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幸せな誕生日を終え、夏休みに突入した。俺は例の如く、部活三昧の毎日だ。学校が休みだと名前ちゃんに会えない。それが本当に辛い。LINEや電話でのやり取りはするけれど、やっぱり生の名前ちゃんに勝るものはない。
誕生日の時は結構良い感じだったし、最近は俺を甘やかしてくれる名前ちゃんだから、もしかしたら部活見に来てくれるんじゃないかなー!なんて思っていたけれど、それはさすがになかった。ちなみに、俺の方からお誘いもしてみたけれど、暑いからヤダ、と断られた。ですよねー。
今日も蒸し風呂状態の体育館でたっぷり汗をかき、岩ちゃん達と帰路についた。他愛ない話をしながら歩けば家はもうすぐそこまで近付いていて、ご近所さんの岩ちゃんとも別れを告げる。そういえば今日は、父さんが出張、母さんも猛のところに泊まると言っていたから夜は1人だ。
まだ母さんいるのかなーなんて思いながら玄関のドアに手をかけると、鍵はかかっていなかった。どうやらまだいるらしい。


「ただいまー……?」
「あら、徹。待ってたのよ」
「え?誰か来てる?」
「…おかえり。お疲れ様」
「名前ちゃん!どうしたの!」


見覚えのない女性ものの靴があると思ったら、なんと名前ちゃんがいるではないか。なんで?嬉しいけど!
どうやら母さんの話によると、スーパーでばったり出くわしたので家に招いたという。夜ご飯も名前ちゃんと一緒に作れて楽しかったと話す母さんは上機嫌だ。


「じゃあ、お母さんはそろそろ行くからね。名前ちゃん、ゆっくりしていってちょうだい」
「料理、一緒にできて楽しかったです。夜ご飯いただいて帰ります」
「2人で仲良くねー!」


慌ただしく出て行く母さんを見送り、俺達は2人きりになった。イマイチ展開が掴めないが、とりあえず母さん、グッジョブ!


「名前ちゃん、母さん無理矢理誘ったんじゃない?」
「ううん。普通に誘われたから行っても良いかなーと思って。まさかお母さんが夜いないとは思わなかったけど」
「あー…うん、そうだろうね…」


そこで俺は冷静になった。今日は父さんも母さんもいない。そしてここに名前ちゃんがいて、家には俺と2人きり。これって……俺にとっては最高のシチュエーションだけど、名前ちゃんにとってはどうなんだろう?
まさか俺と2人きりなんて思ってなかったわけだし、もしかしてもう帰っちゃう感じだったりして?


「及川、夜ご飯食べる?」
「あ、うん。名前ちゃんも一緒に食べるよね?」
「2人分作っちゃったから食べるよ」


俺の不安は杞憂に終わり、2人で夜ご飯を食べることになった。密かに、新婚さんみたい!と浮かれ気分だったが、口には出さない。そんなことを言って気分を害されたら、帰っちゃうかもしれないし。今はできるだけ長く名前ちゃんと一緒にいたい。学校のことや夏休みに入っての出来事などを話して、夜ご飯は終了した。
夜ご飯を終え後片付けまでしてくれた名前ちゃんは、今、リビングでテレビを見ている。どうしよう…柄にもなく緊張してきた。今日泊まっていかない?って言ったら、名前ちゃんはどう反応するだろうか。
俺だって健全な男子高校生だ。好きな女の子と2人きりだったら、そういうことを考えてしまうのは仕方がないと思う。けれど、名前ちゃんに嫌われるようなことは絶対にしたくない。
ぶっちゃけ、今までの彼女とだったらとっくにそういうことをしていたと思うけれど、名前ちゃんは特別だ。大切にしたいと本気で思っている。だからこそ、俺はこの状況で悩みまくっているのだ。


「名前ちゃん、これからどうするの?」
「んー、そろそろ帰ろうかな」
「あのさ、……俺の部屋来ない?」
「うん?良いよ。行ってもいいなら」


名前ちゃんは意外にもあっさり了承してくれた。どうやら警戒されていないらしい。部屋に来てくれることを喜ぶべきか、意識されていないことを嘆くべきか微妙なところではあるが、今は素直に喜んでおこう。
俺は2階の自室へ名前ちゃんを招いた。いかがわしいものはなかったと思う。名前ちゃんは物珍しそうに部屋の中をぐるりと見渡してから、空いているスペースに腰をおろした。布団畳んでおいて良かった。


「及川の部屋が和室なの意外。ふわふわベッドで寝てそうなのに」
「布団の方が落ち着くよ?名前ちゃんはベッド派なの?」
「どっちでもいい。私の部屋はベッドだけどね」
「へぇ…そっか」


図らずも寝床の話になってしまった。不自然な沈黙が訪れ、俺はさらに焦る。らしくないのは分かっているが、これからどうしようか必死に模索しても、いい答えは見つからない。
そんな俺を不審に思ったのか、名前ちゃんが首を傾げた。ヤバい、かも。そう思って何か言おうと口を開きかけた時、名前ちゃんがクスリと笑った。…なんでこのタイミングで、そんな不意打ちの笑顔とか見せてくれちゃうのかな。


「及川、なんか緊張してる?」
「……隠してても仕方ないから言うけどさ、名前ちゃんと2人きりだったら緊張するよ」
「今までも2人きりになったことあるでしょ」
「家で2人きりは初めてじゃん」
「なんで家で2人きりだと緊張するの?」
「……分かっててきいてる?」


名前ちゃんは何も言わない代わりに、もう1度、ゆるりと笑った。
ああもう、そんな可愛い顔すると襲うよ?ここ俺の部屋なんだけど分かってる?それとも俺、誘われてるの?もしかして名前ちゃん、そっちの方は積極的なタイプ?
色々な考えが頭をぐるぐる駆け巡る中、名前ちゃんが少し俯きながら口を開く。


「私も、緊張してるよ」
「……全然分かんないね」
「及川なら気付くと思った」
「自分に余裕がないから気付けないよ」
「そんな及川、初めてかもね」
「ねぇ名前ちゃん……今日、うちに泊まってよ」


核心を突いた俺の発言に、今日初めて、名前ちゃんの動揺が見て取れた。それがどういう意味か、きっと分かってる。


「着替えとか、ないし」
「パジャマぐらい貸すよ。大きいと思うけど」
「お母さんに、言ってないし」
「今からきいてみたら?」
「……、」
「ごめん、嫌なら、良いんだ」


無理強いしそうになった自分を恥じた。こういうことは強要したら駄目なのに、どうも気持ちが先走る。俺、カッコ悪い。
名前ちゃんは暫く押し黙っていて、ああ困らせたなあ、と今更申し訳なくなる。


「及川、」
「ん?」
「お母さんに電話してみる」
「え、」
「もし良いよって言われたら、泊まらせて」
「自分から誘っておいて言うのもアレだけど…いいの?無理してない?」
「いつもの及川らしくないね。もっと押しが強いのかと思ってた」
「大切にしたいと思ってるから無理強いしたくないんだよ。でも、泊まるんだったら、正直抑えらんないと思う」
「素直だね……」
「うん」
「待ってて。電話してくるから」


名前ちゃんはそう言い残して部屋を出て行った。帰ってこないことを確認して、俺は畳に突っ伏す。駄目だ、既にムラムラしてきてヤバい。男ってなんでこんなに単純で馬鹿なんだろう。
名前ちゃんがいない間、俺はもしも泊まってくれることになった場合どうするか、思考を巡らせた。結局、どれだけ考えても行き着く先が同じだったなんて、本当に俺は馬鹿でしかない。


たゆたう純真


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