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01

男女の友情は成立するか。答えは人それぞれだろうけれど、私は成立すると思う。中高、そして大学に進学した今でも私には男友達がそれなりにいるし、今まで1度たりとも男女間のトラブルなどに発展したことはない。
女として認識されていないと言えばそれまで。けれども私はそんな自分の性格が嫌いじゃなかった。自分の気持ちに気付くまでは。


「あ、名前!飲みもん持ってたらちょーだい!」
「はあ?自分で買ってきなよ」
「財布忘れた!」


体育館に入るなり飼い主を見つけた犬みたいな顔で私の方に駆け寄ってきたのは、男友達の木兎光太郎。私が渋々取り出したペットボトルのスポーツドリンクを奪い取って躊躇なくガブガブ飲む。
別に良いけどさ。良いんだけど。今更、間接キスぐらいでどうこう思うほどウブじゃないけど。私はやっぱり女として意識されていないんだと思い知らされたようで、ちょっと切ない。サンキュなー!と、勝手に奪い取って飲んだくせに太陽みたいな眩しい笑顔でお礼を言われてしまえば、怒る気も失せてしまった。
最初は本当にただのバカな男友達だと思っていたのに、いつから特別な存在になってしまったのだろう。好きだということを自覚したのはつい最近になってから。どこに惹かれたのか、いまだにさっぱり分からないぐらいだ。
背が高くてガタイも良いけれど、失礼な話、そんなに飛び抜けてカッコいいってわけじゃない。運動神経は良いけれど、勉強の方はからっきしダメ。ポジティブでいつも明るくて、そういうところは元々好感が持てていたけれど、後先考えずに猪突猛進すぎるところはあまり好きじゃなかった。つまり、結局のところかれのどこが好きなの?と尋ねられても答えられないのである。
大学のバレー部でマネージャーをしている私は、楽しそうにバレーボールを追いかける木兎を目で追いかけながら溜息を吐いた。ほんと、厄介な人を好きになってしまったものだ。


「どしたの?溜息なんか吐いちゃって」
「黒尾…別に。ちょっと疲れただけ」
「ふーん?」
「悩み相談ならいつでもききますけど」
「赤葦は頼りになるねぇ。後輩なのに」


いつの間に現れたのか、木兎とも私とも仲の良いバレー部員の黒尾と赤葦がやって来て、いつも通りに他愛ない会話をする。この4人のメンバーはなんだかんだで仲が良くて、夜ご飯なんかもよく一緒に食べに行ったりしていた。私は女1人だけれど、そんなことは気にならない。黒尾と赤葦は、それこそ本当にただの男友達だ。
先にボールと戯れていた木兎のところへ2人が行き本格的なアップが始まったところで、私もマネージャーの仕事の準備に取り掛かる。部活が終わったら今日は買い物に行かなきゃ冷蔵庫の中は空っぽだったなあ。夜ご飯何にしよ。一応恋する乙女のはずなのにすぐにこういう日常的なことを考え始めてしまう私は、女としての何かが足りないのかもしれない。


◇ ◇ ◇



「名字ー、今日飯行く?」
「黒尾が奢ってくれるなら行く」
「俺も金ねぇし。木兎は?」
「行く!」
「ねぇ木兎。部活の前に財布忘れたって言ってなかった?」
「げ!そうだった!あかーし貸して!」
「嫌ですよ。俺にいくら借金してると思ってるんですか」


この馬鹿げた会話をきいてもらったら分かる通り、木兎はとてもしょーもない男だ。この3人とつるんでいて、最も頼りないというか、なんというか。だからこそ自分の気持ちが分からない。なんでよりにもよって木兎なんだろう。


「木兎ってさあ、絶対女の子見る目ないよね」
「はあ!?なんだよいきなり!」
「だってどうせ見た目で判断するでしょ。一目惚れしたーとか言ってさ」
「う…そりゃ可愛い子が良いに決まってんじゃん」


ぐさり。ストレートな木兎の言葉がそのまま私の心臓に突き刺さる。自分から言い出した話題だし、自分から喧嘩を売ったのだからこうなることは分かっていたくせに。私のバカ。
しかし後悔したところで今更後には引けない。


「ほらね。そういうやつはろくな女に引っかからないんだから」
「大きなお世話だ!大体、そう言う名前だって彼氏いねーくせに!」
「わ、私はイイ男を吟味してる最中だからいいの!」


我ながらなんとも苦しい言い訳である。結局4人でリーズナブルな値段がウリの大学近くのファミレスに向かっている道すがら、こんな低レベルな言い争いをする大学生なんて私達ぐらいのものだろう。
背後から注がれる生温かい視線は黒尾と赤葦のもの。聡い2人は、恐らく私の気持ちに気付いてしまっていると思う。何も知らないのは、たぶん鈍感を絵に描いたようなこの男だけ。だからこそ、今のやり取りを聞かれているというのは恥ずかしいし惨めだけれど仕方がない。


「相変わらず仲良いねぇお2人さん」
「どこが!」
「名字さんは嬉しいんじゃないですか?」
「もうやだ赤葦も黒尾もムダに察し良くて嫌い!」
「なになに?俺にも教えて!」
「木兎は黙ってて!」


ニヤニヤ笑う黒尾と、やれやれといった表情の赤葦と、納得できないと不機嫌さを露わにしている木兎と、怒りと焦りと色々な感情がごちゃまぜになって複雑な顔をしているであろう私と。
なんだかんだでこの4人でいるのが私は好きだ。たとえ一生この淡い気持ちをぶつける日が来ることがないとしても、こうやって友達として一緒にいられるならそれで良い。そう思える程度には大切な場所。壊したくない、失いたくない関係。
今のままで私が何もしなければなくならない。ずっとこのままでいられる。そう信じていた。だから何もしなかったのに、なんて。これはきっと言い訳だ。私が何もしなくたってこの関係が崩れる可能性は無限にあった。そんなの、頭の隅では理解していた。気付かないフリをしていただけで。


「なあ!聞いて聞いて!」
「うるさいな。何?」
「俺、告白された!」


ほら。壊れるのは一瞬。
得意げな表情で私に残酷な自慢をしてきた木兎に、私はただ目を丸くして黙りこくることしかできなかった。