×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

恋愛説明書、つくります


※天童視点


鈍感な男女をどうやってカップルとして成立させるか。俺は、いや、俺を含むバレー部員は、最近それで頭を悩ませている。
その男女というのが、うちのバレー部のキャプテンとマネージャー。キャプテンである若利君はバレー馬鹿だから恋愛なんて興味がない…というより、恋愛って何それ美味しいの?ぐらいの人間だと思っていた(いや、本当に)。だからマネージャーちゃんへ思いを寄せていることに気付いた時は驚きとともに感動してしまった。若利君に、バレー以外に好意を抱く対象ができる日が来るなんて…と。
しかし喜んでばかりもいられなかった。なんと恋愛初心者すぎる若利君は、それが恋愛感情だということに気付いていないようなのだ。


「若利君、名前ちゃんのことどう思う?」
「…急にどうした」
「いや、最近の若利君は名前ちゃんに優しいなーと思って!特別な感情があるのかなーって気になっちゃってさー!」
「そうか…?特に意識はしていなかったが…」
「いいよいいよ、そういうもんだよ!自然と優しくしたくなっちゃうもんなんだよねー分かる分かる!で?どう思ってるの?」
「よく働いてくれて助かっている」
「うんうん、それでそれで?」
「……たまに危なっかしくて放っておけない」
「なるほどなるほど!それで?」
「……………それだけだが」


つい先日、食堂で昼食を取りながら行われた会話が以上である。
いやいや嘘でしょ!健全な高校生男子だったら気付くよ!それはマネージャーの名前ちゃんが好きなんだって!
俺は若利君の発言に絶句して、若利君は不思議そうな顔をしてハヤシライスを食べていた。
若利君は名前ちゃんが重いものを持っていたら必ず助けに行くし、高い所にあるものを取ろうとしている時も自分が取ってあげてるし、部活の帰り道は暗くて危ないからと言って毎日家まで送り届けてあげている。
ね?分かるよね?普通、なんとも思ってない女の子を毎日家まで送り届けないでしょ!
あまりにも分かりやす過ぎて、俺だけではなくバレー部員は若利君以外全員(工は微妙かもしれないけど)名前ちゃんへの気持ちに気付いている。
そして若利君も大問題だけど名前ちゃんの方も問題で、そんな分かりやすい若利君からのアプローチを受けているにもかかわらず、その優しさの対象は自分だけではないと思っているようなのだ。
名前ちゃんも若利君のことを好きだと思っている。それは間違いない。牛島君は誰にでも優しいから私が特別なわけじゃないよ、とかなんとか言いながら少し寂しそうだったのは気のせいなんかじゃない。ちなみに名前ちゃんの気持ちも若利君以外のバレー部員(工は以下略)は気付いている。
なんというミステリー。当事者達だけが両想いであることに気付いていないのだ。全く、世話の焼ける2人である。

そんな2人を見守り続けること数週間。勿論、何の進展もない。当たり前だ、お互いに膠着状態なのだから。
これはもう、俺が(そしてバレー部員達が)キューピッドになるよりほか選択肢はない。まずは若利君に自分の気持ちに気付いてもらって、それから告白させよう。
字面にすると至極シンプルなことだが、これほど難しいミッションもそうそうないと思う。なんせ相手は若利君だ。どう説明すれば分かってもらえるだろう。
俺は部活終わりにシャワーを浴びて着替えをしている若利君に声をかけた。


「ねぇねぇ若利君。名前ちゃんのことなんだけどさ」
「どうした」
「もし、もしもなんだけど、名前ちゃんに彼氏ができたらどうする?」
「…カレシ………」


あ、やばい、フリーズしてるっぽい。
暫く沈黙が続く。部室にいる部員は全員若利君の言葉を待っているようでひどく静かだ。


「…それは困る」
「…!なんでなんで?なんでそう思うの?」
「それが分からない」
「……。理由、教えてあげよっか?」
「分かるのか」
「うん、分かるよ。それはね、若利君。若利君が名前ちゃんに恋してるからだよ」
「…………………コイ…?」


あまりにも鈍感だからストレートに教えてあげたのに、若利君の反応は芳しくない。
もしかして恋って変換できてない?まさか鯉とかに変換してないよね?
再び訪れた静寂。静寂の分だけ不安が大きくなっていく。と、その時、若利君が口を開いた。


「そうか…俺は名字のことが好きだったのか…」
「…!そう!そうだよ若利君!やっと気付いてくれた?」
「天童は気付いていたのか」
「だってバレバレだもん。若利君は気付いてないかもしれないけど、名前ちゃんと他の男子が話してる時、俺のものに近付くなオーラが凄いから!」
「…そうか……?」
「うん。でさ、若利君。名前ちゃんが他の人のものになっちゃ困るでしょ?さっき困るって言ったよね?」
「ああ」
「じゃあ、告白しに行こう!」
「告白…」


若利君が微妙な反応をした時、部室の扉が控えめにノックされた。どうぞーと返事すると、そこにはなんともグッドタイミングなことに名前ちゃんがいた。この機を逃すわけにはいかない。
俺は他の部員達を急いで部室から追い出し(部員達も協力的で助かった)、自分も部室を飛び出る。その際、部室前で立ち竦んでいる名前ちゃんを部室の中に押し込むのも忘れない。さて、強引に2人きりにさせてみたけれど、若利君はうまく告白できるだろうか。
物音をたてないように部室の窓からこっそり中の様子を窺うと、何事かと慌てふためいている名前ちゃんの姿が見えた。若利君は茫然と突っ立っている。バレーしてる時の機敏な動きはどこに行ったの!


「名字」
「あ、はい、」
「伝えたいことがある」
「…!な、なんでしょうか…」


俺の思いが通じたのか、若利君が話を切り出した。
緊張のせいなのか名前ちゃんが敬語なのは気になるけど、いいぞ若利君!その調子で頑張って!


「俺はお前のことが好きらしい」
「なっ…、え、あの…それはどういう意味で…?」
「どういう意味?」


おや。おかしな空気になってるぞ。
若利君は何やら考え込みだしたし、そんな若利君を見た名前ちゃんは不安そうな顔してるし。ていうか名前ちゃん、私も好き!って言ってあげてよ!ややこしいことになってるじゃん!


「どういう意味かは分からない。ただ、名字に俺以外のカレシができるのは嫌だと思った」
「…!う、牛島君…それは、その…つまり、告白…してくれてるってことで良いのかな…?」
「?そうだが」
「!そっ、そっか!…ありがとう。私も牛島君のこと、好きだよ…」


やったー!こんなにめでたいことがあるだろうか。あんなに鈍感だった2人が両想いになったのだ。俺の後ろでこっそり様子を窺っていた部員達も大喜びである(工も喜んでいるから2人の思いには気付いていたようだ。工ごめん)。
俺達は、おめでとー!と言いながら部室になだれ込んだ。驚きと気恥ずかしさを含んだ表情の名前ちゃんと、いつもと変わりない若利君。そういえば告白する時も恥ずかしそうな素振りは見せていなかったし、若利君ってやっぱり怪物だよね。
これでめでたくカップル誕生だねー!と騒ぐ俺達。
しかし喜んだのも束の間。若利君の次の一言で部室内は凍りついた。


「カップルとは何だ?」
「えっ…若利君と名前ちゃん、付き合うんでしょ?彼氏と彼女なんでしょ?カップルじゃん」
「付き合うとは、なんだ。どうすればいい」
「えー……」


付き合うことになりました、めでたしめでたし。そんな展開を期待した俺が馬鹿でした。恋愛初心者の若利君にはまだまだ俺のサポートが必要だね!
名前ちゃんに、俺が色々若利君にレクチャーするから覚悟しといてね、とこっそり耳打ちすると、嬉しいような困惑したような複雑な表情をされた。若利君はそんな俺を怪訝そうな顔で見ている。
はいはい、名前ちゃんは若利君のものだもんね。近付いてごめんなさい。なんだかんだでラブラブなんだから。この世話の焼けるカップルめ!