「別れよう」 ぽつりとそう言葉が出た。 それにグリーンは驚いた顔をしていたけど、ため息をつくと僕の頭を撫でてきた。 「理由は?」 「…理由がないとだめなの?」 「普通はそうですねー」 呆れた様子のグリーンをじっと見つめる。 理由。 別れたい理由。 理由。 「…」 「…ないんだろう? つーか、別れる気とかねーけどさ」 「…」 「もう悩むなって。 あ、ちょっと出掛けてくるからな」 じっと見つめたまま動かなくなった僕を見てグリーンはもう一度ため息をつくと、バタンと出ていってしまった。 「…」 理由。 確かに何事にも理由はいるだろう。 僕がグリーンと別れたい理由。 別れたい? 別れたいから「別れよう」なんて言葉がでてきたんだろうけど。 理由が出てこない。 「…別れたい…?」 ぽつりとそう呟くとソファーに寝転がる。 そしてクッションに顔を埋める。 「…」 グリーンのことが嫌いになった? ううん、嫌いじゃない。 グリーンと一緒にいるのが嫌になった? ううん、嫌じゃない。 じゃあなんで別れたい? なんでだろう。 理由も思い浮かばないのに別れたい? 「…別れる?」 考えだすとぐるぐるしてしまって、軽い目眩を覚えて僕は目を閉じる。 なんでこんななんだろう。 自分で自分が嫌になることが多すぎる。 自分のもだけど他人の感情を読み取るのが僕は下手だ。 だからグリーンをよく怒らせたり呆れさせたりしてる。 グリーンが与えてくれるものを受けとるのが精一杯で、返すのはもちろんそれをどうしていいか僕にはわからない。 まるで曇り空みたく、どんよりした世界にそれらを置いていって、その積み上がった壁はどれくらいになっただろう。 そしてその壁が塞いでしまった言葉はいくつ転がっているだろう。 「…グリーン…」 むかしみたいに、雲ひとつない快晴な世界とは違う。 「すき」だけで全部回っていた世界とは違う。 苦しい。 何が? 何が苦しい? 「……痛い」 苦しい。痛い。辛い。 きっと雲ひとつない世界にいた僕には想像すら出来なかっただろう。 思い出す日々があまりにも変わってしまって。 こんなにもキレイすぎて眩しすぎて仕方ないだなんて。 本当ならいまもあの頃も変わらないはずなのに。 好きになるのってなんでこんなに難しいんだろう。 だから。 「……だから…?」 だから、別れたい? 「…」 ほんとうに? 「…っ」 ほんとうに、グリーンと別れたい? 「……っ、 違う…!別れ、たくない……っ」 起き上がってソファーにもたれると、ぽろりと涙が頬を伝って落ちていく。 「…っ」 違う。 ちがう。 違う。ちがう。 違う! 別れたくなんかない。 確かにいまはあの頃とは全然違うかもしれないけど。 グリーンが好きだ。 グリーンといるのが好きだ。 全部が全部楽しいことや幸せなことばかりじゃなくても。 グリーンがいるなら、僕は。 好きになるってことが難しくても、グリーンから与えられるものを受け取るのが精一杯でなにひとつ返せてなくても。 「グリーン…っ」 グリーンが、好きだ。 ぐるぐるぐるぐる考えて結局たどり着いたのはそれで。 こんな自分が心底嫌になる。 だってグリーンは僕のために何をしてくれた? 僕のために何を与えてくれた? そんなことさえ忘れてしまって、挙句の果てには「別れたい」だなんて。 僕はいままで何を見てきたのだろう。 何をもらってきたのだろう。 「…っ…、」 それでもグリーンから与えられるものと、僕がグリーンに抱く感情がいつか。 「……グリーン……っ」 割れて消えてしまったら、僕はどうなるのだろう。 「…あーあ、こりゃ明日、目ぇ腫れるだろうな」 ぼそっとそう呟くと、ソファーで寝ているレッドの髪をさらりと梳く。 きっと泣きつかれたんだろう。 最近レッドはこうしてどん底まで落ちるまで落ちて、ブレイカ―が切れるようにことんと眠ることが多くなった。 その原因はたぶん以上におれなんだろうけど。 「…なにがそんなに不安なんだよ?」 おれがレッドを嫌いになるとでも? おれがレッドと一緒にいるのが嫌になるとでも? おれがレッドと別れたいとでも? 「ばかだなぁ」 そんなの、あるわけねーのに。 あるとしたらレッドがおれから離れていくほうだろう。 おれからレッドの手を離すことなんて絶対にないのだと、どうすればレッドは頷いて安心してくれるのだろう。 「レッド」 風に揺られて行く宛などないしゃぼん玉のように、いつかその不安がぱちんと消えてくれますように。 そのためなら、おれは何だってするのに。 「…好きだよ、レッド」 そう言って、眠るレッドの手を握ってやると、レッドの寝顔が微かに笑った気がした。 しゃぼん玉 >ちゃりこさん ネガティブというか女々しいレッドさんですみません…!というか果たして最後が救済されてるかどうかが不明すぎますよね…。 しゃぼん玉を愛に見立てるよりも不安にしてみたのですが、レッドさんは愛がしゃぼん玉みたいと思ってて(好きすぎて大きくなっていつかぱちんと割れる)グリーンは不安がしゃぼん玉だといいなと思ってるかんじです。 リク有難うございました。 しゃぼん玉/大塚愛 |