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とんだ茶番、勝手にやってな


ずっと気になっている子がいる。なぜか高校に入ってから3年間同じクラスで男友達みたいなノリで俺に絡んでくる女友達…の、友達の、名字さんだ。名字さんとは3年生になってから初めて同じクラスになった。先ほど登場した3年間俺と同じクラスである女友達のワタナベヨウコと仲が良いらしく、それでなんとなく存在を知ったのが始まり。俺はどっちかというとワタナベみたいなノリの子の方が気が合うと思うし、今まで好きになった女の子のタイプも活発で元気で明るい!みたいな子だった。だから名字さんみたいに、ちょっと大人しそうで控えめな、まさに女の子って雰囲気の子に惹かれるのは今回が初めてだ。
名字さんとワタナベは性格が真逆のタイプのように見えるけれど、それが逆に功を奏しているのだろうか。男かよ、とツッコミたくなるほど快活なワタナベと名字さんは、1年生の時に同じ委員会になったのをキッカケに急速に仲良くなったらしい。
ワタナベに付き合っているだけなのだろうけれど、名字さんはいつもバレーの試合の応援に来てくれている。スタンドの後ろの方で控えめに、けれどもジッとコートに視線を注いで真剣に応援してくれているのを知ったのは、つい最近になってから。俺を見ているわけじゃないと分かっていても、その綺麗な瞳に一瞬でも俺のことを映してくれていたら良いなあ、などとこっぱずかしいことを思ってしまう程度には、俺は名字さんのことが気になっていた。そう、つまり俺は名字さんのことが好きなのだ。


「木葉〜!春高いけるんだって?」
「まあな」
「すごいじゃん」
「だろー?ワタナベはまた応援きてくれんの?」
「そりゃあ…ね、名前?」
「うん」
「ていうか全国大会だから学校総出で応援行くでしょ」


別に学校総出じゃなくたって良い。いや、木兎のテンションは上がるから応援が多いにこしたことはないけれど、俺個人としてはどっちでも良かった。今回も名字さんが応援に来てくれるならそれだけで。例えそれが、俺を応援するためじゃないとしても構わないから。
(俺の前でだけかもしれないけれど)口数の少ない名字さんは、基本的に俺の席の近くでニコニコと笑っているだけだ。けれどもそんな穏やかな空気がやっぱり癒されるなあと、無意識のうちに見つめていたせいだろうか。ふと俺の方を見てきた名字さんと目が合った。が、それは1秒にも満たないほど一瞬のこと。名字さんは俺と視線が交わったと同時に、俺の席から逃げるように離れて行ってしまったのだ。
あれ?俺ってもしかして嫌われてる?と、今の名字さんの行動を見て落胆する俺に、どしたの?と能天気に声をかけてきたワタナベの発言は軽くスルー…しようと思ったのだけれど。


「木葉ってバレー馬鹿?」
「は?なんで?」
「バレー以外のことに興味ないのかなと思って」
「例えば?」
「恋愛とか」
「大きなお世話だっつーの」
「そんな身形してるくせに鈍感なんだから…」


身形は関係ないだろ!と言い返そうとしたけれど、鈍感、という単語に思考が一旦ストップする。そして考えること数秒。あら?まさかコイツ俺のこと…?という視線を注いでみれば、何か勘違いしてるでしょ、と睨まれてしまった。何だよ違うのかよ。じゃあ鈍感ってどういう意味だ?首を傾げる俺にワタナベは溜息を吐いて。


「言っとくけど、私はバレーとか全然興味ないから応援なんて本当は行きたくないんだからね」
「はあ?そんなこと言って毎回来てんじゃん」
「誰かさんから付いて来てってお願いされるんだから仕方ないでしょ」
「誰かさん?」


あとは自分で考えなよ、と無責任なことを言い残して自分の席に戻って行くワタナベの言葉を何度も頭の中でリピートしてみる。俺が都合の良いように考えすぎなだけかもしれないけれど、夢見がちなのかもしれないけれど、でも、もしかしたらもしかするのだろうか。
名字さんの席の方へ視線を向けてみる。けれども俺の席からは名字さんの後姿しか見えなくて、どんな表情をしているのかは分からなかった。


◇ ◇ ◇



ずっと気になっている人がいる。3年生になってから漸く同じクラスになることができたその人は、私の友達であるよっちゃんと仲が良い。というのも、よっちゃんとその人は3年間同じクラスなのだ。なんとも羨ましい。よっちゃんと話している時のその人はすごく楽しそうで、いつも笑っている。私はその姿をよっちゃんの隣で眺めているだけで幸せだった。
たぶんその人は、木葉君は、よっちゃんのことが好きなんじゃないかと思う。明るくて社交的で物怖じしない性格のよっちゃんは、見た目も可愛くて私とは大違い。そりゃあ木葉君だって好きになるだろう。仕方ない。仕方ない。そうやって何度も自分に言い聞かせてきた。けれども、どうやったって好きという気持ちは消すことができなくて、私はよっちゃんに頼み込んで毎回バレー部の試合の応援に行っている。木葉君からしてみたら、よっちゃんが毎回応援に来てくれているわけだから嬉しいはずだ。
初めてバレーをしている木葉君を見た時、一目惚れした。他の選手だってみんなカッコよかったけれど、なぜか私の目に映っていたのは木葉君だけ。特別大活躍!ってわけじゃなかったかもしれないけれど、私にとっては木葉君が誰よりも輝いて見えたのだ。
そんな木葉君と、初めて目が合った。たまたまだと思うけれど、ほんの一瞬。私はたったそれだけのことで舞い上がって、顔が熱くなるのを感じた。ここにいたらダメだ。目が合ったぐらいで顔を赤くさせる女なんてドン引きされてしまう。私は慌てて自分の席に戻って俯きがちに次の授業の準備を始めた。
急に席に戻ったりしたから、木葉君は気分を害してしまっただろうか。もしかしたら嫌われてしまったかもしれない。そもそも嫌われるレベルにまで達しているかどうかも分からないけれど、私の頭の中はネガティブな考えのオンパレードだった。
そんなことがあった日の翌日の昼休み。いつものようによっちゃんとお昼ご飯を食べようと机の上にお弁当を出したところで、思わぬ事態が発生した。名字さん、と。なんと、あの木葉君が私に話しかけてきたのだ。今までよっちゃんが一緒にいる時しか話したことがないというのに、これは一体どうしたことだろうか。パニック状態ではあるけれど無視することは絶対にできないので、私はとりあえず、何でしょうか、とロボットのような返事をする。


「名字さんってバレー好きなの?」
「え?えっと…そんなに詳しくはない…です…」
「それなのに毎回応援来てくれてんだ?」
「それは…よっちゃんが……」
「ワタナベは誰かさんの付き合いで行ってるだけだって言ってたけど」


よっちゃんの裏切り者!そんなこと言っちゃったらバレーに詳しくもないくせに毎回試合の応援に行っている私が変質者みたいじゃないか。…いや、あながち間違いでもないというか…ストーカーみたいなことをしているなとは思っていたけれど。
何も言い返せない私は俯いてお弁当箱を見つめることしかできない。これは完全に不審がられるパターンだ。どうしよう。よっちゃん、助けてくれないかな。祈ってはみたけれど、そう簡単に祈りが届くわけもなく。私と木葉君の間には気不味い沈黙が流れる。
もう逃げ出してしまいたい。そう思った時だった。私の机の前に立っていた木葉君が跪んだかと思うと、机の上に腕を置き、私の顔を覗き込んできたではないか。これで視線が交わるのは2回目。でも今回は目を逸らすことはできても、逃げることはできない。


「誰かお目当てのヤツがいるとか?」
「いや、あの、そういう、わけじゃ…」
「違うの?」


ちらり。ほんの少しでも木葉君の目を見たのがいけなかった。切れ長の目が更に細められて、今まで見たことのないようなちょっぴり意地悪そうな表情を浮かべている木葉君を前にして平然と嘘を吐けるほど、私は演技派ではない。
違わないです…と。観念して暴露すれば、案の定、それって誰?という質問をされてしまい万事休す。失礼を承知で適当に他の人の名前を出そうと思ったけれど、焦りすぎているからだろうか。こんな時に限って、木葉君以外のバレー部の人の名前がちっとも出てこない。


「もしかして俺だったりして」
「えっ!?」
「名字さんってこんなに分かりやすい反応する子だったんだ」
「あの、ちが、いや、違わないんだけど、あっ、違う違う!」
「違ったら困る」
「…へ?」


焦りのあまり自分でも何を言っているのか分からなくなっていた時に、木葉君の静かな一言が私を瞬時に冷静にさせた。逸らし続けていた目を思い切って木葉君に向ければ、ニィ、と上がる口角。あ、無理。刺激が強すぎる。
もう降参と言わんばかりにお弁当を抱きかかえながら机に突っ伏せば、トドメの一言が頭上から降ってきた。俺以外の奴は見ないでね、って。そんなこと言われなくても、私は最初から木葉君しか見えてないよ。