夢を見た。
暗闇のなかを必死で走る夢。
ときどき後ろを振り返っているから、何かに追われているんだろう。
でも何に追われているかわからない。
そして誰かに名前を呼ばれて、僕は目を覚ました。

「レッド」

目を開けてまわりを見渡す。部屋のなかは灯りがついていて、暗闇じゃない。
そして僕はうえから聞こえてくる声に顔をそっちのほうへと向ける。

「寝るなら布団で寝ろよ」

呆れた声でそういうのはグリーンで、どうやら風呂上がりにソファーでうたた寝をしてしまったらしい。
むくり、と僕が上半身を起こすと、空いたそこにグリーンが座る。
だから、隣に座っているグリーンにぎゅっと抱きついた。

「こら、レッド」
「…一緒に寝る」
「はあ?何言っ…、
……」

ぼそっとそう言えば、グリーンが呆れたように声を上げるけどすぐにため息をつくと、僕の頭をよしよしと撫でてくれた。
少し乱暴なそれがいまは心地良い。

「大丈夫だって」

ゆっくりと告げられるそれがじわりと僕の心に染み込んでいく。
何が大丈夫なのか。グリーンは言わないけど、僕にはわかる。

「大丈夫」

そしてもう一度そう言うと、グリーンが僕の髪にちゅっとキスを落とした。
それに胸がぎゅうっとなると、抱きついている腕にぎゅうっと力を込めた。

「…」

僕は10日前、僕よりちいさい子に負けた。
誰に負けるかなんてことは問題じゃなかった。
誰でもよかったんだ。僕をあの場所から引き摺り下ろしてくれるのなら。
だけど、いざ負けてしまうと心は矛盾してしまって行き場をなくしてしまって。
そんな僕をグリーンはつかまえてくれて、「大丈夫」と言ってくれる。
最初はよくわからなくてグリーンにひどくあたったりもしたけど、それでもグリーンは前と変わらずに、いや、前よりも近くで僕に接してくれて「大丈夫」って言ってくれるから。

「…うん」

だから、僕は大丈夫だと強く強く願う。
たとえそれが誤魔化しであっても。

「…グリーン」
「んー?」

抱きついたまま、ぽつりと名前を呼ぶ。

「…僕がもしまたあそこに行ったら、グリーンが僕を引きずり下ろしてよ」
「…」

本当は、誰でもよかったわけじゃない。
グリーンがよかった。
僕がグリーンからあの座を奪ったんだから、だからあそこから引きずり下ろしてくれるならグリーンが。

「…」

それが、そうなることが贖罪になると思ってるから。

「…つーか、チャンピオンロードに行く前におれがいるんだけど?」
「…カントー最強のジムリーダーさま?」
「そういうこと。
気安くチャンピオンロードには行かせねーよ?」

眉間にシワを寄せて怪訝そうな顔で言ってくるグリーンを見上げながら聞くと、グリーンはにやりと笑う。
そして僕の頬をぎゅーっとつねってきた。

「いひゃい」
「かわいい」

ぷっ、と吹き出して笑うグリーンにむっとしつつも、グリーンがわかってそう言ってきたんだと悟る。
だって何年も前のとはいえ、僕のバッジは。

「…」

僕はまたあの場所に行きたい?
孤高の頂点に。
見下ろすしか出来ない高みに。
行きたくない。行きたい?行きたくない。行きたい?行きたい?

行きたい。

「…レッド、すきだよ」
「!」

だから、僕を引きずり下ろして。
そうじゃないと、いつまで経っても僕は。

「……うん」

きみに聞かせてあげられるような、キレイな言葉が見当たらないんだ。












眩暈

(さようなら)



>まゆたさん
歌詞の意味が深くて難しかったので、うわべだけ掬ったみたいな話になってすみません…。
リク有難うございました。






眩暈/鬼束ちひろ



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