今日は珍しく雲ひとつない快晴で、そんな空をぼーっと見ながらため息をつく。
膝をかかえて座り込み、ポケギアを見つめる。

「…」

ディスプレイにはグリーンの番号。
声が聞きたいなぁと思ってたらグリーンの番号をディスプレイに映し出していて。
でも掛けれるわけがない。
はあ、とため息をついて表示されている画面を戻そうとしたら。

「!」

プルルルル、とコール音。
だけど僕にかかってきたわけじゃなく、それは僕からの発着信音で。
どうやら押すボタンを間違えてグリーンにかけてしまったらしい。
急いで慌てて切るけど、3コールぐらいは鳴ってたような気がする。

「…いや、でもこの時間帯はジム戦だし大丈夫、気付かれない」

まだ時刻は昼すぎ。
自分にそう言い聞かせるように言うと、ポケギアの電源を切ってポケットへと入れる。
ということがあったのが10分ほど前のことで。

「え?」

目の前にはグリーン。
それも全力疾走でもしてきたのか、ぜーはーと肩で息をしている。

「ど、どうしたの?」

薬とかはこないだ持ってきてくれたからしばらくは来るはずないだろうし。というか、なんでそんなに急いで来たの?
なんとか呼吸を整えたグリーンにそう聞いてみると、グリーンは僕をぎろりと睨んできた。

「どうしたの、じゃねーよ!
着信履歴あったから驚いてジム戦放棄でやってきたんだろうが!」
「…え?ええ?!」
「お前から着信あったときって大体腹へって死にかけてるか怪我してるかとかなんかあったときだろ。
だから心配して来てやったんだよ、悪いか」
「…ご、ごめん…」

まさかさっきの着信が理由で来たとは微塵にも思ってなかったので、グリーンからそう告げられてなんだかすごい罪悪感にかられる。
というか僕からの着信=SOSって捉えてるんだ…。
だけど嬉しくないわけがない。ジム戦放棄までして心配して来てくれたなんて。
グリーンのこういうところ、本当に好きだなぁって思う。
それでも。

「ま、何もなくてよかった」
「わざわざごめん…」
「いいって、友達っつーか幼なじみだろ、遠慮すんな」
「……うん」

それは僕が幼なじみだから。
きっと僕が幼なじみじゃなくてただの友達というか知り合いだったら、グリーンはここまでしてはくれないだろう。
グリーンが僕に優しいのは、ちいさい頃からの癖みたいなものだ。
そう、グリーンは僕のことを「幼なじみ」としか見てはいない。

「…グリーンが幼なじみでよかった」
「…それって褒めてんのか?」
「……たぶん?」
「お前な…」

ぽつり、と言い返すとグリーンが怪訝そうに聞いてくるから首を傾げてみる。
それに呆れたようにグリーンがため息をつくから、それを見て口元に緩く笑みを作ってみる。
ああ、やっぱり好きだ。
でも、言えない。今の関係が壊れるのが怖いから。
受け止めてくれる保証はどこにもないし、それに拒否られたらその後僕はどうして生きていけばいいんだろう。
それほどまでに好きだけど、グリーンは幼なじみで友達で。

(こんなに近くにいるのに、きみは遠い)

最初から引かれたままの「幼なじみ」のボーダーラインを、僕は越えれないでいる。

「…でもあんま元気なさそうだな」
「え?」
「なんとなくだけど」

するとグリーンの手が僕の頭へと伸びてきたかと思うと、帽子のうえからよしよしと頭を撫でられた。
それに心がぎゅうっと締め付けられる。
優しい。グリーンは優しい。だけどこの優しさが痛い。
いっそ放っておいてくれたいいのに、と思ったことが何度もある。

「…寝不足」
「はあ?お前…それならうち来るか?
まぁ貸してやってもソファーだけどここよりましだろ」
「……大丈夫」
「だけど…」
「大丈夫」

にこ、と微かに微笑んでみせるとグリーンは僕からぱっと顔をそらして、じゃあちゃんと寝ろよ、と頬を掻きながらそう言ってくれた。

「…」

大丈夫。
まだ大丈夫。
嘘をつくのは得意じゃないけど、こうするほかない。
痛む胸をぎゅっと押さえると、僕はもう一度笑ってみせた。






「…」

なにかあったら連絡しろよ、と言ってグリーンは帰って行った。
結局グリーンに迷惑かけただけで、悪いことしたなぁと思う。
ぼんやりそう思いつつ快晴の空を見上げる。
雲ひとつない真っ青な空。
だけどそれがいまは滲んで見える。

「…っ」

恋がこんなに苦しいものだとは知らなかった。
といっても、恋をしたのはグリーンが最初でたぶん最後だろう。
泣いたらだめ、と自分に言い聞かせるものの涙はコントロール不能でぽろぽろと流れる。
きっと伝えたら楽になれるんだろう。
それが受け入れられても、受け入れられなくても。

「…みっともないなぁ」

ぐず、と鼻を啜る自分を自虐的に笑う。
ずっと好きだった。
出会ったときからずっと僕の世界にはグリーンがいて、それが当たり前だと思ってた。
だから離れてわかった。
グリーンのことが好きだってことに。
そしてそれは再会してからもっとずっと強くなっていった。

「…〜〜…っ…、どうしたら、いい…?」

好き。
すき。
好き。すき。すき。すき。

「…好き」

でも言えない。
言えるわけがない。
真っ青な空にそう呟いてみると、きゅっと唇を噛みしめる。

(どんなに強く思っていても、伝えられない)












こんなに近くで



>ミグさん
レッドさん視点にしたらなんかすごい少女漫画ちっくですみません…。
グリーンも、あいつおれのこと幼なじみとしか思ってねぇとかで好きで言えないでいる両片想いでいてほしいと思いつつ書きました。
リク有難うございました。




こんなに近くで/クリスタルケイ



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