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2nd Anniversary
thanks a lot !


「月島君!」
「……誰だっけ」
「同じクラスの名字名前です」
「ふーん、そうなんだ。で?僕に何か用?」
「昨日はありがとう」
「昨日?」
「コンビニ出たところで助けてくれて…」
「……ああ、あの時の」


たとえ彼の記憶には残らないことだったとしても、私にとっては忘れられない出来事だった。
昨日、つまり入学式の前日。私は夕食前にコンビニに行っていた。お母さんに頼まれた牛乳と、お風呂上がりに食べる用のアイスクリーム。それらを買う前に、ちょっと気になっていたファッション雑誌を立ち読みなんかしていたのがいけなかったのだろうか。いつからか分からないけれど、気付いたら私のすぐ近くには中年の男の人が立っていた。別にそれだけなら何も気にする必要はなかったのだけれど、私がアイスクリームのコーナーに移動しても飲み物のコーナーに移動しても、その男の人はずっと一定の距離を保って付いて来ていて、さすがに気持ちが悪くて。私がお会計をしている時も出入口近くをうろうろしていて、まるで私がコンビニから出て行くのを待っているみたいなのが怖かった。
店員さんに言って助けてもらおうか。でも、明確に何かをされたわけではないから私の勘違いかもしれないし、自意識過剰だと言われてしまえばそれまで。ちょっと買い物するだけだからと思い携帯電話は家に置きっぱなしにして来てしまったので、家族に迎えに来てもらうこともできない。迷った挙句、私はさっさとコンビニを出て家までダッシュで帰ることにした。
けれどもコンビニを出たところで思わぬ展開。スタートダッシュを切る前に、その男の人に腕を掴まれてしまったのだ。振り解こうにも相手は男の人だからびくともしなくて、出入り口の明るいところから離れた暗いところまで引っ張られる。こういう時は大声を出して助けを呼んだら良いということは知っていたけれど、怖くて上手く声を発することができなくて。どうしよう、とただ恐怖に支配されている時に現れたのが他でもない彼だった。ひょろりと細長いシルエットによく映える明るい髪色。黒縁眼鏡にヘッドフォンをつけた彼は男の人の手を掴んで、警察呼びましょうか?と。ただそれだけ静かに言って男の人を追い払ってくれた。


「あ、あの、」
「何?」
「ありがとうございました…」
「別に。これからはもっと気を付けた方が良いんじゃない?」


口数少ない彼とのやり取りはたったそれだけ。最後の一言にはちょっとカチンときたけれど、私を助けてくれた恩人に対してその感情は不適切だと判断してぐっと飲み込んだ。名前を聞くことはできなかったし、随分と大きな人だったから私より年上のお兄さんっぽいし、もう2度と会うことはないだろうと思っていたら、入学式でまさかの再会。しかも同じクラスときたもんだ。昨日は恐怖のあまりきちんとお礼を言えなかったからもう1度お礼を言っておこう。そう思って声をかけたのが冒頭のシーンである。


「折角こうして会えたんだから改めて何かお礼をしたいなと思ったんだけど」
「いいよ、そういうの。たまたま気付いただけだし」
「でも、私はそれで助かったわけだし…」
「じゃあ僕が助けてほしいと思った時に声かけるから、それまでは何もしないで」


私を助けてくれた恩人であるヒーロー様は、思っていたよりもドライで、正義の味方にはほど遠いタイプだった。けれども、そんな彼が助けてくれたからこそ惹かれてしまったのかもしれない。気付けば私は彼のことが気になり始めていて、自分から声をかけるまでは何もするな、と牽制されたにもかかわらず、事あるごとに声をかけるようになってしまっていた。そのお陰で幼馴染だという山口君とは仲良くなることができたし、彼がバレー部だという情報も得ることができた。けれど、肝心の彼との距離は一向に埋まる気配がない。むしろ、どんどん離れて行っているようにすら感じる。
出会って2ヶ月。梅雨真っただ中の6月には、月島君!と声をかけるだけで、何?くだらないことなら時間の無駄だからあっち行って、と迷惑そうにあしらわれてしまうし、授業の一環でたまたまペアになった時も、僕のストーカーなの?とこの上なく嫌そうな顔をされるようになった。それでもめげない私は、なかなか一途な女ではないだろうか。きっと彼に言わせてみれば、ただしつこいだけのウザい女なのだろうけれど、今更そんなことは気にしていられない。


「月島君っていつも何を聴いてるの?」
「色々」
「例えば?」
「それきいてどうするわけ?」
「私も聴こうかなと思って」
「……国歌」
「は?」
「だから、国歌。ほら、国歌聴きなよ」
「絶対嘘でしょ!」


今日も今日とて月島君は私に冷たい。これが通常運転なのでもう慣れてしまったけれど、こうなってくるともうどうやって彼に私の気持ちをアピールしたら良いものかさっぱり分からなくなってしまう。そもそも彼は女の子に興味があるのだろうか。ちょっと近寄り難い雰囲気があるからか、クラスの女子と仲良く話している姿は見かけたことがないし、彼女もいないらしい(山口君情報)。脈あり、なし、以前に、興味すら持ってもらえないようではスタートラインに立つことすら叶わない。
押してダメなら引いてみろ、ということで1週間こちらから声をかけないという作戦も実行してみたけれど、結果、特に何も起こらなかった。久し振りに声をかけた時の反応も、先週は静かで良かったのに、なんていつも通りのクールさ。ここまでくると私は一体彼のどこに惹かれているのだろうかと疑問になってくる。
けれどもそんな時に、そういうつもりはないのだろうけれど、タイミングよく私を救ってくれるのが彼で。日直で黒板消しをしている時に上の方まで届かずぴょんぴょんと跳ねている私から黒板消しを奪い取って無言でスイスイ消してくれたり、クラス全員分のノートを1人で運ぼうとしていたら、フラフラ歩かれると邪魔、などと辛辣な言葉を投げつつも半分以上運ぶのを手伝ってくれたり。たとえそれが私じゃなくても彼は同じことをしたのだろうけれど、私には特別なことに思えてしまったのだ。
そしてそんなことが続いた日の放課後。梅雨と言うだけあって朝はカラリと晴れていた空には厚い雲が敷き詰められていて、大粒の雨が降ってきていた。珍しく折り畳み傘を持ってきていた私は鞄からそれを取り出すと意気揚々と帰路につく、はずだった。


「ねぇ」
「う、わ!びっくりしたー…」
「その傘貸して」
「えっ」
「あの時の借り、ここで返して」


突如背後から現れた想い人は、私の肩を掴んで平然とそう言ってのけたのだった。彼に授業中以外で声をかけてもらえたのは嬉しい。けれども些かお願いが酷すぎやしないだろうか。いや、貸すけど。貸しますけど。あの時の御恩は返しますけど。これでも一応女の私は土砂降りの中で走って帰れと言うことなんですよね?
この扱いは完璧に脈なし。彼にとってはもはやそれ以前の問題か。私の心の中はこの天気同様に曇天で大粒の雨が降っている状態で、それでもどうにか手に持っていた折り畳み傘を渡す。どーも、と何の躊躇いもなくそれを受け取った彼は、私の赤い傘をさして雨の中を歩いて行く…のかと思いきや。くるり。振り返って一言、そこで待っといて、と。彼は確かにそう言ってから去って行った。
待っといてって誰を?月島君を?私が?待ってて良いんですか?疑問符だらけの私は呆然とその場に立ち尽くしたまま動くことができず、結果的に彼の言いつけ通り「待て」の状態を保持している犬と化していた。
しかしここで待っていて本当に彼は帰ってきてくれるのだろうか。そんな一抹の不安が過り始めた時、見覚えのある細長いシルエットが見えた。さしているのは赤い傘ではなく透明のビニール傘。どうやら近くのコンビニまで買いに行ったようだ。屋根の下までやって来た彼は、どうも、とお礼なのかどうか微妙な言葉とともに手に持っていた赤い傘を私に差し出してくる。


「最初から、コンビニで傘買ってくるからその間だけ貸してって言ってくれたら良かったのに…」
「いちいち言うの面倒臭い」
「コンビニで傘が売り切れてたらどうするつもりだったの?」
「違うコンビニで買う」
「わざわざそんな面倒臭いことするの?月島君、面倒臭いの嫌いなのに?」
「この傘借りたまま帰るわけにいかないんだから仕方ないデショ」


私の傘奪ってそのまま帰っちゃいそうなタイプなのに意外と律儀。いや、常識があるだけなのかもしれないけど。そういうところ、やっぱり好きだな。他の誰でもなく私に声をかけてきてくれたのも嬉しかったし、それだってたまたまだったのかもしれないけど、私にとっては特別なことで。私は急に胸がいっぱいになるのを感じて、自分でも驚くべきことを口走っていた。


「私、月島君のこと好きだな」
「は?」
「……えっ、ごめ、今私っ…!?ストップ、ちが、今のなしなし!」
「ちょっと落ち着きなよ」
「だって!……ごめん」
「何が」
「迷惑だよね、こういうの」
「……別に」
「え?」
「好きにすれば良いんじゃないの」
「え、それって、あの、」
「うるさい」


迷惑だとは言われなかった。好きにして良いと言われた。つまり私はまだ彼のことを好きでいても良いというお墨付きをいただけたという解釈で間違いないだろうか。確認する前に傘を畳んで体育館の方に向かって歩き始めてしまった彼の背中を見送る。今からきっと部活に行くに違いない。
山口君とか同じバレー部の誰かに傘を借りることもできたはずなのに、部活終わりには雨だってあがっているかもしれないのに、わざわざ部活前にここに来て、私の傘を奪って、コンビニで傘を買ったんだ。それって何か特別な意味があるんじゃないかなって、勝手に期待しちゃダメかなあ。
翌朝、教室でいつも通りに声をかけた私に対する彼の反応は相変わらずドライで。ただ、何聴いてるの?という私の質問に対して溜息を吐きながらもヘッドフォンを渡されたところを見ると、私達の関係ってかなり前進したんじゃないかなって思うのだ。彼から受け取ったヘッドフォンをつけてみる。…ほら、やっぱり国歌じゃないじゃん。

ラブソングが
聴こえるかい?

かなっぺさま、この度は2周年企画にご参加くださりありがとうございました。
さりげないアピールでもなければ意味深な終わり方にもなりきれず全くリスエストに添えていないのでは…と思いながらも月島難しすぎてこれで勘弁していただけないかと更新した次第です…月島蛍と恋愛!できない笑!すみません…精進します…。
黒尾長編も読んでくださっているとのことで嬉しいです。ありがとうございます!今後も更新頑張りますので宜しくお願い致します〜!