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三日間戦争、延長します


私は3日ほど前から、とある人物を避け続けている。その人物とは、同じ学年の宮侑。バレー部のマネージャーをしている私は、彼のことをよく知っている。
2年生にして全国レベルの強豪校のレギュラーメンバーであり、高校生ナンバーワンセッターとの呼び声も高い彼は、いつも飄々としていて掴みどころがない。愛想はいい方かもしれないが、笑顔の裏では何を考えているのか分からない。そんな、ちょっとミステリアスな男の子だ。
彼との関わりは部活の時だけで、それ以外の時に交流したことは一度もない。綺麗にトスを上げている姿を見て、カッコいいなあと思ったことは何度かあるが、だからと言って好きとか、そういう色気付いた感情を抱くことは全くなかった。
そんな私達の関係に変化があったのは3日前。部員達が部室に行ってしまった後、体育館で1人備品の後片付けをしている私の元にやって来た彼は、それはそれは自然に。息をするのと同じぐらい何でもないことのように。


「名字のこと好きなんやけど。俺と付き合わへん?」


突然、そう言ってきたのだ。それが告白だと分からないほど、鈍感でもなければ馬鹿でもない私は、完全にフェードアウトしてしまった。
好きだなんて言われたのが初めてだったというのもあるけれど、何より、これまで部活以外で関わったことのない彼に好意を持たれているということが信じられなくて。私は混乱しすぎて、何の返事もしないまま体育館を飛び出してしまったのだ。
もしまた彼と2人きりになってしまったら、返事を催促されるのは目に見えている。ついでに、逃げたことを咎められるに違いない。それが怖くて、私は彼から逃げ続けているというわけだ。
幸いにもクラスは違うので学校生活で会うことはほぼない。部活の時も、基本的には周りに誰かがいてくれるので不用意に近付いてこられることはないし、他の部員達に悟られない程度に彼から距離を取っていれば2人きりになることは回避できる。部活終わりも、体育館で1人にならないように、他の部員達がいる間にせっせと仕事を終わらせて早々に帰るようにした。
今日もそうやって、うまく彼を避けることができる…はず、だった、のに。私は今、暗い体育館倉庫内に、彼…宮侑と2人きりになっている。この3日間、細心の注意を払って過ごしてきたというのに、今日は油断してしまった。部員達は部室に行ってしまったらしく、体育館の方からは話し声すら聞こえない。これは非常にまずい。
倉庫の入り口側からゆっくりと私に近付いてくる宮君の顔は逆光でよく見えないけれど、その雰囲気は明らかに威圧的で、これで本当に私のことが好きなのか?と疑ってしまう。元はと言えば逃げた私がいけないのだから怒られたって仕方ないのかもしれないけれど、急に告白してきた宮君にだって少しは責任があると思う。
じりじり、ぴたり。とうとう私の背中には冷たいコンクリートがひやりと当たって、逃げ場を失ってしまったことを悟る。せめてもの抵抗で視線を合わせないように俯いていると、宮君の声が頭上から降ってきた。


「なんで逃げたん?」
「…あの、ごめん……びっくりして…つい…」
「この3日間、よぉ避け続けてくれたなァ?」
「それもその…ごめんなさい…」
「……まあええわ」


意外にもあっさりと許してもらえたことに拍子抜けしたものの、ほんの少しだけ緊張の糸が緩む。が、問題はここからだ。告白の返事をしなければならない。
私だってこの3日間、必死に考えた。宮君のことを考えすぎて頭がパンクするんじゃないかってほど考えた。部活中、こっそり宮君ばっかり見ていたし、授業中だってご飯の時だって寝る前だって、暇さえあれば宮君のことを思い浮かべていた。けれど、考えても考えても、答えは見つからなかった。
好きってなんだろう。どういう感情が好きに繋がるのだろう。それが分からなかった。


「で?返事、きかせてくれへんの?」
「色々考えた…けど…うーん…」
「この3日間、俺のことで頭いっぱいやったやろ?」


その問いかけに、私は思わず顔を上げる。逆光でも表情が分かるほど近い位置に宮君の顔があって驚いたけれど、その表情に心臓がどくんと跳ねる。口角を上げて私を見つめている宮君は、同い年とは思えないほど妖艶で。私は、こくんと、首を縦に振ることしかできなかった。


「この状況でも、何とも思わへん?」
「それは…そりゃあ、近いし、ドキドキはする、けど…」
「嫌やないんや?」


はて。嫌とは。私は宮君を見つめたまま固まった。ドキドキはしている。それは間違いない。けれど、嫌かときかれたらそれは違う。もしもこんなことを他の人にされたら?私は、迷わず大声で助けを呼んで逃げることに必死になっていただろう。そうしないということは、つまり、宮君だけは特別ということで。あれ?特別ってなんだろう。
宮君に質問されるたびに頭がどんどん混乱していく。戸惑いが表情に出ていたのか、宮君は私を見つめたままふっと笑って、元々近かった距離を更に縮めてきた。どくんどくん。心臓の鼓動が速くなる。


「素直になりや…名前チャン?」
「素直になれって言われても……無理……」
「はぁ〜……頑固やなぁ…手強いわぁ」


私の返事を聞いた途端、宮君はわざとらしく大きな溜息を吐いて私から離れた。それが良かったような悪かったような、複雑な心境に見舞われる。
先ほどよりも随分離れた位置にある宮君の顔は、なぜか楽しそうで。私、ちゃんと返事してないのに良いのかな?と思ってしまった。


「絶対俺のこと好きって言わせたるから、覚悟しときや?」
「え、」


宮君はニヤリと笑ってから私の頭をくしゃりと撫でると、何事もなかったかのように倉庫を出て行ってしまった。私は突如、足の力が抜けて、その場にへなへなと座り込む。
どうしよう。宮君に触れられたところだけが異常に熱を帯びているように感じるのは、きっと気のせいなんかじゃない。覚悟しとけって言われたけど、明日からどうなっちゃうんだろう。私、このままじゃ死んじゃうかも。
胸のドキドキが止まらなくて、顔も熱い。私がそのドキドキの原因となる感情に気付いたのは、それからもう少し先のこと。宮君の宣戦布告通り、私は見事に負けを認めるしかないのだった。