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2nd Anniversary
thanks a lot !


※社会人、夫婦設定


目覚まし時計の音で目を覚ませば、カーテンの隙間から柔らかな光が差し込んでくるのが確認できて、今日も天気は良さそうだなあとぼんやり思う。いつもと変わらぬ空気で迎えるいつもと同じ朝。そして私の隣にはいつも通り、未だにすうすうとあどけない表情で眠っている旦那様がいる。彼の名前を呼びながらゆさゆさと身体を揺すっても、んん…という唸り声しか返ってこないのもお決まりのパターンだ。
世間一般的に、寝起きが悪い原因は低血圧だからとかストレスが溜まっていて寝つきが悪いからだとか生活習慣の問題だとか、その他色々それらしい説が唱えられているし、どれも本当のことなのだろうとは思うけれど、彼の場合は単純に、眠たいから寝る!という、ただそれだけに尽きるような気がする。理屈じゃない。身体が睡眠を欲しているからまだ眠たい。そんな感じだ。
睡眠に関してだけでなく、彼は何事においても理屈より本能優先で行動する。というか、恐らく彼の頭の中には理屈って言葉が存在しないんじゃないかと思う。常に真っ当な意見を臆することなく貫き通す。そういう、普通の人なら周りの目を気にして躊躇ってしまうようなことを平気でできる男が私の旦那・西谷夕という男で、何を隠そう、私は彼のそんな真っ直ぐなところに惹かれたのだ。
布団から出て、カーテンを開ける。隙間からしか差し込んでいなかった太陽の光が一気に充満して、薄暗かった部屋がこれでもかと明るくなる。やっぱり今日は晴れらしい。洗濯物がよく乾きそうだ。


「眩し…」
「おはよう」
「ん、はよ」
「今日、早めに出るんじゃなかったの?」
「んん……ん?あ!そうだった!忘れてた!」


お昼寝から起きたばかりの猫のように大きな目をごしごしと擦っていた彼は、私の一言に布団から飛び起きた。どうやら自分で言ったことを忘れていたらしい。まあ彼が色んなことを忘れて今のように慌てるのはもはや日常茶飯事なので、私は寝室を飛び出した彼の後をゆっくり追いかけるように台所へと足を向けた。どんなに時間がなくても朝飯は食べないと動けねぇ!とは、彼の言い分である。
今日は随分とお急ぎのようなので、ささっと食べられるものを用意しよう。パンをトーストしている間に、サラダ、ハムエッグを作ってワンプレートに盛り付け、洋風スープを添える。ほんの数ヶ月前まではまともに料理などできなかった私が、今や立派に主婦としてこれだけのことを短時間でできるようになった。自分だけのためならこうはならない。全ては彼のために何ができるだろうかと考えた結果だ。
へたりと眠っていた髪をばっちり起こして着替えを済ませた彼は、台所のテーブルの上を眺めるなり、美味そう!と顔を綻ばせる。椅子に座ってきちんと両手を合わせ、いただきます、と言ってからぱくぱくと、出来立ての食事達を口の中に吸い込むように食べながら、ちゃんと味わってるから!美味いから!と言ってくるのは、私が以前、ちゃんと味わって食べてる?美味しい?と尋ねたことがあるからだろう。
彼は結構な忘れん坊だ。今朝もそうだけれど、自分の言ったことや仕事のことなんかは、しょっちゅう忘れる。すごく大事なことは忘れていないらしいし、それで仕事に支障をきたしたこともないようなので今のところ問題はないのだろうけれど、あ!忘れてた!というのは、彼の口癖みたいなものだ。
けれども彼は、私に関することは恐ろしく記憶力が良かった。ぽろりと零した一言、ちょっとした約束、それから些細なお願い事。それこそ忘れたって良いような小さなことでも、彼はきちんと覚えている。私が、そんなこと言ったっけ?って思うようなことでも、確実に。彼曰く、名前に関することは全部大事なことだから忘れるわけねぇじゃん、とのこと。殺し文句を平然と投げつけてくるのは心臓に悪いのでやめてほしいところだけれど、嬉しい気持ちも同じぐらいあるから拒否できないのが辛いところだ。これを俗に惚気と言うのかもしれない。
コーヒーは熱くて流し込めないからと、牛乳多めのカフェオレをマグカップに用意してテーブルの上に置く。それをすぐさま手に取ってものの数秒で平らげてから、ごちそうさまでした!と手を合わせた彼は、慌ただしく洗面所に向かった。この調子だと歯磨きをしたら玄関に直行するのだろう。朝ののんびりとした夫婦の会話などどこへやら。これでも結婚してまだ1年にも満たない新婚なんだからゆっくり朝ご飯を一緒に食べたかったのに、と不服に思ってもおかしくないのかもしれないけれど、私にはちっとも不満なんてなかった。
案の定ドタバタと、忙しなく靴を履いている彼を見送るために玄関に向かう。行ってきます!と飛び出して行きそうな勢いなのに、名前!早く早く!と、急いでいるにもかかわらず私が来るのを待っている彼に顔が綻んでしまうのは仕方のないことだ。


「行ってらっしゃい」
「帰る時また連絡するな!」
「うん」


忘れん坊のくせに、帰る前の連絡は絶対に忘れない。それから、行ってくる!という元気な発言の前に私の頬にちゅっとひとつ吸い付くのも、今のところ絶対に忘れたことがなかった。所謂、行ってきますのちゅーというやつ。それは帰って来てからも同じで、おかえりなさいのちゅーは私から彼にするという暗黙のルールがあったりする。新婚だから今の間だけのことなのかもしれない。けれど、こういう小さなルーティンのおかげで私の心が満たされているのは事実だった。
彼がいなくなってしまった家は、途端に静けさに支配され寂しくて堪らなくなる。これもいつかは慣れることなのかもしれないけれど、慣れたくはないなあと思った。この寂しさに慣れるということは、彼がいないことに慣れてしまうということと同じになってしまうから。
私は昼間の間だけ近所のコンビニで働いているので、出勤時間までにのんびりと朝ご飯と家事を済ませる。1日大体5〜6時間。スタッフも店長さんもとても良い人達で、シフトもわりと融通が利く。素敵な旦那様と整った職場環境。何か特別なことがあるわけじゃないけれど、平凡な毎日が幸せだなあと感じられるのは凄いことらしい。つい最近、大学時代の友達と話している時に、そう言われた。確かに、私は恵まれている。


「ただいま!」
「おかえりなさい」
「今日の晩飯カレー?」
「正解」
「よっしゃ!おかわり何回までOK?」
「何回でもどうぞ」


今日も仕事をしてきたとは思えぬほど元気いっぱいに帰ってきた彼は、子どものようにはしゃぎながらもきちんと手洗いうがいを済ませ、着替えをしてから台所に姿を現した。皿にご飯を盛り付けている私に、なあなあ、と近付いてくるのはルーティンワークを強請っているということに他ならない。
しっかりカレーが温まったことを確認してから火を消す。そして、今か今かとその時を待ち侘びている彼の頬に触れるだけのキスをして、おかえりなさい、と本日2度目のセリフを囁けば、満足そうに満面の笑みを見せてくれる彼がとんでもなく愛おしかった。毎日同じことを繰り返しているのに、こんなことってある?って思うぐらい、私は毎日彼に惚れ直している。


「今日は一緒に風呂入ろうな」
「んー…お風呂はなあ…1人で入りたい」
「なんで?」
「恥ずかしいし気が休まらないから」
「俺は恥ずかしくないし疲れ吹っ飛ぶけど」
「うん、夕はね」
「えぇぇ…俺、今日それだけを楽しみに頑張ったのに…」
「そうなの?」
「ごめん、嘘吐いた。今日の晩飯何かなってワクワクもしてた」
「ふふ…夕のそういうところ、好きだよ」
「俺は名前の全部が好きだけどな!」


大盛りのカレーをテーブルに運びながらさりげなく愛の告白をしてくる彼に言葉を失ってしまうのはこれで何度目か。ほぼ毎日だから、もう数える気にもなれない。プロポーズの時もそうだ。彼の家でご飯を食べる前に繰り広げていた他愛ない会話の流れで、俺そろそろ名前と結婚したいと思ってんだけどどう思う?と唐突に投げかけられて目が点になっていた私に、名前のこと一生好きでいられる自信あるから!とダメ押しの一言を投げつけてきた彼は、今も変わらず惜しげもなく私に愛を囁く。
そういうこと言うのって恥ずかしいものじゃないの?と尋ねたら、好きなもの好きって言って何が恥ずかしいの?と真っ直ぐな瞳で質問返しをされてしまったことがあるけれど、大半の人間は彼のように気持ちをぶつけることができなくて右往左往しているということを、彼は分かっていないのだと思う。そんな彼の隣にいたら恥ずかしがっている自分が恥ずかしく思えてきて、ここ最近では彼に感化されすぎてしまったのか、よく好きだと口にするようになった。元々はそんなこと言えるタイプじゃなかったのに。
向かい合ってカレーを食べる。おかわり!と言う度にご飯とカレーを盛り付けて彼に渡す。どこからどう見たってくだらない日常の一コマだ。けれども私はこの時間をやっぱり幸せだと思う。


「カレー食い終わって風呂入ったらさ、」
「うん」
「一緒に寝ような」
「いつも一緒に寝てるじゃない」
「そうだけど、そうじゃなくて」
「……明日も早いって言ってなかった?」
「…あ。そうだった」
「すぐ忘れちゃうんだから」
「でも、明日はちゃんと自分で起きるから。な?」
「その約束守れたことないけどね」


私の言葉に肩を落とす彼は、髪の毛までしょんぼりとしているように見えて笑ってしまう。

「いいよ。一緒に寝よ」
「よっしゃ!」
「切り替え早いねぇ」
「そうと決まれば風呂!一緒に入るぞ!」
「それはいいよって言ってない」
「風呂でも名前と一緒にいたいんだって」


私の絆し方を心得ている、というか、そんなつもりはないのだろうけれど私を懐柔するための天性の何かを持ち合わせている彼は、今日も私を飛びっきり甘やかしてこれでもかと愛を囁いてくれるに違いないのだ。

溶け込むピンク

きくのじさま、この度は2周年企画にご参加くださりありがとうございました。
ノヤっさんと夫婦…日常のいちゃいちゃ…と考えに考えた結果がこれなんですけど合ってますか?違います?ヤマもオチもなくてごめんなさい…でもこういう日常絶対幸せだよなって思いながら書いたので…大目に見てやってください…
いつも気さくに絡んでくれる優しいきくさんが大好きです!嬉しい言葉を沢山ありがとう…これからも仲良くしてね!