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2nd Anniversary
thanks a lot !


こいつホンマにアホなんちゃう?て、何度思ったことか。女は大抵、色恋沙汰に過敏に反応するんが当然の生き物やと思っとったけど、名字は例外らしかった。鈍感。それも超がつくほどの。こっちがわっかりやすいアプローチをしても、治君は優しいなあ、で終わらせてしまう、そんなアホみたいな女。そしてそんなアホみたいな女にアホみたいに片想いし続けとる俺も、たぶんアホなんやと思う。
彼女の存在をきちんと認識したのは、高校に入学してから結構時間が経った夏休み前。今もそうやけど、俺は当時からバレー部に所属していて夏休みも冬休みも関係あらへんような生活を送っとった。終業式の日、明日から夏休みやー!て浮かれとるクラスメイトを尻目に席を立った俺に声をかけてきたんが、他でもない名字。そん時はちょうど席が隣で、この子の名前って何やったっけ?て首を傾げたんを覚えとる。


「宮君はバレー部やから夏休みもずっと練習なん?」
「せやな」
「大変やなあ」
「別に大変ちゃうよ。好きでやっとることを大変とは思わん」
「すごいなあ…」
「話、そんだけ?」
「あ!ちゃうねん。これ、良かったら食べへんかなあと思って…」


終業式の日は午前中で終わりやから、大半の生徒は昼飯を食べずに帰宅する。けど、俺はこういう日でも部活やから特大の弁当を持参しとった。そんな俺に、ずい、と差し出されたのはごく普通のおにぎり。ラップで丁寧に巻かれた白米は綺麗な三角形で、俺からしてみれば随分と小さいサイズやった。そんなおにぎりが2つ。この程度の量なら余裕で食べられるし、白飯は好きやし、いらんならもらうけど。なんで俺に?


「いらんの?」
「うん。学校、残らんで良くなったから」
「自分で食べればええのに」
「家に帰って食べたいんやもん。こんなの2つも食べたらお昼ご飯食べられんくなる」
「こんなちっさいので腹いっぱいにはならんやろ」
「なるよ」
「まあええわ。食べへんならもらう」
「ありがとう。部活、頑張って!」


それが名字とまともに交わした会話やったと思う。もらったおにぎりはシンプルに梅と昆布の具が入っとって、何の面白みもなかった。のに、なんや知らんけどめっちゃ美味かった。このめっちゃ美味いおにぎりをくれた子、誰やろう。名前、知らんわ。
そんなところから名字のことが気になり始めて、2学期が始まってすぐに名前を確認した。名字名前。それがおにぎりの子の名前。たぶん俺は一目惚れとかではなく、彼女に胃袋を掴まれてしまったのだ。ただ、きっかけはどうであれ、気になり始めた彼女を観察していると結構可愛いことが判明して、あれよあれよという間に好きになっとって。2年生に進級してからも同じクラスだった時には、柄にもなくめっちゃ喜んだ。
で、そっからはかなり分かりやすくアプローチした。俺はこれでも割と女子から人気があって(それはたぶんツムの影響力もあるんやろうけどそんなこと認めるんは腹立つからアイツの存在は気にせんことにする)、差し入れなんかも結構もらう。教室で声をかけられることも多くて、正直そういうんは面倒臭いから必要最低限の会話しかせぇへんようにしとったけど、名字には自分から話しかけるようにした。


「自分、料理得意なん?」
「え?なんで?」
「おにぎり。めっちゃ美味かった」
「おにぎり…?ああ、去年の夏の?」
「おん」
「あんなん普通のおにぎりやん。それより、そんな前のこと覚えてくれとったん?」
「また作ってや」
「それは別にええけど…」


そんなやり取りを経て、俺は定期的に名字から手作りのおにぎりを差し入れてもらえるようになった。律儀にも名字は毎回おにぎりの具材を変えてくれて、そんな小さな気遣いにも心が躍る。最初は2口ぐらいで食べきれそうだったサイズも、いつからかかなりボリュームがあるサイズに変わっとった。たぶん俺は名字んちに米代を払わなあかんほどおにぎりを御馳走になっとると思う。
俺がこんなに親密な関係(と言えるかは分からんけど)を築いとる女子は、幼馴染の女子1人を除いては名字しかおらん。普通の女やったらその時点で、自分に気があるんやないかと勘ぐってもおかしくない。けど、相手はミス鈍感・名字。この程度じゃ気付きもせぇへん。やから俺は、わざわざ名字と同じ日に日直できるように変わってもらって放課後に2人きりのシチュエーションまで持っていった。
顔を付き合わせて日誌を書く。邪魔者はなし。ここで俺が、名字って好きなヤツとかおらんの?と、その手の話題を振る。なんでそんなこときくん?て顔を赤らめながら反応してくれたら嬉しいとこやけど、名字は勿論そんな反応はせず、あーちゃん(俺の幼馴染の女)は好きやなあ、などと見当違いも甚だしい返答をしてきた。ここで同性の名前を出すバカがどこにおんねん。いや、ここにおるけど。


「…彼氏ほしいとか、思わへんの?」
「ああ、そういうこと?そりゃあ私も女子高生やし、ほしいとは思うよ」
「俺は?」
「うん?」
「名字の彼氏。俺は?」
「宮君……」


ほぼ告白のようなもんやった。流れる沈黙。これはさすがにそういう雰囲気やろ、と思ったのに。沈黙の末に名字が発した言葉は衝撃的やった。


「ええと思うよ、その言い方」
「は?」
「誰かに告白する練習やろ?今一瞬勘違いしそうになったわ。びっくりした…」
「練習ちゃうし。勘違いて…、」
「日誌できた!私出しとくから宮君は早う部活行って!」
「ちょ、名字!」


こうして俺の告白(するつもりやなかったけどほぼそれに近い何か)は勘違いとして処理されて終わった。もう鈍感とかそういうレベルちゃうやろ。もう少し自分にそういう可能性があるんやないかって考えてくれんと、こっちもお手上げや。そうしてほとほと困り果てとる俺に救いの手を差し伸べてきたんは、幼馴染の女。名字が好きな「あーちゃん」やった。


「サム、名前のこと好きなんやろ?」
「それが何やねん」
「あの子めっちゃ鈍感やから手こずっとるんちゃう?」
「分かっとんならいちいちきいてくんなアホ」
「そんな言い方せんでもええやん。協力してあげようと思っとんのに」
「協力…?」


彼女曰く、名字にはこの上なくド直球に攻め続けんと一生想いが届くことはないらしい。まあそんな気はしとったけど。そんなわけで、俺は彼女に取り持ってもらい、部活がオフの貴重な日にデートを取り付けることに成功した。デートとは言っても、俺の買い物にちょっと付き合ってもらうだけなんやけど、男女2人でどこかに出かけるということの意味を、名字にはほんの少しでもええから意識してもらいたい。


「私、邪魔やなかった?」
「なんで?」
「バレーのことよく分からんし…ただついて行っただけやし…」
「俺が名字と一緒に行きたかっただけやから」
「…うん?」


元々買うものは決まっとったし、待ち合わせ場所から店まではすぐやったから当初の目的は1時間もせずに終了した。そしてこの会話。俺の言葉に疑問符を浮かべている名字はほんまにアホで、でもまあ、可愛い。いつか、ちょっとバカでアホな子の方が可愛いで、と言っとったツムの言葉も、あながち間違いやないかもしれん。


「あれ、本気やった」
「何のこと?」
「日直で放課後残っとった時の話」
「私の彼氏に宮君が立候補してくれたやつ?」
「おん」
「…………えっ」
「反応おっそ」
「えっ、だって、えっ」
「大体なあ、好きでもない子とこんな風に2人で出かけるわけないやんか」
「それはそうかもしれんけど…でも…え?宮君、私のこと好きなん…?」
「さっきからずっとそういう話しとるんやけど」
「えー!嘘やん!冗談やろ?」
「ちゃう。ええ加減にしてくれんとこっちも色々限界やねん」


俺が好きやって言うとる事実からどこまでも逃げようとする名字の手を取って、自分の胸に押し当てる。バクバクうるさい心音は伝わっとるんやろうか。本気やねん、という言葉も、できたら伝わっとってほしいと思う。


「…私なんかが彼女になってほんまにええの?」
「おん」
「宮君のこと、好きになってええの?」
「そうなってくれんと困る」
「…どうしよう宮君」
「何が」
「びっくりしすぎて泣きそう」
「そこは嬉しすぎて泣きそうて言うてほしかったんやけど」


まあええわ。泣きたいなら泣けばええやんか。
そう言った俺に1歩近付いてきた名字は、俺の胸に押し当てたままの手でくしゃりとシャツを握り締めて、泣きそうて言ったくせに満面の笑みで俺を見上げてきた。なんなんこの子。めっちゃ可愛いやんか。
いつからか知らんけど俺の胃袋だけやなくて心臓まで鷲掴みにしとった小さい手を握る。どこ行くん?て。そんなん昼飯食いに行くに決まっとるやろ。名字手作りのおにぎりで腹いっぱいにして、ついでに胸もいっぱいにしてくれんと、今までの俺の頑張りが報われへんわ。

三角形は
ハートに勝る

ムギさま、この度は2周年企画にご参加くださりありがとうございました。
殊の外ヒロインが鈍感になりすぎてしまったものの、普段あまり書かないキャラだったので楽しく書かせていただくことができました!ご要望にお応えしきれたかどうか不安ですが、宮治の頑張りとヒロインへの想いの大きさが伝わったら嬉しいです〜
嬉しい言葉を沢山ありがとうございます!これからもキュンキュンしていただけるお話が書けるように頑張りますね。