×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

2nd Anniversary
thanks a lot !


皆が彼の輝きに気付き始めるずっとずっと前から、私は彼のことをこの目で追い続けてきた。なんなら吹奏楽部に入ってクラリネットを始めたのだって、彼を応援するためと言っても過言ではない。それぐらい彼のことが好きだった。小学校の時も中学校の時も高校生になった今も、私の初恋は終わっていない。というか、終わらせたくないから彼に想いを伝えられずにいるのだ。
彼はそんな私の気持ちを知らない。そりゃあ伝えていないのだから当たり前のことだろう。別に知られていなくたっていい。今まで通り、幼馴染兼喧嘩友達のポジションでも構わない。そもそも彼は野球に忙しくて恋愛に現を抜かしている余裕はないのだ。…と言いたいところなのだけれど。残念ながら彼には可愛い彼女がいた。都のプリンスと謳われているだけあって、彼はモテる。女子生徒からの人気は絶大なので、その気になれば彼女の1人や2人作ることは容易いのだろう。
彼女できたんだよね〜、と。彼から自慢げに報告された時は、頭を鈍器で殴られたみたいな衝撃を受けたのを覚えている。そうなんだ、と辛うじて口から吐き出した声は震えていたかもしれないけれど、彼は気付かなかった。きっと私の反応なんてどうでも良かったのだと思う。彼の頭の中は可愛い彼女のことでいっぱいで、私のことなんか気にする隙間なんてこれっぽっちもなかったのだろうから。
そんなことがあってから、私は漸く決意した。こんな気持ちをずるずる引き摺っていても自分自身を傷付けるだけだし、彼にとっても迷惑に違いない。だから、もう終わりにしようと。彼に告白して、フラれて、それで綺麗さっぱりこの気持ちを流してしまおうと。すぐに好きという気持ちをなくすことはできないだろうけれど、何かキッカケがほしかった。自分勝手なのは分かっているけれど、これが最初で最後だから。そんな縋るような思いで彼を呼び出した。


「話って何?部活早く行きたいんだけど」
「ごめん、あの、鳴に伝えたいことがあって…」
「ふーん。何?」
「え、っと…あのね…、」


この日までに何度も頭の中でシミュレーションしてきたし、セリフだって呪文のように練習し続けてきたというのに、彼を目の前にすると心臓が口から飛び出てきそうなほどばくばくうるさくて、なかなか声を発することができない。いつもは威勢のいい私がもじもじしていることに対して、気持ち悪いからさっさと言って、と辛辣な言葉を浴びせてくる彼は、今から私が告白するなんて夢にも思っていないのだろう。
私は彼の恋愛対象にはなり得ない。そのことをまざまざと実感させられたようで、私は急にひゅうんと心臓が萎んでいくのを感じた。そうだよね。ドキドキしたって何の意味もない。彼には彼女がいるのだからフラれることは分かりきっている。何も緊張する必要はないじゃないか。


「私、ずっと鳴のことが好きだったの」
「はあ?」
「彼女いるのは知ってるし、好きだから付き合ってとか、そういうこと言うつもりもない。ただなんていうか…伝えたかっただけっていうか…」


これでも一生懸命自分の気持ちを言葉にしたつもりだった。フラれると分かっていてもやっぱり心臓の鼓動は速いままで、彼はどんな反応をするかなって、何って言われるかなって、そういうのは気になる。急にそんなこと言われても困る、って言われるかな。それとも、何言ってんの、って鼻で笑われちゃうかな。いずれにせよ、ある程度の傷付く覚悟はできている…つもり、だった。


「何それ!超ウケるんだけど。そんな嘘吐くためにわざわざ俺のこと呼び出したの?」
「え、ちが、」
「何かの罰ゲームだとしても、もう少しマシな告白してきなよ」
「私は本気で…!」
「はいはい。そうやって俺がどんな反応するか見て楽しもうとしてんでしょ。バレバレだから」


馬鹿にされるだろうとは思っていた。笑われたとしても、少しでも私の気持ちが伝われば良いやって気持ちでいた。けれど、まさか私のこの気持ち自体をなかったことにされるなんて、こんなひどいことってない。嘘じゃない。勿論、罰ゲームでもない。本気だよって必死に訴えたけれど、彼には届かなくて。
泣くつもりなんてこれっぽっちもなかった。伝えたかっただけだからって、笑いながら爽やかにこの気持ちに終止符を打つつもりだった。けれども何ひとつ予定通りには進んでくれなくて、私の目からはぼろぼろと涙が溢れ出していた。悔しい。こんなにも好きなのに、ほんの少しも彼に伝わらないことが。嘘として処理されてしまったことが。


「え?名前?泣いてんの?」
「ごめんね…」
「は?…もしかしてマジなの?」
「鳴のこと、好きになっちゃってごめんね…っ、」


私は捨て台詞を残すと彼の元から猛スピードで走り去った。俯いて、そのまま家まで顔を隠しながらひたすら走る。苦しい。息ができない。きっと走りすぎちゃったせいだ。時間が経てばこの苦しみからは解放される。そう信じていたのに、家に着いて呼吸が整ってからも苦しくて苦しくて、涙は止まらなくて、失恋ってこんなに辛いものだったんだって身を以て痛感した。
もう、いい。これで終わりだ。上手な幕引きはできなかったけれど仕方がない。私はその日、ベッドに突っ伏して気が済むまで泣き続けた。鳴への気持ちも一緒に流れていっちゃえと思いながら、涙が枯れるまで。


◇ ◇ ◇



ぶっちゃけ、告白されることには慣れていた。そりゃあ甲子園で活躍したイケメンピッチャーなわけだから好きになってもおかしくないよね、って自分でも思ってたし、応援されたりちやほやされて嫌な気持ちはしないし、俺のこと好きなんだ?はいはいありがとう、って感じ。だからどんな子に告白されようとも、適当に受け流すのがいつものパターンだ。
けれども幼馴染の、それも喧嘩友達みたいな女に告白された時にはさすがに動揺した。そういう目で見たことは1度もなかったし、向こうも俺と同じだろうと思っていたから。冗談だとしか思えなかった。だからその手には乗るもんかと盛大に馬鹿にしてやったら、予想外にも彼女は泣き始めてしまって。そこで漸く俺は気付いた。彼女は本当に俺のことが好きだったのだということに。
しかしその気持ちに気付いたからと言って俺にできることなんて思いつかなかった。だって俺には彼女がいるし、付き合いたいとかそういうことを言うつもりはないって言ってたけど、じゃあどうしろっていうんだって話で。俺は妙にもやもやとした感情を抱えたまま翌日を迎えた。気分は最悪。ついでにピッチングの調子もイマイチ。ほんと腹立つ。
そんな俺に追い討ちをかけたのは、昼休憩に見かけてしまった光景。腫れぼったい目でひどく顔色の悪い名前と白河が廊下の隅っこの方で会話をしていたのだ。俺が言うのもなんだけれど、白河は優しいタイプじゃない。フラれた女の子を慰めるスキルなんて持っちゃいないだろうし、優しい言葉をかけるなんてこともあり得ないと思う。けれどもそれじゃあ、今俺が見ているのは一体何なんだ。
名前は顔色が悪くとも、白河と話している時は何となく生気を取り戻したように笑っているし、白河の方も、満更でもない表情をしているような気がする。2人の間にだけ妙に親密な空気が漂っていて胸糞悪い。
いつも俺のことだけ応援してるって言ってたくせに。次の試合も吹奏楽部で応援に行くから鳴のためにクラリネット練習してるんだって意気込んでたくせに。俺のこと好きだって言ってきたくせに。もう乗り換えたってわけ?なんだよそれ。
自分でも分かってはいた。あの告白を台無しにして名前を傷付けた張本人は俺。だから名前が白河になびこうが、俺のことをあっさり諦めようが、それは仕方のないことだって。俺がこんな風に思うのはおかしいって。けれどもどうしても腹が立ってしまうのだ。お前は俺だけ応援してろよって、俺だけ見ていればいいのにって、そう思ってしまう。
俺を応援してくれるのが当たり前だと思っていた。何を言っても何をしても名前は俺から離れて行かないと安心しきっていた。それが蓋を開けてみればどうだ。名前が俺の傍からいなくなる。俺以外のヤツを応援する。そうなった途端、こんなにも焦る。それは俺のだって、取り返したくなる。俺のものじゃないのに。なんでこんなこと思ってんの俺。それを考え続けて答えに辿り着いた結果。


「別れてほしいんだよね」
「どうして…?私、何かした?」
「他に好きな子ができた」
「誰?どんな子?」
「ていうか、たぶんアンタと付き合う前からその子のことが好きだったんだと思う」
「どういうこと…?」
「たぶん気付いてなかっただけ」


そういうわけだからごめん。一方的な俺の別れの言葉に、彼女(今はもう元彼女)がめそめそと泣き始める。けれどもその姿にちっとも動揺しないし焦らないどころか、そういうのウザいんだよね、と思ってしまうあたり、名前とは圧倒的に違うことが証明された。
もう遅いかも。でも、気付いてしまったものは仕方がない。死ぬほど面倒臭い展開であることは間違いないのだけれど、そうするしかなかった。もう1度ちゃんと名前と話がしたい。そう思って彼女と別れてからすぐに連絡をしたし、教室にも会いに行ったというのに、この1週間、連絡の返事はないし休憩時間のたびにことごとく不在だし、明らかに避けられていてイライラが募る。恥を忍んで白河に協力を仰いだら、それは無理だ、と断られて益々腹が立った。なんでお前にそんなこと言われなきゃいけないんだよ!
それでも漸く神様がこちらに微笑んでくれたのか、とある日の放課後、俺はやっとのことで名前を捕獲することに成功した。めちゃくちゃ抵抗されて、なんなら今も嫌だ離してとうるさいけれど、ここで逃がすわけにはいかない。


「俺のこと好きって、あれ、本気なんでしょ?」
「…そうだよ最初からそう言ってるじゃんバカ鳴」
「はあ?それが好きな男に対する態度なの?」
「もうやめるもん。好きなの、ちゃんと、やめるもん…やめるために頑張ってるんじゃん…なのに何なの…もう…」
「やめるのやめればいいじゃん」
「…何言ってんの…日本語おかしいよ…」
「他の男になびくなバカ名前」
「な、なんでそんなこと彼女持ちの鳴に言われなきゃいけないの!私のことフったくせに!」
「彼女とは別れたし!大体、俺はフったわけじゃなくて信じられなかっただけだし!勝手にそういう解釈すんのやめてくんない?」
「へ…?フったわけじゃないの…?」
「それは…まあ…あー!すごい腹立つけど!名前は俺だけ見てりゃ良いんだって!」


売り言葉に買い言葉。最終的には勢い任せにそんなことを言ってのければ、名前は抵抗することもやめてぽかんとして。数秒後、何それ…って言いながらまた泣いていた。たぶん今回は泣かせても良いシチュエーションだと思うけど、俺が居た堪れないから目元をごしごしと拭いてやる。最高に不細工な顔で、痛い、と文句を言う名前の涙はなかなか止まりそうになくてうんざりして。思わず笑いが零れる。
名前といると毎日がうるさくて慌ただしくて、でも悔しいことに俺はその時間が何よりも大切だってことに気付いてしまった。だから、いないと調子が狂うっていうか。そういうわけだから、責任取ってこれからも俺のこと好きでいろよ、バカ名前。

アップテンポ
ショータイム

しゅーさま、この度は2周年企画にご参加くださりありがとうございました。
すごい詰め込み感と鳴ちゃんの身勝手具合なんですけど、ご要望にお応えしきれているでしょうか?この鳴ちゃん、御幸のこと笑えないぐらい恋愛音痴ですよね笑。個人的に好きだったので白河君を相談役ポジションにしてしまいましたが登場少なくてすみません。吹奏楽部という設定ももっと生かしたかったのですが力及ばず…でも不器用な恋愛模様を書くのは楽しかったです!
このサイトを見つけてくださり、そして毎日のように遊びにきてくださりありがとうございます!これからも更新頑張りますね!