意外だった。

「あれが乙女座。
で、あの一番大きくて輝いてるのがスピカ。一等星だ」

グリーンがこんなに星座に詳しいだなんて。

「…一等?」
「明るさの呼び方みたいなもんかな。
それでそのスピカとあっちのうしかい座としし座の三つを繋げると春の大三角形になるってわけだ」
「…」

満天の星空を指さしていろいろ教えてくれるけど、僕にはほとんどわからない。
それに星座を見るよりもグリーンを見て、星座の話をするよりもグリーンと話していたいから。
でも好きなひとと星空の下で過ごすのも悪くないと思う。片想いだけど。

「トキワで見るよりここで見たほうがすげーな!」
「…なにが?」
「星が。なんつーか、手が届きそうなかんじ」
「…」

きらきら輝く星を見上げるグリーンの横顔を見つめる。その横顔はきらきら輝く星と一緒できらきらしていて。
うん、やっぱり好きだ。
いつもはへたれで頼りなかったりもするけど、一応カントー最強のジムリーダーさまだし、意外にこういうロマンチストだし。
グリーンのいろんな表情を見るたび、僕の心の中に彗星が駆けていく。
そしてそれは積り積もって言葉になるんだ。

「すきだよ」

星を見上げるグリーンの横顔を見ながらそう告げる。
好きだった、ちいさいころからずっと。
なんでこのタイミングで言ったかは自分でもわからないけど、でも満天の星空の下にいたら伝えたくなって。

「っ、おれも星、好きだぜ?」
「え?」

でもグリーンから返ってきたのはそんな言葉で。
声色が揺らいでいたから、はぐらかされたと思ってもう一度ちゃんと言おうとすると、グリーンの照れたような気まずそうな表情が目に飛び込んでくる。

「悪い、遅くなったからもう帰るわ」

またな、と言って僕の頭を撫でてくるその手は微かに熱い。

「…」

グリーンにはとっくの昔にバレていたんだと思う。
だけどグリーンはそれに気がつかないふりをして、いままで通りでいてくれた。
でも、すきだよ、って言ったんだからもう気がつかないふりはしなくていいのに。
それとも、やっぱり迷惑だった?

「…っ」

グリーンが隣にいるとき、僕の心はずっとグリーンのことばかりで。グリーンを中心に僕の世界が回っている。
だからそんなときに僕の思考回路がしっかり働くわけもなくて。

「じゃあな」

引き止めるような言葉が出ないでその場に立ち尽くしていると、グリーンは僕に手を振って背を向けて行ってしまう。

「…っ」

それでもやっぱり僕の思考回路は震音が響くように波打ってしまって使いものにならない。
すき、ってこんなに苦しいものだったんだ?





「…どれが一等星だっけ…」

ぽつり、と呟くとあの日のように満天の星空を見上げる。
でもあの日みたく隣にグリーンはいなくて。
ひとりで見上げる星空はなんだかいつもよりも輝きがなくて暗い。
たぶん僕の心がそうなんだろう。

「すきだよ」

答えが聞きたい。
でも怖くて聞けない。
いま思えばあの日に聞いていればよかったんだ。
すきだよ、だなんて言ってしまえるなんて普段の自分からは想像もつかない行動を起こしておいて。

「…」

聞きたい。
でも怖い。
もし迷惑だって言われたら?嫌いだって言われたら?
そんなときどうしていいかわからない。
それでも万が一、グリーンも僕と同じ気持ちでいてくれたら。
だって気づいてたのに気づかないふりをずっとしていてくれたから。もしかしたら。
そんなあまい考えが浮かんでは消えていく。

「…グリーン」

こんな切ない夜をあれから一体いくつ過ごしたんだろう。
一筋の光りを求めて暗闇のなかをただ進むみたいなそういう。
でも進まないと明日には繋がらないから。

「…一等星、あれかな…」

一面に瞬く星を見上げながら、正解か不正解かもわからない星を見つめる。
一等星。
瞬く星のなかでひときわ輝く星。
まるでグリーンみたいだ、とため息まじりに思う。

「…春の大三角形は、もうわかんないや」

そしてもう一度ため息をつくと、視線を下ろして地面を見つめた。
星空と違ってただ真っ黒なそれにため息は吸い込まれていく。

「グリーン…」

今まで以上に僕のなかはグリーンでいっぱいで、ぽつりぽつりとその名を想うだけ呟く。
でもそうすればするほど、また僕のなかに彗星が駆けて行って星が積りに積もっていって。

「………グリーン」

すき。すきだよ。好きなんだ。
あさはかな愛じゃ届かないよね。
わかってる。
わかってるけど。

「…っ」

ぎゅうっ、と胸が締め付けられる。
あまく、にがく。

「すき」

会いたくなってぽつりと音を奏でてみれば、それは思いのほか苦しくて。
積りに積った彗星がまるで僕のなかで洪水を起こすかのように、僕から一気に溢れ出してきて。

「…っ」

そして、それがすべて僕のなかから溢れ出してしまった余韻がじんわりとあまく響く。
うん、会いに行こう。
あさはかな愛じゃ届かないんだから。
そして駆け出すと、満天の星空が降り注いでくる。

「…っ」

もしかしたらなにかを失ってしまうかもしれない。大切ななにかを。
それでもいま、グリーンに会いたい。声が聞きたい。答えが聞きたい。
グリーンに出会わなければきっと、ずっとひとりぼっちだった。
二人でいることが楽しいとか嬉しいとか苦しいとか切ないとか。
そういう感情を持つことなんかできなかっただろう。グリーンがいなかったら。
もちろん、グリーンのことがすきだってことも。

「…グリーン…っ」

一緒にいたのに僕から離れてしまって、それでもまた一緒にいたいなんてワガママすぎるかもしれないけど。

「好き、だから」

きらきら輝く星を飛び越えていくから。
彗星のように駆けて行くから。

「っ」

だからね、スピカ。一等星。
そこから僕を照らしていて。
真っ直ぐグリーンのところへいけるように。














SPiCa



>まちさん
あそこは星座とかあるんだろうかと思いつつ書きました…あっても名前が違いそうですよね動物いないし…。
歌がかわいくて少女漫画ちっくなのしか浮かばずすみません。リク有難うございました。



SPiCa/初音ミク



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