最近、退屈でたまらない。
たまにやってきた挑戦者は僕を楽しませてくれることなく敗北していって。
そのたびに感情論をぶちまけていって去っていく。
ねぇ、どうしてわからないの?

「…」

そんなことしても自分が弱いということを叫んでいるだけだということに。
強いことがすべてとは思わない。
だけど強さを求めてやってきたのはむしろきみたちのほうなのに。

「…暇だなぁ」

僕に与えられるのは満足感、ではなく虚無感。
降り積もる白い雪を眺めながら、ぽつりと呟く。
そして僕の心にも降り積もっていく。ただ何もない無が。
それが随分と積りに積ってしまっていたんだろう。
平行線がどこなのか、僕はもうわからなくなっていた。

「…」

するとザクザク、と雪を踏みしめる音が聞こえてきて。
今度の挑戦者は強いかなぁ、と心ここにあらずそう思う。
だけど僕の目の前に現れたのは。

「っ…こんなとこに居やがったか」
「…!」
「よぅ、『シロガネ山の最強のトレーナー様』」

数年ぶりに見た、ライバルの姿。
僕を呆れたように、そして緊張感を漂わせて見てくる。

「…グリーン…!」

それに、無が降り積もっていた心が一気に弾け飛んだ。
そして何もなくなったそこにぽつんと現れたのは期待感。

(グリーンならきっと僕のこの心を満足させてくれる)
(グリーンならきっと楽しませてくれる)

純粋なそれはすぐに狂気を帯びていって。
数年ぶりの再会、なんかどうでもよくて。
体は、心は、楽しむことを求めていた。

「グリーン、バトルしよう」
「感動の再会早々それかよ」
「退屈してたんだ。
グリーンは僕のこと、楽しませてくれるよね?」
「…!」

にこ、と笑顔を浮かべてそう言ってみるとグリーンはそんな僕を見て目を細めた。
警戒するような、鋭い目。

「…そんな風に笑うなんて、悪魔っつーのは嘘じゃなさそうだな」
「あくま?」

ちっ、と舌打ちするグリーンに首を傾げる。
でもすぐわかった。
僕がやってきた挑戦者から、去って行った挑戦者からなんて呼ばれてるか知ってる。
『シロガネ山の幽霊』
『シロガネ山の悪魔』
それはどちらも畏怖が込められていて。
バトルで負けた挑戦者が必ず言ってくるのは「悪魔」の一言で。
そんなひどいことしたつもりなんてないのに、そっちのがひどいなぁと思ったりもしたけど、バトルの内容は大抵が殲滅状態だから。
どんなに弱くても、どんなに強くても、容赦なんてない。

「ね、グリーンは強いよね?」

だって手加減なんて、してあげるわけがないじゃないか。
逃げるなんて許さない。
そうしたら僕はまた満足感を得られない。
せっかくの獲物を目の前にして、誰が逃がしてやるとでも?

「…ああ、強いぜ?」
「楽しみだなぁ」

くす、と笑う僕の顔はまるで湾曲のように歪んで。
ただの自己満足だとしても、満たされないものほどつらいものはない。
じわり、じわり、と僕の心を埋め尽くしていく黒いそれが。
それが、狂気だとわかっていても。

「グリーン」

埋め尽くされていくそのかんじがたまらない。

「…っ、ほんと容赦ねーな…っ」

鈍い音がして地面が割れる。地響きがする。
積りに積っていた雪が飛び散っていって。白が灰に、灰が黒くなる。
目に映る、壊れていくものすべてが、楽しい。
愉しい。
たのしい。
たのしい。
たのしい。

「たのしい!」
「…っ、そりゃよかったな」
「ね、ほらもっと僕を本気にさせてよ」
「っ、これで本気じゃねーって言うのかよ。
つーか、バトルの仕方変わったな」
「変わった?」

割れて飛んできた地面の欠片を避けて、グリーンが呆れたように言ってくる。
すでに黒く埋め尽くされた心に響くのは、満足感。
グリーンが呆れたように言ってくるその言葉でさえ、僕を高揚させて仕方がない。

「心がない、やり方だ」

非難するような、僕を見てくるその目。
どこにそんな不満があるとでも?
グリーンも全部解放してしまえばいいのに。
グリーンの台詞に一瞬止まるけど、にこ、と笑みを浮かべると。

「あぁ、そう」

僕の心を埋め尽くしていった狂気が止めどなく溢れてきて、それが僕から零れていきそうだ。
やっぱりグリーンは他のひとたちとは違う。
僕が望むものを、グリーンは持ってる。
もうこうなったら逃がしてあげないから。

(覚悟して)













え?あぁ、そう。



>のーたさん
なぜかヤンデレっぽいのしか浮かんでこなかったのでヤンデレなレッドさんです。
レッドにとって楽しいとか気持ちいいのってバトルに勝つことかなぁと。それが純粋な意味でも違う意味でも。
リク有難うございました。



え?あぁ、そう。/初音ミク



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