って何やら始めるようだ。ファンの人達も、なんだなんだとザワザワしている。


「今日、絶対にこの場所で優勝を決めようと思っていました。この10年間、応援してくださったファンの皆さんにこのような形で感謝の気持ちを表すことができて嬉しく思います。本当にありがとうございました」


歓声が響く。私はもう胸がいっぱいで拍手をすることだけで精一杯だ。そんな中、彼が言葉を続ける。この場を借りて大切なことを伝えたい相手がいます、と。マイク越しに響いた彼の声に、それまでの歓声とは違うどよめきが巻き起こった。
そして、名前!と。球場内に私の名前が木霊して、彼が私の方を向いた。何万人も観客がいるにもかかわらず、彼は迷うことなく真っ直ぐに私を見ている。感動で滲んでいた涙は驚きのあまり引っ込んでしまって、何が起こっているのか分からずどうしようかと狼狽える私の元に、なぜか彼のチームメイトである選手達が現れて周囲は大混乱。立って立って、と言われて立ってはみたけれど、視線が痛すぎて倒れてしまいそうだ。


「10年も待たせてごめん。今日優勝が決まったら言うって決めてた。結婚しよう」


歓声と言うより、もはや絶叫と言った方が良いような声で埋め尽くされた球場内。待って待って、そんな、今ここで返事しろってこと?無理無理。私、一般人。こういうの慣れてない。いや、慣れてる人なんていないと思うけど。ていうか周りからの視線が怖すぎる。特に女性ファン。私、帰り道で殺されるかも。
嬉しいけれど、それ以上にパニックで何も言えない私を更に追い詰めるかのように、それまで割れんばかりの声で溢れていた球場内が一気に静かになった。これはどう考えても私の返事待ちである。やばい。緊張で禿げそう。そんな私に、近くにいた選手が声をかけてくれた。その選手とは面識がある。高校時代はライバルだったけれど今は縁あって一也と同じチームで戦っている成宮君だ。
あの一也が野球以外のことでずっと悩んでたんだから、返事してやってよ。
そう言われてしまうと、ここで逃げ出すわけにはいかなくて。答えなんて考えずとも決まっている。あとはそれを声に出すだけ。彼に届くように。頑張れ、私。女は度胸だ。私は意を決して、すうっと息を吸い込む。そして。


「私で良ければ喜んで!」


叫ぶように答えた私の声は、きちんと届いたらしい。おめでとう!で満たされていく球場内。インタビュアーの人はなぜか泣いているし、見ず知らずの近くに座っていた人達にも、御幸を頼むぞ!よかったなあ!幸せになれよ!などと言われるし、わけが分からない。ただ1つ言えるのは、私はこの瞬間、世界一の幸せ者になったということだけだった。


◇ ◇ ◇



「本当に寿命縮まったから…」
「はっはっはっ!とびっきりのサプライズだっただろ?」
「サプライズすぎるし…」
「普通じゃないことがやりたかったんだよ」
「もう…」
「一生に一度のことだから忘れられねぇようにしようと思って」
「死んでも忘れないよ」


後日、私は得意気な彼にささやかな文句を言いつつも幸せを噛み締めていた。翌日のテレビ番組や新聞記事の一面には彼だけでなく私まで大々的に取り上げられていて、恥ずかしくて死にそうだった。職場の人には当たり前のことながら質問責めにされて仕事にならなかったし、ついでにサインまで強請られる始末。指輪を買いに行ったら色んなところで祝福の言葉をかけられ、お店の人にも、テレビ見ました、などと言われて、ちょっぴり有名人の気分も味わった。
そんな非日常的な毎日を送りながらも入籍を済ませ、新居への引っ越しも終わり、漸く日常を取り戻しかけていた頃。一也が出演しているというバラエティー番組を見ていた私は、思わず頬を緩めてしまった。


「御幸選手と言えば最近ご結婚されましたよね?新婚生活はどうですか?」
「まあ、はい。楽しいですよ」
「奥様とラブラブですか?」
「それなりに」
「でも御幸選手といったら女性ファンも沢山いらっしゃるじゃないですか。浮気とか…大丈夫ですか〜?」
「その心配はないですね。この10年、妻以外の人を好きになったことはないし、これからもそうだと思います」
「一也のくせに生意気!」
「鳴は黙ってろよ」
「野球に打ち込みすぎて、逆に奥さんに浮気されたりして〜?」
「そんなことされるぐらいなら野球やめるね」
「えっ、一也、そんなにマジだったの?」
「じゃなきゃ結婚なんかするわけねぇだろ」


赤の他人だったら、よくこんな恥ずかしいことが言えるなあ、と冷ややかな目でスルーするような会話だけれど、いざ自分のこととなるとニヤニヤが止まらない。どうしよう。嬉しすぎる。とりあえず帰ってきたら、大好き!って飛びついても良いかな。きっと、そんなの知ってる、って言いながら受け止めてくれるはずだから。

世界中この砂糖で埋もれればいい

初さま、この度は2周年企画にご参加くださりありがとうございました。
プロみゆ設定大好きな上にヒーローインタビューでプロポーズなんて夢のようなリクエストをいただき、書いている私がただただ幸せなだけでした…ありがとうございます…好き勝手書いてしまったのでおかしなところや有り得ない展開が多々あるかもしれませんがそこらへんは大目に見ていただき笑、少しでも幸せを感じていただければ嬉しいです。
私も初さんのこと大好きです!出会いに感謝!これからもどうぞ宜しくお願い致します!