ジリリリリリ…
部屋に鳴り響く目覚まし時計を止めると、あくびをしてその時計を見る。
午前6時半。
本日、休日。




「……ねむい」

さっきからあくびが絶えず出るのを隠すこともなく、間抜けな顔してふああと大きな口を開けている。
そりゃあな、昨日もずーっとジム戦がびっしりスケジュール入れられててジムのデスクワークなんざもあっていろいろやって寝たの深夜2時すぎだ。
休日ならもっと寝ていたいとこだけど、あいにく体に染みついたこの日課のようなこれは抜けてくれない。
人捜し。
それはもうだいぶ前からやっているけど見つかることはなくて。
もしかしたらカントーにはいないんじゃないか。
もしかしたら生きてないのかもしれないんじゃないか。
最悪なことも想定してみたりもした。
それでもなんというか勘というか第六感というか、現実的に確証が得られるやり方でない方法で生存を思っている。
というか、あいつ死にそうにねーだろ。

「…くそ…なんでおれが…」

ため息まじりにグレンタウンから見える海を見る。
快晴のおかげで海はいい凪だ。
つーか、人捜しうんぬん関係なく、おれここにしょっちゅう来てるよな…。
まぁ海は好きだし、うん。

「次はセキチクシティにでも行ってみるかな」

特に情報が得られたわけでもないし、次の目的地に向かうべく踵を返す。
人捜し。
それはおれの幼なじみでライバルだった、レッド。
おれに勝ってチャンピオンになったあと、あいつは忽然と姿を消した。
誰にも気付かれず、誰にも何も言わずに。
もともと人見知りなとこもあったし、喜怒哀楽がそれほどはっきりしてるやつでもなかったし、すげー鈍いし天然だし、それでいてバトルは強い。
だから強さを求めてどこか旅に出た、と考えることも出来なくはなかったけれど。
レッドが姿を消すちょっと前ぐらいにセキエイ高原に用があって行ったときにレッドの姿をちらっと見たときがあった。
そのときのレッドはバトルを全然楽しそうにしていなかったし、なによりあの無表情。
喜怒哀楽がそんなにはっきりしてるほうじゃなかったけど、あれは。

(まるでキレイに飾られた細工人形のようで)
(それでいて微笑の欠片もない)

あのときなんで声をかけなかったんだろう、とものすごく後悔した。
声をかけていれば状況が変わったかどうか、と言われたらそれはわからないけれど。でも。

「…元気にしてりゃいいけど」

だからこうして休日でも朝早くから夕暮れまでレッドを捜しているわけなんですが。
それでもこれがちょっとおかしいってことはなんとなくわかってる。
だって幼なじみでライバルだったからって、ここまでする必要はない、とおれのなかのもうひとりのおれが言う。
それもそうだ。それにか弱い女の子じゃないし、そこまで心配する必要はない、とも。
それでももしかしたらあの町に行けばレッドがいるかもしれない、とどこかで思ってしまうわけで。
結局は、気持ち悪いぐらいにレッドを捜してるということになる。

「そういや、最後に女の子とデートしたのいつ以来だっけな…」

グレンタウンのポケセンの前でいちゃいちゃしているカップルを見てそうしみじみと思う。
休日がこれだからデートする暇なんてないし。
あれ、おれ、けっこう切ない青春過ごしてる?
なんだか目頭が熱くなってくるものの、赤い帽子を被っているひとを見るとそっちをぱっと見てしまう。
うわ、これすげー重症だな。

「でも仕方ねーんだよな」

はあああ、と大きくため息をつくとピジョットを出してそらをとぶでセキチクシティへと向かう。
大空を飛びながら真下に見える海面を眺める。
今までいろんなところを捜してきた。
いろんな町にも行ったし森にも洞窟にも。
そして一回行ったところでも今日はいるかもしれない、とかもう一回行ってみたりして。
たくさんの道を進んできたけどレッドはいなくて。
それはまるであみだのようだ。
だけどおれははずればかりにたどり着いてしまっていて。
あたりは一体どこだ。

「……レッド」

レッドに負けたとき、すげー悔しかったのを覚えてる。
他のやつには勝てるのになんでこいつには勝てないんだろうって。
なんでこんなやつに負けたんだろうって。
ぐるぐるぐるぐる何度も考えて考えて、最終的にはレッドだから負けたんだって認めた。
認めるまでにすげー時間かかったけど。
それは苦くて楽しかった、過去の思い出。
だけどレッドはどうなんだろう。

「…おれに勝ってチャンピオンになったときはすげー嬉しそうに笑ってたくせに」

それがなんで、冷え切った氷のような表情で淡々とバトルをしていたんだ。
あの笑顔を知っているからこそ、おれは。

「セキチクシティに居なかったら次どこ行こう…。
いっそシロガネ山あたりでも行ってみるか」

そういやジョウトというかセキエイ高原越えたほうには行ったことなかったし。
そう思いながら前方に見えてきたセキチクシティを眺める。

「…つーか、腹減った」

そこで腹が盛大にぐーっと鳴って、朝ご飯を食べていないことを思い出した。
せっかくの休日なのに、早起きして朝ご飯も食べずにレッドの捜索活動とか。
重症だ、まじで。いろんな意味で。
もしもレッドに会わなければ、もう少しまともだったと思うし。
(休日に早起きして夕暮れまでレッドを捜すなんてことしなかっただろうし)
もしも好きにならなければ、幸せに過ごせたのに。
(休日を思いっきり寝て過ごせていたと思う)
それでも。

(好きになったのは、おれだ)










Holiday



>きここさん
失恋の歌なのかな、とかちょっと思ったりもしたのですが不憫で苦労性でレッドさん好きすぎるグリーンさんしか浮かびませんでした…すみません…。
リク有難うございました。






Holiday/スピッツ



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -