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最近の名前ちゃんは出会った頃の何倍も可愛い。可愛すぎて困る。ゴールデンウィークあけに見せてくれた微笑みなんて最高だった。
俺は現在、部活終わりの帰り道でこの興奮をバレー部の3人に力説しているのだが、誰1人として真面目にきいてくれない。残念ながらこれが通常運転である。


「及川、本気なの?名字さんのこと」
「本気だってば!前から言ってるじゃん。毎日頑張ってアプローチしてるんだから!」
「名字さん、ドンマイだわ」
「クソ川にアプローチされてるとかうぜぇことこの上ないだろうな」
「ちょっとマッキーと岩ちゃんひどくない?」
「でもさっきの話だとちょっと前進したっぽいじゃん。及川の気のせいじゃなければ、だけど」
「気のせいじゃない!絶対!」
「噂をすれば…あれ、名字さんじゃね?」


まっつんが示す先に目をやると、確かにそこには名前ちゃんがいた。なんでこんな時間に帰ってるんだろう。とは言え、これは一緒に帰るチャンスである。
俺は3人にさっさと別れを告げると名前ちゃんに走って近付いた。


「名前ちゃん、今帰り?遅くない?」
「わっ、及川……」
「そんな化け物見るみたいな目で見ないでよ。ね、一緒に帰ろ?」
「……嫌だって言っても付いてくるんでしょ…」


諦めたようにそう言う名前ちゃんの反応には慣れた。本気で嫌がってないってことも分かってるんだからね。
俺は名前ちゃんの隣に並ぶと歩調を合わせて進む。


「そういえば、今日はなんでこんなに遅いの?」
「私、図書委員だから。今日は図書室の貸し出し当番だったし少し本棚の整理もしてたから遅くなった」
「そっかー。言ってくれたら最初から帰る約束してたのに!」
「なんで及川に言わなきゃいけないの」
「こんな時間に1人で帰るの危ないじゃん!」


別に大丈夫だよ…と言いつつ、俺が隣に並んでも嫌がらないあたり、名前ちゃんは随分俺に心を許してくれるようになったと思う。まあ、俺がしつこいから諦められているという線もなくはないけれど。


「及川は毎日こんな遅いんだね」
「まあねー。バレーしてたらあっという間に時間過ぎちゃうから。まだ練習したいぐらいだよ」
「へぇ…あんなに上手いのにまだ練習したいんだ。すごいね」


たぶん名前ちゃんは無意識だと思うけれど、俺のことを素直に褒めてくれたのは初めてのことだった。いつも呆れられたり冷たい反応しかされていなかった俺にとっては、かなり衝撃的な嬉しさである。
俺がにやけていることに気付いたらしい名前ちゃんは怪訝そうな顔をしているけれど、顔のニヤつきは抑えられそうもない。


「名前ちゃんが俺のこと褒めてくれたの初めてで嬉しくてさー!」
「そうだっけ…?でも練習試合の時に見た及川は本当にすごかったよ。バレー頑張ってるんだなあって思ったし。普段もチャラチャラせずにバレーの時みたいに真剣な顔してたら良いのに」
「うん…?なんか喜んで良いのかどうか微妙なこと言われたよね?」


普段の俺、そんなにチャラチャラしてるのかなあ…今更態度を改めても遅いよね?ていうかどこがチャラチャラしてるんだろう。俺はただ名前ちゃんに全力アタックしてるだけなのに!
名前ちゃんに言われたセリフを頭の中で反芻しながら色々考えを巡らせる。


「バレーしてる俺を見て、惚れた?」
「は?」
「すごかったって言ってくれたから、てっきりそうなのかなーって」
「及川って本当に自分に自信あるよね。普通そんなこときけないよ」
「ありがとう」
「褒めてない」


結局、明確な返答は得られず。手応えはあるんだけどなあ…。
もうすぐ分かれ道。名前ちゃんと一緒に歩けるのも数分かと思うと寂しくなってきた。毎日学校で会うのに離れたくないなんて、俺って相当名前ちゃんのこと好きじゃない?


「明日も図書室の貸し出し当番やりなよ。俺と帰ろ?」
「なんでわざわざそんなことしなきゃいけないの…明日は即帰る」
「じゃあ来週の月曜日は?一緒に帰ろうよ!ね?」
「嫌。色んな人にジロジロ見られるし」
「えー…名前ちゃんと帰る約束できたら来週まで頑張れるのに…」


俺はわざとヘコんだフリをしてみる。すると、どうだろう。名前ちゃんが困ったような、呆れたような、けれどほんの少し、ほんの少しだけだけれど慈しむような目で微笑んだのだ。それはそれは、とても綺麗に。


「ヘコんだフリしてるのバレバレだから。そこまでして私と帰りたいの?」
「うん!帰りたい!」
「馬鹿だね及川は」
「馬鹿でも良い!一緒に帰れるなら!」
「…良いよ。分かった。来週の月曜日ね。じゃあ私こっちだから」


え?待って待って。今良いよって言った?ちょっと待ってほんとに。頭の中が整理できない。
もう俺に背中を向けて帰路についている名前ちゃんを呆然と見つめる。さっきの笑顔といい、発言といい、今日の名前ちゃんどうしちゃったの。すごく良い意味で調子狂うんだけど!
どういう風の吹き回しかは分からないけれど、たとえ気紛れでも良い。来週の月曜日が待ち遠しくてたまらない。いつもと同じ帰り道。それなのに俺の足は軽やかだった。


朗らかに唄う足


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