×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

05

木兎が可愛い彼女と別れたらしい。黒尾と赤葦がわざわざご丁寧に教えてくれた。我ながら性格が悪いとは思うけれど、正直嬉しい。嬉しくて堪らない。けれども、きっと木兎は相当ヘコんでいるのだろうと思うと複雑な気持ちになった。
もしかして別れた理由は、あの日、私を追いかけて来たせいかもしれない。だとしたら間接的に私が原因になっているということだ。どうしよう。大袈裟かもしれないけれど、私は木兎の幸せを奪ってしまった。今度こそ、どのツラ下げて木兎に会えば良いのか分からない。部活には色々な理由をつけて暫く顔を出していないから余計に顔を合わせづらいし、どうしたものか。


「お、名字じゃん。今日部活来るだろ?」
「…行かない」
「なんで?」
「だって…」
「木兎さんのことなら大丈夫ですよ」
「何がどう大丈夫なの…」
「それは自分で確かめてください」


出た。お節介組。私のことを監視しているのか?と疑いたくなるレベルでタイミングよく現れた2人は、随分と好き勝手なことを言ってくる。他人事だと思って…と反論しようとしたけれど、賢い赤葦が軽率に、大丈夫です、などと言ってくるのは意外すぎると口を噤んだ。
そうして迎えた放課後。私は体育館の前にいた。部活が始まるまでにはまだ時間がある。木兎がいるかどうかは分からないけれど、もしいたら確実に顔を合わせて何かしらの会話をすることになるだろう。ふぅ。大きく深呼吸をしてから体育館に入る。こんなに緊張した面持ちで体育館に入ることになる日が来ようとは思わなかった。
バレーボールを力強く床に叩きつける音がきこえる。音だけで分かった。そこに木兎がいるって。恐る恐る中を覗き込めば、やっぱりいた。しかもすぐに目が合ってしまって、私は逃げられなくなる。ぱあっと顔を輝かせて、それはそれは嬉しそうに私の元に走り寄って来るから。なんでそんな顔するかなあ…ほんと、ずるいなあ。


「名前!久し振りじゃん!」
「まあ…そうだね」
「何やってたんだよ〜」
「…ちょっと色々忙しくて」


こっちが緊張していたのがバカバカしくなるほど普通に話しかけてくる木兎に拍子抜け。フラれたときいたけれど、それはデマだったのだろうか。


「木兎…フラれたって聞いたけど…」
「え。なんで知ってんの?」
「本当のことだったんだ…もっとヘコんでるかと思った」
「これでもヘコんでるけど」
「そんな風に見えないよ」
「んー…なんか名前に会ったら元気になった!」


無邪気に笑う木兎の言葉に固まる私。だから、なんでそういうこと言うの。なんでそんな風に笑うの。私は仲の良い女友達の1人であってそれ以上でもそれ以下でもない。分かってるのに、もしかしたら私は特別じゃないかって、勘違いしそうになってしまうじゃないか。


「意味わかんないこと言わないでよ」
「俺さ、フラれて確かにヘコんだけど、名前がいない時の方が調子狂うんだよなー」
「は…?なんで…?」
「なんでって…あー…すきだから?」


すき?スキ?好き?木兎が、私のことを?聞き間違いか、そうでなければこれは夢の中の出来事ではなかろうか。そう思ってしまうほど信じられないワードが聞こえてきて、私はパクパクと口を動かすのが精一杯。声を発することはできない。
そんな動揺マックスな私のことなど気にする素振りもなく、木兎はマイペースに話を続ける。らしいっちゃらしいけど、もう少しこちらの身にもなってほしい。


「あの子のことは好きかわかんねーけど、名前のことは好きだ。たぶん!」
「…なにそれ。たぶんって…ほんと、意味わかんない…」


たぶん、なんてわざわざ言わなくても良いのに言ってしまうあたり木兎っぽいよなと思わず笑ってしまう。例えばこれが夢だったとして。それならそれで良い夢だったと思うしかない。けれども、もしも現実に起こっている奇跡みたいな出来事だとしたら。ほんの少しぐらい素直になることを許してはもらえないだろうか。


「私も…木兎のこと好きだよ。…たぶん」
「え!マジで!?じゃあ俺の彼女になる!?」
「最近フラれたばっかりのくせに何言ってんの」
「ダメ…?」


あからさまにシュンと肩を落とし、大きな図体をほんの少し小さく丸める木兎を見て、こんなことを思うのはおかしいかもしれないけれど可愛いと思ってしまった。なるほど、恋は盲目とはよく言ったものである。


「木兎はやっぱり女を見る目がないね」
「なんで?」
「私なんか選ぶから」
「名前のことは見た目で選んだわけじゃねーもん」
「失礼な!どうせ私は見た目もスタイルも普通の平凡女子ですよーだ」
「でも俺は名前が良い!」
「…ばーか」


ド直球ストレート。木兎はやっぱりバカだ。でもそんな木兎のことが、私はどうしようもなく好きだから。これからは女友達としてではなく彼女として、傍にいても良いかな。
ふわふわとした空気が流れる中、私は我に帰る。ここは体育館で、バレー部の部活前なわけで。バレー部員達が徐々に集まってきている中、今更ながらに感じた沢山の視線。私は自ら公開処刑されに行ってしまった。


「良かったですねぇ、お2人さん」
「まったく…手がかかるんですから」
「もうやだ今日は帰る」
「なんでだよ!一緒に帰ろうぜ〜!」


なんとなく分かっていたことではあるけれど、今はっきりした。木兎とカレシカノジョの関係を円滑に続けていくのは、かなり大変だって。きっと喧嘩ばっかりしてぶつかりまくって、今までの友達としての関係と変わらないやり取りを繰り返すのだろう。それでも時々恋人らしい何かを散りばめて、やっぱり好きだなあと再認識するに違いない。
私達の新たな関係は、今スタートしたばかりだ。